NPB審判員の役職②【クルーチーフ編】

【注意】
令和5年3月28日現在、嶋田哲也審判員が追加でクルーチーフに昇進したことが確認されました。本記事の初回投稿は令和5年3月8日ですが、この人事を受けて一部内容を修正しています。変更点は打ち消し線および太字で記載していますが、修正漏れが生じている場合があります。ご了承ください。


こんにちは。umpire fanです。
標記の通り、今回はシリーズ2作目です。今回は「クルーチーフ」(以下:CC)について記します。

※部外者が記していますので、事実誤認が生じている可能性があります。また、憶測が含まれている部分もあります。以下の記述は全部分が私見であり、NPBの公式な見解ではありません。
※一部、審判員の敬称を略しています。

1.CCとは何か?

そもそもCCとは何ぞや?という点ですが、これは文字通り「Crew」の「Chief」、ざっくり言えば各試合における審判団の代表です。審判団の代表ですので、一定の経験と実績があり、審判部に認められた審判員のみがCCという役職に就任できます。選ばれた審判員しか就任できない、非常に責任のあるポストだと言えるでしょう。

CCは年度によってメンバー、人数に変動がありますが、2023シーズンは以下の 5 6名の審判員がCCと発表されています。

・有隅 昭二 審判員(92年入局55歳、14〜:CC)
・川口 亘太 審判員(94年入局52歳、21〜:CC)
・本田 英志 審判員(94年入局52歳、22〜:CC)
・吉本 文弘 審判員(95年入局53歳、23〜:CC)
・敷田 直人 審判員(96年入局52歳、23〜:CC)
・嶋田 哲也 審判員(99年入局56歳、23〜:CC)

今年度より、新たに吉本審判員と敷田審判員、嶋田審判員がCCに加わりました。 5 6名の審判員は上記の一覧からも見て取れる通り、どなたもキャリアが25〜30年前後のベテランです。この豊富なキャリアを活かし、CCはそれぞれ出場する試合で「責任審判」を務めます。2023シーズンはCCが 5 6名、副審判長の笠原審判員を合わせても役職付きの審判員は 6 7名ですので、役職審判が同一試合に複数人出場することは考えにくく、「出場しているCC=責任審判」の可能性が高いと思います。

(注)こんな変な記事をご覧の方には蛇足でしょうが、「球審=責任審判」ではありません。また、「場内説明を行う審判員=責任審判」でもないですし、「リクエストの結果発表を行う審判員=責任審判」というわけでもありません。

ここまでCCの基本的な知識について記述しましたが、ここからはCCの歴史や今後の展望について記そうと思います。

2.CC制度の歴史

2011シーズンより発足したCC制度。私は発足から2023シーズンに至るまで、CCの歴史は人事面で大まかに3分割できると考えています。この章では以下、その3つの区切りに分けて記します。

①黎明期〜第二世代昇格期(2011〜2014)

2011年、従来はセ・パで分かれていた審判部が完全に統合、いわば「NPB審判部」として新たなスタートを切ることになりました。そしてこの統合に伴い、従来セ・パのそれぞれで設けられていた「審判部長待遇」・「審判副部長」・「審判主任」という役職も統合され、CC制度が誕生します。統合当時から今に至るまで、NPB審判部は体制をMLB方式に寄せつつあるわけですが、このCCという制度も元来はMLBで採用されており、この名称変更はMLBに似た体制作りのための一つの方策だったのでしょう。しかし、役職の名前が変わろうが実質の運用で変わったのはセ・パの垣根が無くなったくらいで、2011シーズンのCCは元セ・パの役職審判でした。以下にオリジナルメンバーを示します。

・友寄 正人 審判員(元セ関西・審判部長待遇)
・渡田 均  審判員(元セ関東・審判副部長)
・橘髙 淳  審判員(元セ関西・審判主任)
・東 利夫  審判員(元パ関西・審判副部長)
・杉永 政信 審判員(元セ関西・審判主任)
・中村 稔  審判員(元パ関東・審判副部長)
・森 健次郎 審判員(元セ関東・審判主任)
・笠原 昌春 審判員(元セ関東・審判主任)
・佐藤 純一 審判員(元パ関西・審判主任)
・山村 達也 審判員(元パ関西・審判主任)
・栁田 昌夫 審判員(元パ関東・審判主任)

