イカツリー物語
私は東京に旅行に行った。
スカイツリーを観に行ったのだ。
道行く外国人観光客に声を掛けられた時に慌てて逃げ出したのだ。
なんで逃げ出したのかって?
それは勘が良い人ならわかると思うが、私は英語が苦手だ。
私は佐賀県出身のイカツリーだ。幼い頃から呼子で育ち、夏には仲間と一緒にサーフィンを楽しんでいた。
私の仲間にタコツリーがいる。
彼とはサーフィンをしたり、釣りをして、新鮮な魚を料理しては食べたりしていた。
そんなある日、いつものようにタコツリーとサーフィンをしていた。
その日は高波注意報が出ていて、サーフィンをしてはいけない日であったにも関わらず、私達はそれを軽視してサーフィンをしていた。
タコツリーはいつもと違い興奮した様子で、高波を持っていた。
「今日は最高のサーフィンができそうだ。」
そう言って彼は高波の中へ消えていった。
「タコツリーーーッ」
私の叫び声もタコツリーには届かず、沿岸にいる小さな姿のタコの人は海の中に沈んでいった。
(タコツリーが海で溺れている。)
私はタコツリーがタコであることを忘れていた。
「早く助けを呼びに行かなければ。」
と焦る私の中から天の声が聴こえてきた。
「ヒー、ダズント、ニード、ヘルプ」
(なんで英語?英語はわからん)
私は英語が苦手だ。
そこから逃げ出したくなった。
しかし、そこは耐えた。
もう一度、天の声を聞こうとして目を閉じた。
すると、不思議と天の声が聞こえてきたのだ。
「カレハ、タコ、ダカラ、タスケ、ハ、イラナイヨ」
(なんで今度は、カタコトの日本語なんだ?)
「そうか!彼はタコだから助けはいらないのか。」
私は天の声のおかげで、タコツリーに助けがいらないことを思い出した。
「タコツリーは溺れることはない。」
そう確信した私は彼を助けることなく、その場を去った。
それ以来、私は彼の姿を見ていない。
私が15才だった頃の話をしよう。
15才だった私が嫌いだった授業は・・
そうだ、英語だ。
あなたは察しがいい。
とにかく英語が大の苦手だった。
高校受験に英語があることを中学3年生の時に知らされた時には、高校に進学するかどうか悩んだくらいだ。それでも私は負けなかった。
そこに英語があろうとも、タコが消えようとも、高校にいくことが目標だった私には関係なかった。
英語は0点でも他の教科で点数を取れば、高校には合格することができる。
だから、夏休みは今までにないくらい必死に勉強をした。
朝6時に起きて、2時間かけて、朝ごはんを食べ、それから1時間のティータイムが始まり、毎朝欠かさずテレビゲームを3時間し、お昼はしっかり食べて、「さて、始めるか。」と思い机に座るがお昼ご飯の食べすぎが原因で睡魔に襲われる。
「あーっ。だめだ。眠たい。」
私は必死に闘っている。
高校に合格するために負けられない戦いがそこにある。私は負けない。睡魔には負けない。
そう思っていたが、気付いたときには、時計は夕方6時だった。
「今から夜ご飯を食べないと。」
そうではないだろう。
イカツリーよ。
1時から5時間昼寝をして全く勉強が進んでいないではないか。
夜ご飯を食べてから頑張ろう。
夜ご飯を食べ終わり、なんとなくテレビを付けると、見たいテレビの特別番組が放送されていた。
「これは見ないと。」
そう思ってダラダラとテレビを見ていると、夜9時になっていた。
「もう寝る時間だ。」
風呂に入り、齒を磨いて布団に入ることにした。
「ん?何か忘れている。犬に餌を与えることか?いや、違う。そうだ、肝心の勉強をしていないことだ。」
そんな日々が私の夏休みだった。
実は夏休みに今までにないくらい必死に勉強をしたという話は、まるっきし嘘であった。
どうやら、タコツリーが高波に消えた話も嘘である。
タコツリーは高波に襲われることなく、私と一緒の高校に通っている。東京旅行で外国人観光客から話しかけられた時に、一緒に逃げ出した仲だ。
私達は英語が苦手だ。
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