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イクイノックスのこと.4

四つめになりました。
あと二つほどになりそうです。
思い出語りになりますが、よろしければお付き合いください。

以下、本文

 二〇二二年度の年度代表馬に選出されたイクイノックスですが、一月に行われた年度末表彰の表彰式にて、ドバイシーマクラシックへの出走が発表されました。私は、ローテーションについては同じクラブのアーモンドアイと似たようなものになると思っていましたので、驚きはありませんでした。初の海外遠征とはいえ、日本馬が結果を出しやすい舞台でしたし、ドバイならば力が発揮できると思っておりましたので、特に不安もありませんでした。
 ドバイワールドカップデーまでは少し期間がありましたので、その間にドウデュースやその他有力馬たちのローテーションも発表されていきました。特にドウデュースについては、ドバイシーマクラシックではなくドバイターフを目標にすると発表されましたので、またしてもイクイノックスとの対決はお預けとなり、前哨戦として京都記念に出走し、前々年の年度代表馬エフフォーリアとの対決が実現するということになりましたので、家族一同で京都記念を観戦しに行くことになりました。
 イクイノックスにご執心であった私ですが、エフフォーリアも私を競馬にのめり込ませた思い入れのある馬ですので、ブリンカーを外し、三歳の頃の装身具でまた走るというのを単純に嬉しく思いました。
 レースが始まるとエフフォーリアはかつての前進気勢を感じさせる走りで道中先頭に並びかけていきます。そのまま勝ってしまうのではないか、とも思いましたが、四コーナーを曲がり切る前に失速し、ゴール板を通り過ぎること無く横山武史ジョッキーが下馬。下でRが嬉しそうにドウデュースの勝利を喜んでおりましたが、私は無事に歩いているエフフォーリアを見て不安と少しの安堵に包まれるばかりでした。
 このエフフォーリアの競争生活について、私が関心を向けているのは単に好きであるから、というだけではないのです。私がこの両馬を好きなことには競走成績も関係しているように思うのですが、この馬はイクイノックスと三歳までの成績が酷似しておりまして、イクイノックスの今後についての不安点は、エフフォーリアが陥った古馬戦線での不調から連想されるものでありました。実際、三歳で無理に成績を重ねた馬は古馬になると途端に走らなくなるものだ、というような声もあったと思います。なので、イクイノックスにとって、古馬初戦であるドバイシーマクラシックはその後の評価に関わる大事な一戦だと思っておりました。もちろん、私がそう思っていただけなのですが。
 
 ドウデュースがドバイターフを出走取消になったときのRは本当に落ち込んでいました。私も残念に思いました。ただ、それ以上にイクイノックスがそうならなくて良かったと思っていたのですが。ドバイに到着したときのイクイノックスの映像を見て、少し長距離移動の疲れが出ているのか、後ろ脚の挙動に違和感を感じました。実際、かなり状態は良くなかったと言われておりますし、あながち間違った見方でもなかったと思います。直前の追い切りもあまり良くは見えなかったですから。こういった要素は私をいたく不安にさせました。ただ、イクイノックス陣営は基本的に本番前に目立った動きはさせませんでしたので、心配しても仕方ないと割り切りました。というよりも、これはこれから先何度も思うことなのですが、私が心配したところで何も変わらないし百害あって一理ないのです。
 イクイノックスの出走するレースは出来る限り現地で観戦しようと思っていた私ですが、流石にメイダンまで行くわけにいかなかったので、自宅のテレビにて観戦することにしました。深夜一時過ぎ、レースは始まりました。絶好のスタートを切ったイクイノックスはなんと先頭に立ちました。頭の中に様々な考えが浮かびました。これは作戦だから大丈夫、押し出されて前に行ってしまった、ルメール騎手が失敗してしまった、などですが、私は何もまともに考えられませんでした。先頭でレースを進めたイクイノックスが、素晴らしい手応えのまま四コーナーを曲がり切り、後続をぐんぐんと突き放し、ノーステッキで圧勝してしまったのです。
 イクイノックスは現役最強馬だと思っていましたし、このレースに関しても勝利は固いだろうと思ってはいた私ですが、ここまでの圧勝劇は想像しておりませんでした。ほとんどの人がそうだとは思いますが、レース後何も言葉が出ませんでしたし、この勝ち方にも関わらずコースレコードが出ているというのですから、時間帯も相まって何かおかしな夢でも見ているのかと思ったくらいでした。
 これによってイクイノックスは、(書き方は悪いですが)エフフォーリアのように古馬になってから振るわなくなってしまうという懸念は払拭され、それどころかレーティングで世界一位の評価を受けることになるのでした。前回も書いたのですが、私からすればもうすでに望む戦績にはなってくれていたわけですから、この先はどれだけ伸ばせるか、という段階にあったのですけれど、このレースを見てしまっては、これ以上を望んでしまうというものです。と言っても、凱旋門賞を勝つことや、最強のまま現役を終えること、世界一位という評価を維持することくらいなものではあったのですが。