この11名の審判員でスタートしたCC制度。統合初年のシーズンを終え、翌2012シーズンも同じメンバーがCCを務めます。

動きがあったのは2013シーズン。これまでCC最上位だった友寄審判員は、新たに設けられた役職「シニアクルーチーフ(以下、シニアCC)」へ昇格します。そして友寄審判員はこのシーズン限りで現役を退き、翌年から審判長に就任。これは憶測でしかありませんが、私はこの友寄審判員だけを昇格させた人事を翌年から始まる友寄体制への布石だったと考えています。友寄審判員の後、長らくシニアCCに就任する審判員がいなかったのもその理由の一つです。
また、山村審判員はこの年よりCCを離れ、16年シーズンをもって退職されるまで一般審判員として務められました。山村審判員がCCを離れられた理由について、同氏のwikiにはある程度記述があります。しかしながらこの記述には一切出典がなく、真偽のほどは分かりません。なお、私個人としては人の病気に関わることを出典もなく安易に記すのはいかがなものかと思っています。ご本人の了解を得ているかも不明ですので。
ともかく、こうして2人がCC職から離れたわけですが、このシーズンは新たに2名がCCに昇格し、CC11名体制が維持されることになります。昇格した審判員は以下の通りです。

・眞鍋 勝已 審判員(92年セ入局、当時満45歳)
・佐々木 昌信 審判員(同、当時満44歳)

これがCC制度における初の昇格人事、言い換えれば第二世代の登場となりました。なお、これまでのCC最年少は笠原審判員(S40生)でしたが、眞鍋審判員はS43生、佐々木審判員はS44生と3〜4年の若返りが実現した形です。

そして友寄体制1年目となる2014シーズン。前年度に役職定年である55歳に達した渡田審判員が一般審判員に戻られます。代わりに関東から2名、関西から1名がCCに昇格しました。この年に昇格したのは以下の審判員です。

・西本 欣司 審判員(90年セ入局、当時満48歳)
・有隅 昭二 審判員(92年セ入局、当時満46歳)
・丹波 幸一 審判員(93年パ入局、当時満44歳)

この人事により、CCは過去最多の13名となりました。年齢層も上は東、佐藤審判員の54歳、下は丹波審判員の44歳と幅広くなっています。
そして結局、2023シーズンに至るまでCCの人数はこの13名が最多となります。第二世代の昇格によって人員数、年齢層ともに充実し、NPB審判部における人事制度として安定をみたCC制度は、翌年から次の段階へ突入していくことになります。

②人員固定期(2015〜2020)

①で記したように、CC制度は2014シーズンをもって完全な安定をみたと私は考えています。それは前述のとおり第二世代の昇格によって人員数、年齢層とも2014シーズンをもって充実したというのが一つの理由ですが、もう一つの理由はその後のCC制度に関する人事です。結果から先に言えば、この②の期間中に一般審判員からCCへの昇格はありません。言い換えれば、この期間のCCに関する人事は、(1)CCから一般審判員に戻る(2)CCからさらに昇格する、の2パターンのみです。こうしたCCメンバーの固定、つまり新規昇格の停止という状況をもたらしたのは2014シーズンのCC人事であったことから、私は本項冒頭で記したような結論に至りました。そして、上記のように2015シーズン以降は2014シーズン以前と人事の様相が変わったことから、この期間を「②人員固定期」と捉えています。

では、固定期におけるCC人事を見てみましょう。
各年度、括弧書き内の名前がその年度のCCです。
【2015年】(13名)
前年と変更なし
(橘髙・東・杉永・中村・森・笠原・佐藤・栁田・眞鍋・佐々木・西本・有隅・丹波)
【2016年】(10名)
東審判員、中村審判員、佐藤審判員→一般審判員
(橘髙・杉永・森・笠原・栁田・眞鍋・佐々木・西本・有隅・丹波)
【2017年】(9名)
杉永審判員→一般審判員
(橘髙・森・笠原・栁田・眞鍋・佐々木・西本・有隅・丹波)
【2018年】(8名)
橘髙審判員→審判長補佐
(森・笠原・栁田・眞鍋・佐々木・西本・有隅・丹波)
【2019年】(8名)
前年と変更なし
【2020年】(6名)
森審判員→シニアCC、栁田審判員→一般審判員
(笠原・眞鍋・佐々木・西本・有隅・丹波)

