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Cakewalkの「アップサンプリング機能」を使って折り返しノイズを減らそう
高サンプリングレートのプロジェクトで作業する意義
DAWプロジェクトのサンプリングレート(以下SRとします)を高くする意義については、Studio Gyokimaeさんの記事が勉強になります。
プラグインエフェクト使用をした際、ナイキスト周波数を超える倍音が折り返しノイズとして可聴域に降りてくる。これを低減するために、高SRでの処理が有効ということです。
「最終フォーマットがCD規格の44.1kHzだとしても、96khzやそれ以上のSRで作業した方が最終的な音質が良い」と言われている大きな要因はこれではないでしょうか。CDに収録できないような可聴域外の超高音をリスナーに届けるためではありません。(ハイレゾフォーマットならそういうことも可能ですが)
ただこれはあくまで環境の整っているプロだからできる話。我々趣味レベルのアマチュアが何も考えずに真似をすると、PCの処理能力が追いつかなくて地獄をみます。僕は一度48kHz/24bitのプロジェクトで録音/ミックスを試してみましたが、これですらマシンスペックが足りず、動作が不安定になり制作が苦痛でした。88.2kHzとか96kHzとか考えられません。現在は録音からミックスまで44.1kHz/16bitで行っています。
このプロジェクト設定のままで、可能な限りエイリアスノイズを減らすにはどうしたら良いでしょうか。
プラグインの機能としてのオーバーサンプリング
これを解決するのがオーバーサンプリング(以下OSとします)技術です。UAD、Fabfilter、IK Multimediaなど、最近のプラグインの中には、OSに対応しているものが数多くあります。オン/オフをボタンひとつで切り替えられたり、何倍までOSするかを設定できるものもあります。
44.1kHzのプロジェクトで2倍のOSを適用すれば、88.2kHzのプロジェクトで作業した場合と同程度の処理が行えますまので、相応に折り返しノイズを減らすことができます。特にサーチュレーターやアナログモデリング系のように、倍音を付加する類のプラグインを使う場合は大きな影響があります。
これらは、エフェクト処理の前段階で入力音声を高SRにアップコンバートすることで、ナイキスト周波数(つまり「天井」)を高くし、折返しノイズを超高域に追いやります。そしてエフェクト処理最終段で20kHz付近のローパスフィルタを入れることで、超高域のノイズを削ってから、元のプロジェクトのSRにダウンコンバートしている、というのが私の理解です。
プロジェクト全体を高SRにすると非常にPCにの負荷が高くなるため、特定のプラグインの演算時にだけ、高サンプルレートで処理することで、負荷と音質の両立を目指しているわけですね。(もちろん元々高SRのプロジェクトでOS対応のプラグインを使えば、さらに精密な処理ができます)
Cakewalkの機能としてのオーバーサンプリング
ではオーバーサンプリングに対応していないプラグインを44.1kHzのプロジェクトで使用する際は、折返しノイズを甘んじて受け入れるしかないのでしょうか?
実は無料DAWのCakewalkでは、DAW側の機能として、各種プラグインにOS処理をさせることができます。(Cakewalk内では「アップサンプリング」という単語が使われています。)
まず、適用したいプラグインのウィンドウ左上の「FX」ボタンをクリックして、「レンダリング時にアップサンプリングする」にチェックを入れます。このチェック状況はプラグインごとに自動的に保存されるので、折り返しノイズが気になる特定のプラグインだけOSするということが可能です。
(見ての通り、再生時にもアップサンプリングすることが可能です)
そして、プロジェクト全体の「プラグインのアップサンプリング処理を有効」にします。「2x」のボタンが青色になっていればOKです。これがオフの状態だとOSされません。通常はオンにしておいて、
これで、プロジェクトSRの2倍、44.1kHzのプロジェクトであれば88.2kHzになるようにOSが行われます。Cakewalkのデフォルト設定では2倍ですが、設定をいじれば最大384kHzまでOSできるとのことです。(やり方はこちら)
なお、他のDAWに同様の機能があるかどうか、少しググった限りではわかりませんでした。少なくともCubaseのマニュアルにそれらしい記述は見つかりませんでした。Cakewalkには何年も前から(Sonarの時代から)あった機能ですので、他社製品にも実装されているとは思いますが。
それでは前述のStudio Gyokimaeさんの記事と同様の実験を行って、Cakewalkで処理したスイープ音のスペクトラムをWavosaurで表示してみたいと思います。プロジェクトのSRは44.1kHzで固定です。
IK Multimedia SaturatorXを挿してみた
挙動がわかりやすいよう、倍音を付加するプラグインであるSaturatorXを使ってみました。プラグイン自身にOS機能がついています。
↑プリセットは「A Bit Of Color」をそのまま使いました。右下のボタンでオーバーサンプリング倍率が切り替えられます。
↑エフェクト処理前。
Wavosaurで作成したスイープ音のスペクトラムがこれです。
↑画像① プラグイン側、DAW側ともにOSオフの状態。
折り返しノイズ乗りまくりです。
↑画像② プラグイン側で2倍OS。
マシになりましたね。
↑画像③ DAW側で2倍OS。
画像②とほぼ同じ結果になりました。OS非対応のプラグインでも、DAW側でOS処理することで、遜色ない音質になりそうです。
↑画像④ プラグイン側で4倍OS。
画像①と比べるとかなり折り返しノイズが減りましたね。
↑画像⑤ プラグイン側で2倍、DAW側で2倍OS。
2×2=4倍ということで、画像④とほぼ同じ結果が得られました。
↑画像⑥ プラグイン側で4倍、DAW側で2倍OS。併用することで非常に綺麗になりました。
4×2=8倍ですから、SR352.8kHz相当で処理した計算です。
結局プロジェクトのSRはいくつにするべき?
