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忍殺TRPG公式サンプルシナリオ小説風リプレイ【コンフィデンシャル・マター(その4)】


◆アイサツ

 ドーモ、海中劣と申します。こちらの記事はニンジャスレイヤーTRPG公式サンプルシナリオのマップを利用した小説風リプレイとなっております。ニンジャスレイヤーTRPGについては下記の記事をご覧ください。

 こちらの記事は前回の続きとなっております。よろしければそちらから見てやってください。

それではやっていきたいと思います!

◆本編

「ヌゥーッ……見よ!我らオムラの持つ団結力を前に敵が恐れをなして逃げていくぞ!鉄と火薬と歯車の力をもってすれば、ニンジャですら退けることが出来るのだ!これが科学!インダストリの勝利だ!」「ウオオーッ!」「オームラ!オムラオームラ!」

 ヤモダ主任は逃げていくディープサイたちを見て、彼らが目的を達してしまったことを察していた。そして己がヤブの仇を討てないことも。だが彼は屈辱と悲嘆を吞み込み、社の名誉を守るための選択を取った。すなわち、一方的な勝利宣言だ。

「オームラ!オムラオームラ!」「カナリのオムラ!サスガのオムラ!」「迷いが実際無い!」だが自分たち愛するカイシャがニンジャの力に勝ったと無邪気に信じているオムラ兵たちはヤモダ主任の葛藤にも気付かず、自社製品である銃を掲げて勝鬨を上げ続けた。「オームラ!オムラオームラ!」「オームラ!オムラオームラ!」「オームラ!オムラオームラ!」

 ……ざあああああ。ざあああああ。勢いを増す重金属酸性雨がオムラ社員たちの勝鬨の声を掻き消し、徐々に熱狂を冷ましていった。ヤモダ主任は兵たちが落ち着いた頃合いを見計らって事後処理の指示を飛ばす。「まずは負傷者の救護、次に被害の確認!それが済み次第調査再開だ!」「「「ハイヨロコンデー!」」」

 オムラ兵たちはイクサ直後で疲弊した肉体を愛社精神で無理やり働かせ、墜落した輸送機の残骸を次々と回収していく。「あとはこの輸送機の中だけですね」「早く終わらせましょう」陣地内の中央、オムラ専用の道路を塞ぐようにして横たわる一際大きな輸送機の残骸の中を、2人のオムラ社員が調査する。

「見てください。大きなカーゴがありますよ」「なんでしょう?この模様は?」社員は輸送機内の4分の1ほどを占める巨大鋼鉄製カーゴの側面に刻まれた奇妙な文字を見て首を傾げた。どことなく漢字のようにも見えるそれは、ヨロシサン社内でのみ用いられるクリプト・カンジである。

「ヨロシサンの趣味でしょう。理解に苦しみますね」「その通りです。やはりバイオよりもロボットですよ。私はオムラの社員で本当に良かった」「まったくです。ヨロシサンはダメですよ」彼らは牽制し合う様に互いの愛社精神を誇示しつつ、カーゴを調べようとした。

 その時である。ガゴンプシュー!「「アイエッ!?」」鋼鉄製カーゴが圧縮空気を吐き出し、ハッチが自動的に開かれた。オムラ社員たちは反射的に後ずさり、銃を構える。「寒い……?冷凍コンテナ?」カーゴから溢れ出した冷たい空気が地面をのたうち、2人の足元を通り抜けた。

「何が入っているんでしょう?気になりますね?」「中を確認してみては?」「先に主任に連絡を取るべきでは?」「そうですね。報告・連絡・相談・改善です」「では私が連絡をしますのでカーゴを監視していただいてもよろしいですか?」「ええ、申し訳ありませんがナルハヤでお願いします。そうでないと何か問題が起きた時に対処出来ないかもしれません」「yyyRRysh」

「エッ?」「今のは?」責任の所在をそれとなく己から逸らすことに執心していたオムラ社員たちはカーゴの暗闇の中から聞こえてきた不気味な声に肩を跳ね上がらせた。「な、何か生き物がいるんでしょうか」「コワイですね。試しに撃ってみませんか」「エ?いいんですか?」「いえ、そういう方法もあるという提案ですよ」「でしたら主任に」「yyyyRRRRyyshhh!」「「アイエエエエ!?」」BLATATATATA!

 2人のオムラ社員の保身を恐怖が上回り、彼らは手に持っていたマシンガンをカーゴ内に向けて乱射する!「アイエエエエ!」「ウワアアーッ!」BLATATATATA!キンキンキン!互いの悲鳴と跳弾の音が互いの恐怖を増幅し合い、2人は引き金を緩めることなく撃ち続ける!CLICK!CLICK!アウト・オブ・アモー!