5年間で13名→6名と半減していることが分かります。審判員補佐やシニアCCへの昇格もありますが、それでもCCを含めた役職審判の人数は減っています。
また、この期間の人員変動は殆どが55歳の役職定年を迎えたタイミングで行われています。中村・栁田の両審判員を除いては、全て満55歳のシーズン終了をもってCCを離れています。役職定年55歳制度が確実に存在していたのは2017シーズンまでですが、それ以降も55歳のタイミングでCCから離れていることから、少なくともこの②の期間においてはCCの区切りが55歳(=2018年以降の第一次役職定年)と考えられていたことが窺えます。
※なお、橘髙審判員は満58歳のシーズンまで審判長補佐を務められたことから、58歳が第二次役職定年であったと考えることも可能です。

それでは、どうしてこのような固定的、悪様に言えば閉塞的な人事が行われたのでしょうか。ここからは完全に私の想像ですが、いくつか考えられる理由を挙げてみます。

・人員数の適正化
①の冒頭にて、当初のCCは元セ・パの役職審判であると記しました。セ・パの対等な合併である以上、それぞれで役職に就いていた審判員は統合後も役職審判とせざるを得ません。その結果11名のCCが誕生したわけですが、この段階ではNPBがCCの人数を絞るのは組織運営のバランス上難しかったということを押さえておく必要があります。
そして、2年後からは各々の実績とこれからの入れ替えを踏まえて5名が新たにCCに加わり、昇格、役職変更を含めて計13名となりました。しかし、この人員数だと単純計算で各球場に2名のCCが配置されることになり、やや過剰な感が否めません。ただ、一度昇格させた審判員を一般審判員に戻すのはそれ相応の理由が必要です。そこで、NPBは「現在CCの審判員は基本的に役職定年までCCとして勤めてもらい、役職定年に達した審判員から一般審判員に戻す」という方針を立て、同時に新規昇格を抑制することで、CC人数の適正化を図ったのではないでしょうか。

・MLBに倣った人事制度
この理由は先ほどの適正化と関連します。①の冒頭にて、CC制度はMLBに倣った制度であると記しました。そのMLBではCCの枠が決められており、CCが引退しない限り次のCC昇格はありません。また、MLBは審判員の定年がないため、本人が引退を決断するまで審判員を続けることが可能です。こうした理由から、69歳まで現役でCCを務めたジョー・ウエスト氏や、2023年で満68歳になる現役CC、ライリー・バノーバー氏など、高齢のCCが多く活躍される例がよく見られます。
定年制が敷かれているという点でNPBとMLBの組織体制は大きく異なりますが、一方でこの固定期の人事は前述の「CCは既定の枠があり、枠が空かないと新規昇格はない」という運用と似ています。こうした点から、上記適正化の方針と合わせ、CCの枠を予め絞った上でNPBはCC人事に関してもMLB方式をとったと考えることができるのではないでしょうか。第二世代のうち、西本審判員を除く4名は昇格当時で役職定年(当時)まで10シーズンほどあり、長く枠を埋められる審判員であったことにも留意しておく必要があります。

・人件費の問題
ケチくさいですし、あまり考えたくない話ではありますが、CCに関する人件費も考慮しておく必要があります。単純な話ですが、CCは管理職であり、年俸も一般審判員と比べて高額であると思われます。CCが多ければ多いほど高給取りが多いわけで、その状態は間違いなくNPBの財布を圧迫します。資金が潤沢にあるとは言えないNPBにとって、審判員に関する経費をこれ以上増やすことは難しいと考えられた結果、CCメンバーを固定し、さらに漸減させていくという方針がとられた可能性もあります。

とまあ長々と記してきましたが、結局真の理由は分かりません。事実なのはCCが固定され、人員数が漸減したということのみです。審判員の人事の理由は我々一般ファンには知りようもありませんし、あくまで私見だと捉えていただければ幸いです。