 イクイノックスは世界一位という評価を受けたので、その評価を証明する、という段階に入ってまいりました。次走は宝塚記念という発表がなされましたので、そこでドウデュースとの対決が実現するものかと思われたのですが、ドウデュースは回避することになり、タイトルホルダーも天皇賞・春での故障から回避となっておりましたので、宝塚記念はほとんど一強の様相となりました。まあそもそも居てもオッズとしては、一強だったとは思いますが。
 私はイクイノックスの出走するレースは全て現地で観戦すると決めておりましたので、当然宝塚記念も観戦しに行ったのですが、私はこの宝塚記念が最も不安に思いました。というよりも、今になって思えば、この宝塚記念が、(メンバーレベルとしては最もライバルのいないレースだったと思うのですが)最もイクイノックスが勝つ自信のないレースでありました。よく言われていたことではありますが、父キタサンブラックが唯一勝てなかった国内の中長距離G1だということ、イクイノックスにとって小回りの右回りコースは(相対的にですが)苦手であるという印象、それから、青鹿毛の競走馬が宝塚記念を勝利したことがない、というのは、暑さの影響があるという事も言われておりましたので、ジンクス的にも、適正的にも、このレースこそ超えるべき山であるというふうに考えておりました。(と言っても、私にできることなどなにもないのですが。)
 宝塚記念の観戦は一人で行くことになりました。ドウデュースは出走しませんし、その時節フットワークが軽いのが私くらいだったというのもあります。私はこの年の日本ダービーも見に行ったのですが、キタサンブラック産駒の二頭を馬券的にも応援していたこともあり、正直言ってショックのほうが大きかったレースでしたので、ここでまたそううまくはいかないと現実を突き付けられていたわけです。なので、阪神競馬場についた私は吐きそうになりながら、指定席も取っておりませんでしたので、外に座れそうな場所を見つけてまたメインレースまで顔を埋めておりました。
 パドックに入ってきたイクイノックスの状態はいつも通り、といった様子で、特に変わったところはなかったのですが、なんというか迫力が欠けているように感じられました。馬場入りしてからも特に不調の兆しなどはなかったのですが、やはり不安からくるものなのか、あまり良くは見えなかったのです。蓋を開けてみれば、大外一気での快勝だったのですが、私は、もうイクイノックスは先行して競馬する馬であると思ったていたので、スタートから後方に控えたときには肝を冷やしました。向正面で位置を上げていったところで周りがどっと沸き立ち、差し切った瞬間盛大な拍手が巻き起るという光景を見て、皆がこの馬の勝利を望んでいるのだ、と他人事ながら嬉しく思いました。
 
 イクイノックスはG1四連勝を達成し、父キタサンブラックが勝つことができなかった宝塚記念を制し、グランプリ連覇を成し遂げることとなりました。疲れたので私はすぐにホテルへと向かい、一人笑みを浮かべながら様々な媒体に目を通しました。私はふと我に返り、何故競走馬の勝敗に一喜一憂しているのか、とも思いました。それほどまでに嬉しかったのですが、私には全くと言っていいほど関係のないことなのですから、不思議なものだと思います。


次回で「イクイノックスのこと」
は終わりになると思います。
ただ、まとめて何か書くかもしれません。
それでは。


 


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