「ハァーッ!ハァーッ!」「ハァハァハァ……」2人は息を荒げ、出し切った酸素を肺に取り込む。「や、やったか?」「あれだけ撃ったんです。中にいたのが例えニンジャであってもひとたまりも……」2人は祈るような気持ちでカーゴの中をじっと見つめる。静寂。

「……やはり死んだようですね!このくらいで死ぬようなら殺しても問題無かったでしょう!」「そうですね!所詮はヨロシサンのプロダクトですよ!」「仕方ありませんよ!オムラのモーター理論はムテキなのですから!」「その通り!オームラ!オムラオームラ!」「オームラ!オムラ!オームラ!」「yyyyRRRRyyshhh!」「「アイエッ」」

 2人はカーゴの中から伸びてきた何かに捕まり、暗闇に引きずり込まれていった。CHOMP!GULP!SPLAT!SPLAT!SPLAT!「アイエエエエエ……」「おい、何だ!?何が起こっている!?」「SSSSSS……」「アイエエエエエエ!」GULP!GULP!SPLAT!「yyyyyyRRRRysh」「助け」「アバーッ!」「アイエエエ!」「アイエーーエエエ!」

◇◇◇

 ヴォルルルルルルン!ヴォルルルルルルン!排気量1100ccを誇る黒鉄の機体、違法改造モーターサイクルの『黒駒』が唸りめいたエンジン音を上げて荒野を突き進む。運転席に座るのは全身黒づくめの野戦服を着た重サイバネの男。男はヘルメット、分厚いゴーグル、フェイスマスクで頭部を完全に隠しており、その表情は窺い知れない。

『yoroshisan…………よろしさん の ゆそうき まで あと 1 きろ めーとる です』黒駒のインジケータに文字が流れ、グリッドマップの上に現在地と目的地が表示される。男はゴーグルに隠されたサイバネアイで地図の示した方角を見据える。

 降りしきる雨のカーテンの向こうに、確かにヨロシグリーン色の輸送機の残骸が確認できた。ここから先は徒歩で行くべきだろう。そう判断した男は黒駒のエンジンを停止させ、地面に片足を付いた。「なんだサルーテ=サン、もう着いたのか」その時、後部座席の上に蟠っていた不定形の物体が首をもたげる蛇のように身を起こした。

 それはあっという間にニンジャ装束を着た人の形を取り、二本の足で地面に立った。サルーテと呼ばれた男はその人型に対して右手を挙げて見事な挙手の敬礼を行う。これはサルーテのアイサツである。「便利だなあ。このインテリジェンス・モーターサイクルってやつは。ドージョーのみんなの分もあればいいのに」

 人型は不定形の手を伸ばして黒駒のボディ表面を撫でた。彼の名前はディスターブド。現在サルーテが身を寄せているサヴァイヴァー・ドージョーに所属するバイオニンジャである。

◆サルーテ (種別:ニンジャ/重サイバネ)  DKK:3    名声(フリーランス):14
カラテ    5		体力   11
ニューロン  9		精神力  8
ワザマエ   12	脚力   7/N
ジツ     4		万札   9(ローン12)

攻撃/射撃/機先/電脳  6/18/11/13
回避/精密/側転/発動  13/14/14/13
即応/緊急       1/0

◇装備や特記事項
 所持品 :『ZBRアドレナリン注射器』
 スキル :『●連射2』『●マルチターゲット』『●時間差』
      『◉重サイバネ』『◉シャープシューター』『◉ウィークポイント射撃』
      『◉使命感(◉聖戦士読み替え)』
      『◉◉タツジン:ミリタリーカラテ』
      『◉知識:銃器』『◉知識:サイバネティクス』
      『◉狂気:虚無衝動』『◉狂気:謎めいた儀式』『◉◉狂気:自我希薄化』
 ジツ  :『★レッサー・キリングフィールド・ジツ』
 装備  :『LAN直結型ハンドガンx2』
      『バクチク・グレネード』『パルス・グレネード』
 サイバネ:『▶︎▶︎サイバネアイLV2』『▶︎テッコLV1』『▶︎▶︎クロームハートLV2』『▶︎▶︎生体LAN端子LV2』
      『▷高性能赤外線ターゲッター』『▷内蔵型パルスダガー』『▷第二の心臓』
      『▷回避パターン解析プログラム』
 生い立ち:『○元湾岸警備隊』

◆忍◆
ニンジャ名鑑#---
【サルーテ】
 フリーランスの重サイバネニンジャ。元湾岸警備隊。黒い野戦服に身を包み、ヘルメット、分厚いゴーグル、布製のフェイスマスクによって隠されたその表情は窺い知れない。サルーテとは彼が名乗った名前ではない。
◆殺◆