しかし、この固定期もやがて終焉を迎えます。理由としては、(1)CCメンバーの高齢化と更なる減少(2)コロナによる固定クルー制の導入、の2点が挙げられます。
まず(1)について。2019シーズンをもって第一次役職定年(当時)に達した森審判員は、翌年度からシニアCCに昇格します。後の審判長就任の布石とも捉えられますが、ともかく2020シーズンは森審判員の昇格、常時出場によって役職審判の固定は守られました(満54歳の栁田審判員が一般審判員に戻られましたが)。しかし、役職審判では笠原審判員が満55歳、西本審判員が満54歳と続いて第一次役職定年が迫っている状況で、さらに2020シーズンをもって佐々木審判員(満51歳)が実家のお寺を継ぐために現役を引退されます。こうして2020シーズン終了時、役職審判は森・笠原・眞鍋・西本・有隅・丹波の6審判員に減少していました。

そこに、(2)の固定クルー制度が追い打ちをかけます。コロナ感染拡大予防のために導入されたこの制度は、一軍出場審判員を7班に分けて固定し、各班に1名役職審判を配置するというものでした。いわばMLBの審判員制度とほぼ同等の制度なのですが、上記のように2020シーズン終了時点で役職審判が6名に減っており、ここで新たに一般審判員から役職審判員への昇格が必要になったわけです。

こうして、第三世代を迎え入れないといけない状況になったCC制度。6シーズン続いた固定期を脱し、新たな段階へ移っていくことになります。

③第三世代昇格期(2021〜)

固定クルー制が導入された2020シーズンでは、各班の役職審判が控えの際に責任審判を務める次席、いわば翌年以降の「サブクルーチーフ(以下、サブCC)」のような審判員がいました。以下に陣容を示します。

・小林 和公 審判員(当時28年目、満53歳)
・川口 亘太 審判員(当時27年目、満49歳)
・本田 英志 審判員(当時27年目、満49歳)
・吉本 文弘 審判員(当時26年目、満50歳)
・敷田 直人 審判員(当時25年目、満49歳)
・栁田 昌夫 審判員(当時24年目、満54歳)
・嶋田 哲也 審判員(当時22年目、満53歳)

この7名は3つのタイプに分けられます。まずは前年までCCを務められていた栁田審判員。そしてこれまでもCC不在の試合で責任審判を務められていた小林・川口・本田・吉本の各審判員。最後にこのシーズンより定期的に責任審判を務めるようになった敷田・嶋田の両審判員です。特に小林〜吉本の各審判員はCC固定の影響をモロに受け、一般審判員ながら定期的に責任審判を務めていたにもかかわらず、なかなか昇格できていない状態でした。第二世代の昇格時の年齢と比べても、その影響は明らかです。

しかし、前述の通り2020シーズン終了時に役職審判の数が不足したこともあり、NPBは一般審判員をCCに昇格させる必要に迫られます。こうして2021シーズンは7シーズンぶりにCCへの昇格人事が行われ、役職審判は以下の陣容となりました。

・シニアCC...森・笠原
・CC...眞鍋・西本・有隅・丹波・川口

前年に第一次役職定年を迎えられた笠原審判員が前年の森審判員と同じようにシニアCCへ。これでCC制度創設時のオリジナルメンバーが全員CCから離れることとなりました。そして次席の7名から川口審判員がCCへと昇格。いわば第三世代の先陣を切られることとなります。
このシーズンも固定クルー制が敷かれていたため、各班の代表は上記7名のシニアCC・CCとなりました。同時に2021シーズンにはサブCCが設けられ、本項冒頭で示した7名のうち川口審判員を除く6名+木内審判員がその任に就きます。シニアCC、CC、サブCCという序列が生まれたことにより、次のCC候補と目されているであろう審判員が分かりやすくなりました。

7シーズンぶりのCC昇格による第三世代の誕生、およびポストCCとも言えるサブCC制度の導入によって長らく閉鎖的であったCC制度には新風が吹き込み、第三段階への移行が明確になります。この段階を、本稿では③第三世代昇格期とでも称したいと思います。

