早鐘




不安が
開けることを後回しにした封筒のように
意識を埋め続けている。

印象はミリ単位で精査され、
僕の内側の収縮は、外側の1mmを変えることに十分間に合ったらしい。

顔貌は大きく変わらないままに、
何か本質のような輝きが失われてしまった。
いびつにへこんだ鈍い銀色のそれは、どうやら自信だったものらしい。

井伏鱒二の『山椒魚』

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 彼は 彼自身の背中やしっぽや腹に
 ついにこけが生えてしまったと信じた
 彼は深い嘆息をもらしたが
 あたかも一つの決心がついたかのごとく つぶやいた
 「いよいよ出られないというならば
 おれにも相当な考えがあるんだ」
 しかし彼に 何一つとし
 うまい考えがある道理はなかったのである
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あったような責任を押し込まれた腹は
ギリギリと音をたて、吸いこめる息の量を狭める。
無くしたというものを取り返させようとする他人と、
無かったものを押し込まれる僕

平行線は水面となって僕の下顎をパタパタと鳴らし
いっそ沈んでしまったほうが身のためだとすら思わせる。

あとは力を抜くだけだが、それにもどうやら力がいるらしい。

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