◆ディスターブド (種別:ニンジャ/バイオニンジャ)
カラテ    7  体力   7/-1
ニューロン  3  精神力  3
ワザマエ   5  脚力   4/E
ジツ     4  万札   10

攻撃/射撃/機先/電脳  7/5/3/3
回避/精密/側転/発動  7/5/7/7

◇装備や特記事項
 液体金属ボディ、戦闘用バイオサイバネLV1
 『●連続攻撃2』、『●即死耐性』、『●ダメージ軽減1(火炎ダメージは軽減不可)』、
 『◉流体金属の切り裂き攻撃』

『流体金属ボディ』:
 ディスターブドは『連続側転』の難易度が−1されている(液状化して這い進んでいるものとみなす)。
 また『連続側転』後の行動にペナルティを受けない。
 加えて、マスターが許可するならば、鍵のかかった扉やパイプなどの細い穴も通過できる。

『◉流体金属の切り裂き攻撃』:
 ディスターブドは身体を液状化して床や壁などを高速で這い、敵を切り裂きながら進む。
 ディスターブドが『連続側転』に成功した場合、この移動中に通過した敵最大2体に対して、
 移動フェイズ終了時に、自動的に1ダメージを与える(『回避:HARD』、カウンターカラテ不可)。
 同じ敵の上を2回以上通過してもダメージは増えない。
 直後の攻撃フェイズで『近接攻撃』を行う場合、全ての敵を『崩れ状態』とみなせる。

「これがあればヨロシサンの輸送機とか護送車とかの場所を調べて追跡できるんだろ?それじゃあバイオインゴットも取り放題だ。もう腹を空かさなくって済むようになるよな」上機嫌で話すディスターブドの言葉にサルーテは答えない。だがディスターブドもそれが分かっていたのか、特に気にした様子もなかった。

 実際のところ、彼らの今回の目的は墜落したヨロシサンの輸送機……その中にあるバイオインゴットを根こそぎ奪い取ることだ。ドージョーの大将であるフォレスト・サワタリがヨロシサン関連施設を襲撃して奪ったデータを黒駒のUNIXにインプットし、UNIXが弾き出した演算結果を基に襲撃計画を立てる……このような手法を用いることで、サヴァイヴァー・ドージョーは以前に比べてはるかに効率的な作戦行動を取れるようになった。

 もっとも、ドージョーの中にはそうした文明的なやり方を好まない者もいる。所詮は一時的な協力者であり究極的にはよそ者であるサルーテの能力に依存した状況を危惧する意見もある。黒駒のUNIXのアドミン権限はサルーテが握っているのだから。

 だが、そのことに対してサルーテが何か反論をしたり弁明をしたりすることはない。彼は与えられた命令のみを遂行する機械のように淡々とハッキングを行い、黒駒を操縦し、バイオインゴットを集めていった。

 彼が何を目的としてドージョーに協力しているのか、それは誰にも分からない。だが、少なくとも大将のサワタリが彼を受け入れている以上、この不気味な兵士がドージョーを追い出されることはなかった。

「雨が鬱陶しいな」ディスターブドは空を見上げながら呟いた。その装束と顔に雨粒がぶつかる度、小さなへこみが生じては元に戻るを繰り返す。「とっとと行こうぜサルーテ=サン。遅くなるとハイドラの奴が五月蠅いしよ」ディスターブドは片手を上げてサルーテを促した。サルーテはバイクに隠蔽処理を施し、ディスターブドの後に続く。

 雨が激しさを増し、サルーテのサイバネアイにノイズが混じる。磁気嵐が近づいているのだ。それはまるでこれから起こる何かを、惨劇の始まりを告げているのではないかと思わせるような雨だった……

◇◇◇

「おい、おかしいぜサルーテ=サン」オムラ・インダストリの敷地内に侵入した2人は早々にその違和感に気が付いた。「どうしてオムラの連中が一人もいないんだ?」

 ディスターブドの言葉通り、襲撃に対して抵抗してくることが予想されたオムラ兵の姿が何処にも見えないのである。破壊されたモーターヤブや死体となって地面に転がるオムラ兵たちはいるのだが、生きた人間が出てこないのである。

「もしかして先を越されちまったのかな。とりあえずあのデカい輸送機だけでも見てみようぜ」ディスターブドはそう言うと、特に警戒することもなく輸送機の残骸へと近付いていく。液体金属で構成されるバイオボディを持つ彼はあらゆる物理攻撃を無効化するため、アンブッシュにも対応しやすいのだ。

 だが、サルーテは何か不吉なものを感じ取ったか、それともサイバネアイのノイズの中に何らかの真実を見出したか、ディスターブドを引き止めようとする。しかし、それは叶わなかった。液体でその身を構成するディスターブドは手の指を折ることが出来ないからだ。サルーテはディスターブドの背中を守るようにその後を追いかける。

 

 ……その時である!KABOOOM!「グワーッ!」「yyyyRRRRyyshhh!」BLATATATATA!爆発音と悲鳴、そして粘性の液体を沸騰させたかのような形容しがたい咆哮が輸送機の中から聞こえてきた!「なんだ!?あ、オイ!サルーテ=サン!?」思わず足を止めたディスターブドを追い抜き、サルーテが一足先に輸送機内へとエントリーする!