第三段階の初年を終え、翌2022シーズンもCC制度に動きがありました。これまで9シーズンにわたってCCを務められた眞鍋審判員がサブCCに役職変更。そして空いた枠にサブCCだった本田審判員が昇格しました。また、前年に55歳の第一次役職定年を迎えた西本審判員は、森・笠原審判員とは異なりそのままCC継続となります。この人事は前記事【NPB審判の役職①】でも記した通り、第一次役職定年に達したCCがみなシニアCCとなるわけではなく、シニアCCとCCの間には明確な差があるということを示す人事でした。

さらに、シーズン中の運用にも前年度までとは変化があります。前述の通り、これまでシニアCC・CCは各班の代表であり、7つの班に1人ずつ配属されていました。ところが、2022シーズンは固定クルー制が継続されたにもかかわらず、川口・本田の両CCが同じ班に配置されたのです。理由は例の如く不明ですが、考えられるのは関東・関西のバランスです。固定クルーは導入されていた2020〜2022シーズンの間、ずっと関東班5、関西班2で運用されていました。さらに2021シーズンまではシニアCC・CCの関東:関西比が5:2であったため、役職審判を各班に1人配置することが可能だったのです。しかしこのシーズンの人事によって、関東:関西比が6:1となり、これまで通りの運用をするには1名を地区跨ぎで配置する必要が生じます。ですがいくらCCといえど、半年以上地区を跨ぎ、さらに生活の基盤とは離れているであろう地区で責任審判という重責を務めるのは大変な負担になります。その点を考慮したNPBがシニアCC・CC各班1人体制を取りやめ、苦肉の策としてこのような運用を行ったのではないでしょうか。関東・関西の区別は2021シーズンから形式上撤廃されましたが、それでも長年にわたって存在し、審判員の生活にも影響を与えるこのしきたりを完全に撤廃することは難しかったのではないかと感じています。

そしてこれから始まる2023シーズン。最大のトピックスは森審判長への交代と笠原審判員の副審判長への昇格ですが、さらに運用にも変更がありそうです。2/21現在の「NPB新型コロナウイルス感染予防対応マニュアル」P31「審判員、記録員等感染予防措置」には、「*球場移動を最小化するための割当を策定予定。」との記述があります。また過去3か年とは異なり、マニュアル内には固定クルーの文言が見当たりません。こうしたことから、まだ多少の制約はあれど、4シーズンぶりに従来の制度が戻ってくるのではないでしょうか。

そして、それに対応するためか役職審判のメンバー、人数にも変更がありました。2023シーズンの役職審判は以下の通りです。

・副審判長...笠原
・CC...有隅・川口・本田・吉本・敷田・嶋田

笠原審判員の昇格は前述の通りですが、CCについても3シーズン連続で昇格人事が行われ、サブCCから吉本・敷田・嶋田審判員が昇格となりました。2022シーズンのサブCCは60年代生まれが6名、70年代生まれが2名いたのですが、その内55歳までまだ期間がある70年代生まれの2名が昇格した形です。こうして先に昇格した川口・本田両審判員と合わせ、2023シーズンのCCは 5 6名中4名が70年代生まれ、また川口審判員以降の第三世代が主力を務めることとなり、完全に世代交代した感を受けます(嶋田審判員は過去最高齢での昇格ですが)

その一方で西本審判員はCCから一般審判員へ戻り、丹波審判員は退職となっています。特に西本審判員は満56歳となる昨シーズンにCCを務められていたため、第二次役職定年と思われる58歳までCC継続かと思われたのですが、1シーズンで一般審判員へ戻られることとなります。この人事が西本審判員個人の理由によるものなのか、それとも内規変更による定年制度の厳格化(55歳、西本審判員の場合はコロナの影響で一年延長?)によるものなのかは、例によって判断できませんでした。ただ、2023シーズン中にCC筆頭の有隅審判員が55歳になられるため、翌2024シーズンの人事から西本審判員の人事の背景を探ることができるかもしれません。ちなみに、吉本・敷田・嶋田審判員が抜けたサブCCはこのシーズンから廃止されています。

また、本稿冒頭で記した通り、役職審判の人数は前年の7名から1名減って6名となりました。固定クルー制撤廃の影響が大きいのでしょうが、1減になったことで一般審判員が責任審判を務める試合も増加すると思われます。2023シーズン中に55歳を迎えられる眞鍋・名幸両審判員や元CC、サブCCがメインにはなるのでしょうが、割り当ての制約が緩くなったことで、フレッシュな責任審判を見られる試合が多くなるかもしれません。