僕は44.1kHzで十分だと思います。ここまで書いておいてなんですが、恥ずかしながらアマチュア趣味レベルの僕の耳と環境では、折り返しノイズがほぼ知覚できないからです。(もちろんプロの方がきちんとした環境で聴けば一目瞭然でしょうし、そういう点に非常に気を使って高SRで制作されていると思います)
個人的には、あくまで趣味でDTMをやる範囲においては、プロジェクトのSRを上げるメリットよりも、PC負荷を増大させるデメリットの方が大きいと感じています。少なくとも作編曲/レコーディング時には、その分のリソースは録音レイテンシーを詰めたり、ソフトウェア音源のレンダリングに充てたいところです。
全てのトラックが揃った時点で一通りオーディオファイルに書き出し、ミックス以降の作業は新しい高SRプロジェクトにファイルを読みこんで行うというのは一つの手ですが、色々面倒なところもあります。
折り返しノイズが気になるのであれば、まずDAW側のOSの機能を試すことをお勧めします。オーディオバウンス時など必要なときだけ、音質に影響の大きい重要なプラグインだけをOSすることができますので、PC負荷を抑えつつ折り返しノイズも低減できて、ちょうど良いのではないかと思います。
余談の実験:折り返しノイズを聞いてみよう
せっかくなので、サイン波をSaturatorXに通して、OS無しの音と8倍OSの音を聴き比べる実験をしてみました。折り返しノイズの多い音と少ない音を比較すれば、僕にも違いが分かるかもしれません。2つの音を逆相でぶつければ、折り返しノイズを抽出できるはずです。(厳密には8倍OSでも多少の折り返しノイズは発生しますので、完全に抽出できるわけではありません)
さて、原理的には、低い周波数の信号に倍音を付加するときよりも、高い周波数の信号に倍音を付加するときにほうが、折り返しノイズは顕著に現れるため、OSの恩恵も大きくなるはずです。今回は397Hzのサイン波と3,997Hzのサイン波を用意しました。
結果、397zHzのサイン波については、僕にはOS無しと8倍OSの区別がつきませんでした。(逆相にするとたしかに音は違うのですが)
一方3,997Hzのものはさすがの僕にも区別がつきました。8倍OSに比べて、OS無しの方が多少耳障りな音が付加されています。ただし、これは音が違うことを知った上でA/B比較をしたからかもしれません。完全なブラインドテストであれば、僕のレベルだと気づかなかった可能性が高いです。
(DAWで内では区別がついたのですが、WAVファイルに書き出して聴き直したら区別がつかなくなってしまいました…)
実際の音楽はサイン波と違って非常に複雑な倍音構成をしていますから、折り返しノイズも遥かに複雑な形で現れることになります。個々のトラックでそれが発生すれば、プロジェクト全体としては大きな差が生まれるはずなのですが、残念ながら僕はまだその差を実感できるレベルには達していません。
もっと上達して、こういう細かい部分を聴き分けられるようになりたいものです。
参考文献
とーくばっく ~デジタル・スタジオの話~ 著:David Shimamoto
オーディオ・プラグイン解析ツール Plugindoctorで遊ぼう! 著:David Shimamoto
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