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義父母と同居のオタクの日常【主婦杯】

※お断り

この話にはゴール.デン.カム.イの単行本未収録ネタが画像として含まれております。ネタバレにご注意ください。


我が家は義父母と同居している。私たち夫婦が共働きで夜遅くなることも多いからであるが、困るのが私が隠れオタクであるという点である。

私は漫画否定派の母の元、隠れながらオタク活動を行ってきた過去があり、世間からも家の中でも隠れて活動することは私にとって日常であった。

しかし、この私の隠れたオタ活には穴がある。まず、夫である。夫はライトオタクなので、隠さない。基本的にフルオープンである。そしての妹弟。ここもライトオタ。隠さないのが基本なので、どんどん情報共有をする。

困ったことに、この夫たちからの情報は義母にも共有されるのである。義母はVHSのビデオテープのような人で、デフォルトで録画した後にはツメを折る仕様になっている。つまり、一度情報がインプットされたら最後、ずっと同じ内容を再生し続けるのである。

ちなみに私は義母に「芥川好き」とインプットされている。芥川好きくらいは問題ないかと思って、ついつい好きであることを話したのが10年前。それからはもうずっと芥川責めである。

芥川と名前がテレビで出れば呼ばれ、作家といえば芥川が一番とよいしょが始まり、

「この子は芥川にかけてはなかなかのものなんですよ」

と来客に話される日々である。

夫は中学生の時、エヴァンゲリオンにはまっていた。よって今でもエヴァコラボ商品は喜ぶだろうと買ってくるし、来客には息子はエヴァが好きでと語られる。地獄である。

つまり、私は義母にオタク情報を握られないようにオタク活動を行わなければならないのである。

そして、私は考えた末、菓子作りを選んだ。紙やパソコンに描くと証拠が残る。その点菓子は食べてしまえば証拠は残らないし、お菓子作りが好きなお母さんは印象がいい。何かやっていても菓子を作っていると言えば詮索されることもない…とまぁアホのような理由で始めたのが推しの菓子、腐菓子作りだった。

最初の頃は、まだ冷やし固めたホワイトチョコにチョコペンで顔を描く程度だったので、子供と遊びながら義母の居ぬ間に製作し、クッキー缶にしまっていた。

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だが、人というのはだんだん欲が出てくるものである。ホワイトチョコがパンになり団子になりクッキーになりケーキになり…いつしかチョコペンもアイシングへと進化をとげた。

そうなると、どうにもこうにも時間がかかる。義母は午前中に1~2時間程仕事のため別棟に行くので、その不在の時間にクッキーやパンを焼くメインの製作を行うことにした。しかし、油断は禁物である。いつ別棟から義父母がやってこないとも限らない。建物の構造上、玄関を入ってリビングへのドアを開ければ、キッチンが丸見えである。

義父母が玄関を開け、靴を脱ぎ、扉を開ける。私はこの間に、冷蔵庫の隠しスポットにアイシングクリームを入れ、クッキーは缶にしまい、アイシングの道具はマイボックスに収納し、末っ子が寝たのでお茶して束の間の自由を満喫している主婦を擬態するのである。この間約15秒。最初はバタバタした早隠蔽も段々磨きがかかってきて、最近は眉ひとつ動かさずに証拠隠滅を行えるようになった。日々の積み重ねの賜物である。

残りの作業は子供が寝た後、空き部屋で行うことにして、ポットや台を設置し作業しやすい環境を整えた。しかし、この空き部屋は義母の隣室である。この距離の近さが同居の辛いところである。

そして材料を取り出すキッチンは一階で、義父の部屋は階下にある。つまり、夜中の菓子作業は危険と隣り合わせなのである。冷蔵のアイシングクリームを取り出すため、足音を忍ばせて階下に降り、静かに戻って黙々と作業。義父母の気配を察知したらまずは冷静にその場に待機。鉢合わせてしまった場合には、「お茶を飲もうかと思って」と言うが、手にミニクッキー缶(中はアイシングクリーム)をもっている状態では受けるダメージが大きいので、別の入れ物を模索している所である。

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そんな危険を冒しながら、昼間に焼いたパンやクッキーにアイシングを施していく。残ったアイシングクリームは、子供たちのクッキーにお絵描きする用にしているので、使う色が多いと子供たちは嬉しいようである。

この作業を黙々としている時が安らぎの時間なのだが、末っ子が目を覚ます、義母がトイレに起きる、子どもがオネショをするなど毎回アクシデントはつきものである。とにかく大切なのはことは慌てないことである。何事も冷静に落ち着いて密やかに行う。

そうした困難を乗り越えて完成した作品は、乾燥剤入りの缶に入れて棚に置き、アイシングクリームは冷蔵庫で保存する。

こうして作品を作ると大抵就寝が深夜になるのだが、腐菓子職人の朝は早い。なぜなら作った腐菓子を撮影し、おいしくいただくまでがミッションだからである。パンやフレンチトーストは朝食に、団子やクッキー、ケーキなどはおやつの時間に出し、子供たちとわいわいしながら食べる。至福のひとときである。我が家では、推しは食べ物である。

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しかし、そんな幸せな日々も一瞬で崩れ去る日がやってきた。いつものよう作業を終え、缶に作品を納めようとした、が、入らない。サイズをうっかり大きく作りすぎてしまったらしい。まぁ、1日だけだからと乾燥剤をいれてラップをし作業を終了した。

次の日の朝、近所で不幸があって…と義父が話していた。じゃあ義父母は通夜と葬儀に出るのかな…という考えが一瞬頭をよぎったが、子供の送りの時間が迫っていたので、バタバタと家を出て、10分後帰宅。

帰ると義母が礼服である。

礼服は空き部屋の、つまりは作業部屋のクローゼットの中に入っていた。

やばい、と思った次の瞬間

「ウミちゃんのあれはね、全然そのままでいいんだけど、ちょっと洋服出したからね」

と義母が言った。


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ウミちゃんのあれ。

終わりだ。もうこれで私のオタク人生終わった。そう思ったが、同じオタク仲間から、

「今回のは性的じゃないからセーフ!ただのキャラクッキーだよ!」

「エロいのじゃなくてよかったじゃん。」

と励まされ、「ただのキャラクッキー」を心の支えに腐菓子製作を続けていくことにした。

しかしもう、空き部屋は使えない。自分の部屋の大掃除と模様替えから始めねばならない。受けた精神的ダメージと空き部屋放棄はなかなかに痛い。だが、このままでは終われない。何故そこまでして危険なオタク活動を続けるのか。それはそこに推しがいるからである。

絵を描く時間がなければお菓子に描けばいいじゃない☆彡

そう気軽に始めた腐菓子作成。最早、絵を描いた方がはやいのではないか…という有り様であるが、これはこれでかなり楽しい。

そんなわけで、今日も私は義母とひとつ屋根の下、冒険をはじめる。

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#主婦杯









【おまけ】

セーフじゃない方のクッキー

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