また、嶋田審判員の昇格を受けて、審判員制度全般に非常に精通されている方が「関東・関西のバランスが整った」と仰っており、そのお考えに私も同調するところです。裏を返せば、先に記した前年度に生じていた関東・関西のアンバランスな状態は、シーズン中の運用において問題があったのではないでしょうか。シーズン開幕直前の昇格という異例の人事は、これを是正するために行われたという側面が大きいと考えています。

以上が、私が考えるCC制度の段階とそれぞれの特徴です。現在の③第三世代昇格期がいつまで続くのか、あるいはもう次の段階へ移っているのか判断するにはあと少し時間の経過が必要でしょう。また、そもそもこの区分が適切なのかという点についてもぜひご意見をいただければと思います。

3.今後の展望

誕生からまもなく15シーズン目を迎えるCC制度。2023シーズンの昇格を含め、これまで20名の審判員がその重責を担ってきました。それでは、今後CC制度はどうなっていくのでしょうか。この章も例に漏れず主観が多分に含まれていますが、もう少しご辛抱いただけたらと思います。

前提として、私はCC制度が今後も長期間にわたって続いていく制度であると考えています。MLBに寄せていくNPB審判部の姿勢や、組織として核となる審判員を示すのにCC制度はシンプルかつ分かりやすい制度であることからそう思うわけですが、今後のCC制度がどう変容するかを考える際、参考にすべき指標がいくつかあると思われます。

まずはCCの定員です。繰り返しになりますが、2023シーズンのCCは 5 6名、役職審判は 6 7名です。2-②の段階でCCを含めた常時出場の役職審判の数を徐々に絞ってこの人数になっている以上、これから先も13名という2014,15シーズンの水準に戻ることはないと考えています。もしこの水準に戻すとなると、固定期における人事の説明ができず、いたずらにただ昇格を見送っていただけということになるからです。
ただ、この6名という数字から更に減ることもまた考えにくいとも思っています。それはこれ以上常時出場の役職審判を減らしてしまうと、一般審判員が責任審判を務める試合が毎日出てしまい、その状況下ではCC制度の意義が失われるためです。よって今後のCCの定員は、現状維持もしくは1,2名の増員が現実的な数字であると思っています。

続いて定年です。2-③で触れたとおり、CCの定年制度については未だ不透明な点が多くあります。先に挙げた西本審判員の例は様々な可能性を含むため、現時点で定年が何歳だと言い切ることはできません(西本審判員が特殊だとすれば、一応55歳という仮説が立ちますが)。しかし、いずれにせよ役職審判が全員50歳を超えており、特に笠原審判員が満58歳、有隅審判員が満55歳になる現状では、この陣容を長く維持させるのは不可能です。
初稿では役職定年を「参考にすべき指標」として挙げていましたが、嶋田審判員が56歳で昇格したことにより、現在のところ役職定年は全くもって不明になっています。MLBのように年齢関係なくCCに昇格できる例もありますので、現状では役職定年という概念を考えるのがナンセンスなのかもしれません。

また、CC昇格時の年次、年齢にも注目する必要があります。第二世代はおよそ22〜23年目、45歳付近で昇格したのに対し、第三世代は28〜29年目、50歳を超えてからの昇格となっています。固定期の人事のツケが第三世代の昇格の遅れとして回ってきているわけですが、この昇格の遅れは第三世代だけではなく、その後に続く世代にも影響を与えかねません。第三世代はなんとかギリギリでCCへの昇格を果たしたものの、その第三世代が今後動かなかった場合は、定数、役職定年の関係上次の世代を飛ばして次々世代がCCに昇格する可能性があるためです。年功序列の風潮が色濃く残るNPB審判部において、そのような事態は好ましくないことでしょう。

このつの要素を踏まえ、私は近い将来さらにCCへの昇格があるのではないかと考えています。それが何名かは分かりませんが、ある程度候補は絞ることが可能です。私が考える候補は以下の3名の審判員です。

※年次、年齢は2023シーズンを基準とする
・土山 剛弘 審判員(98年セ入局26年目、満51歳)
・深谷 篤  審判員(99年セ入局25年目、満50歳)
・津川 力  審判員(01年パ入局23年目、満50歳)

