ケーキの味の記憶
おいしい!と感動することはしょっちゅうあるんだけど、残念ながらその味がどんな味だったのかすぐに曖昧になってしまう
このお店行ったことある?って聞かれたときに、どんな味だったのか説明したいけど、すっからかんに忘れちゃってる
で、再びそのお店を訪ねてみて、ああ、そうだったなぁと思う
思ってはいるけど、覚えてるわけではない
そして、もうこの味を忘れないようにしよう!と心密かに誓うのだが、やはりふわふわ煙のように広がり薄まり消え去ってしまうのだ
形のない感覚のものを長くとどめておくことは不可能なんじゃないかと思う
感覚の刺激は身体の奥底にゆるやかに隠れてしまい、再び同じ刺激を受けたときにふわっと舞い戻ってくる
そんな引っ込み思案なものなのだ
ずっとそう思ってきたんだけど、どうやらそうではない人がいるらしい
味の記憶が鮮明に残っていてそれを引き出すことができるらしい
へぇ、そんな人も世の中にはいるのかと遠巻きに思ってたら、意外な人が「あー、このケーキの味が忘れられない」というではないか
「すっごく美味しかったからまたこれにする」
そう言って目の前に座った娘は、10年ほど前のケーキと同じものを頼んだ
そして、周りのクリームがたっぷりついた部分を口に入れ、ああ、この味だと顔をほころばせた
わたしはもう口があんぐりだった
10歳の頃にお出かけして食べたケーキの味を忘れずにいるなんて!
その日の楽しかったお出かけの思い出とケーキのしあわせな思い出が、味とともに蘇ってくるなんてなんてしあわせなことだろう
おいしいしあわせの経験をたくさん重ねられたらどれだけ人生が豊かなものになるだろう
そう思ったら一緒においしい記憶をたくさん重ねていきたいなぁと思わずにはいられなかった
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