◇◇◇

「ハァーッ!ハァーッ!ば、化け物め!よくも私の部下達を!」「yyyyyRRRyshhhhh」ヤモダ主任は怒りと絶望に染まりつつある思考の中、目前の敵を睨んだ。決死の覚悟で放ったバズーカ砲もこの恐るべき化け物にはさして痛打となってはいないようだった。「yyyyyRRRyshhhhh」化け物は喉をゴボゴボと鳴らし、足元に転がっていた人間の千切れた下半身を拾い上げる。

◆オムラ・ウォーベテラン「ヤモダ主任」 (種別:モータル/重サイバネ) ボス級
カラテ    2  体力   8
ニューロン  5  精神力  8
ワザマエ   2  脚力   3
ジツ     –  万札   10

攻撃/射撃/機先/電脳  2/6/5/7
回避/精密/側転/発動  6/3/-/-
*モータルのため回避難易度+1

◇装備や特記事項
ヘヴィテックスーツ、テック・ガントレット、タクティカルレガース
▲サイバネアイLv1、▲生体LAN端子Lv1、▲ヒキャクLv1
『◉忠誠心:オムラ』x3、『◉突撃』、『◉kill-9』
ZBRアドレナリン、電脳ペインキラー素子、電脳ザゼン素子

バクチク・グレネードx1
アサルトライフル
ショックメイス: テック近接武器、ダメージ2(1+電磁1)
バズーカ: 銃器、爆発(カトンLV2)、射撃:HARD、2ターン連続使用不可(弾薬無制限)

 CHOMP!GULP!SPLAT!化け物はヤモダ主任に見せつけるかのように死体に齧り付き、肉と骨を噛み砕いて、血を啜り上げた。喰っているのだ。そして化け物が食事を終える頃にはバズーカの爆撃で付けた傷が完全に再生していた。捕食による回復。それも、異常な速度での。

「おのれ……!」「yyyRRRyshhh」屈辱に震えるヤモダ主任に、化け物が嘲笑うように唸った。「yyyRRRyshhh」「グワーッ!」化け物は背中に生えた触手を目にも止まらぬ速度で振るい、ヤモダ主任の足を捉えて彼を吊り上げた。トカゲと昆虫の混合物めいた頭に付いた赤い三つ眼に、逆さまのヤモダ主任が映った。ヤモダ主任は死を覚悟した。

 BLAMBLAM!しかしヤモダ主任が化け物の餌食となる寸前、何処からか放たれた重金属の弾丸が主任を捕まえていた触手を撃ち抜いた。「yyyRRRyshhh!」「グワーッ!」化け物は不服そうな鳴き声を上げてヤモダ主任を放り捨てる。

 化け物は三つの眼を弾丸の飛んできた方へと向けた。そこにはLAN直結銃を構えたサルーテが立っていた。BLAMBLAM!BLAM!「yyyRRRyshhh!」サルーテは異形の化け物に怯むこと無く、的確な銃撃で化け物を攻撃する。しかし化け物は連続側転めいた動きで弾丸をすべて回避した。

「おいおい、なんだありゃあ。俺たちのお仲間か?」遅れて輸送機内へとやって来たディスターブドが化け物の姿を見て言った。「yyyRRRyshhh!」化け物は否定するかのように唸った。まるで、お前らと同じにするなと怒っているかのようだった。

「話は通じそうにねえな」ディスターブドは両腕を鋭利な刃物に変形させ、アイサツをした。「ドーモ、ディスターブドです」それに続いてサルーテも右手を挙げて見事な挙手の敬礼を行った。「yyyRRRyshhh」輸送機内の照明がバチバチと点滅し、鋼鉄製カーゴに書かれたクリプト・カンジを照らし出す。そのカンジの意味は……

「SSSSSS……YYyyyyRRhssssRRyYYRRカンゼンタイRRRyyhhh」化け物は……カンゼンタイは……己に与えられた名を名乗り、アイサツをした。

コンフィデンシャル・マター(その5)へ続く