このお三方は、年齢的には第三世代のすぐ後に続く世代です。それぞれの審判員の経歴を以下にざっくりと書き出してみます。

・土山審判員...1361試合出場、日本シリーズ2回
この3名の中では、出場試合数、シリーズ出場数ともに最も少ないですが、2022シーズンはリクエスト変更0、日本シリーズでのファインジャッジで注目を集められました。
また、この3名の中では最も早く責任審判を経験し、2022シーズンも責任審判を務められています。友寄体制では出場試合数よりも年次、年齢で責任審判や昇格が決められたように見受けられるケースがあったことから、その傾向が森体制でも受け継がれれば十分有力な候補となり得ます。

・深谷審判員...1525試合出場、日本シリーズ5回
関東の中堅として活躍され、2020年から3年連続で日本シリーズに出場されるなど、着実に実績を積み重ねられています。友寄体制においては一般審判員の中で最も重用された審判員の1人といって差し支えないでしょう。上記3名の中では、実績や近年の起用方法、年次等から考えてチーフ昇格の最右翼だと思われます。責任審判は2022シーズンに2試合の経験があり、2023シーズンのキャンプではホークス班の班長を務められました。

・津川審判員...1998試合出場、日本シリーズ6回
元パ関東の育成方針によって早くから多くの試合に出場され、8年目という早さで日本シリーズに出場されました。その後も順調にキャリアアップされ、2023シーズン中にはキャリア23年目にして2000試合出場を達成されることが濃厚です。2022シーズンには初めて責任審判を務められるなど、今後の昇格も十分あり得るところですが、他2名と比較した際の年次の浅さが気になります。

以上がお三方の簡単な概要ですが、共通するのは「シーズンを通して責任審判を務めたことがない」という点です。昨年まで存在したサブCCにはちょうどこのお三方の上の世代、年次までが任ぜられていたため、お三方は2022シーズンまで一般審判員としての出場がほとんどでした。CC・サブCCに欠場があった際には責任審判を務められる試合もありましたが、それは年1〜2試合程度。CCは基本的に責任審判としての運用が想定されているため、昇格前にはある程度責任審判の経験を積んでおく必要があると思われます。ただ、2023シーズンはサブCCが廃止されて副審判長・CC以外は全て一般審判員となっており、一般審判員の序列が不明確になりました。また、前述の通り2023シーズンは巡り合わせよく役職審判の数が少ないため、この2点からお三方が責任審判を務められる試合も増えるのではないでしょうか。役職審判の数は昨年と変わりませんが、どれくらい森審判長が一般審判員を責任審判として起用するのかどのような起用方針でシーズンに臨まれるのかに注目したいと思います。

また、お三方の次に続く世代としては77,79年生まれの世代があります。特に79年世代は5名と多くの審判員がおられるため、昇格に関する人事も複雑になると思われます。しばらく先の話ですが、世代間の昇格に関する差にも注目してみると面白いかもしれません。

4.おわりに

セパ統合後、審判部では様々な役職が生まれ、そしてひっそりと消えていきました。中にはサブCCのように、僅か2シーズンで消えた役職もあります。そうした中でCC制度は一貫して存在し、役職審判を明示するという重要な役割を果たすと同時に、それぞれの時代の審判部の内情を密やかに現す指標としても機能してきました。そうした点から、私はCC制度こそが審判部の中軸であり、最も注目すべき制度であると考えています。

2023シーズンが始まってもいない段階ではありますが、2024シーズン以降のCC制度がどうなるかは私のような一般のファンには分かりようもありません。ですが、2023シーズンにおいては確実に 5 6名のCCがおられ、各々が重責を背負いながらもこれから始まるシーズンへの準備を進めておられます。私は今後もCCの各審判員に敬意を払い、日々の活動を応援していきます。この記事をここまで読んでいただいた皆様におかれましても、CCを応援する同志となっていただければ幸いです。

最後まで、私見が満載の拙稿を読んでいただきありがとうございました。次に取り上げるネタは全く思いついていませんが、またいつかは記事を書こうと思います。その際はどうぞよろしくお願いします。

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