いろんなものが軽くなった日。
いったいなにに使ったのだろう。
おさいふが一気に軽くなってしまった。
誤算で、どういうわけか10人以上の野口英世がわたしのところにやってきて、『これじゃあすぐに使っちゃいそうだなぁ』なんて思っていた。
自宅でつないでいるインターネットの支払いがあるから、それに使おう、とおもっていたのに、出掛けにその紙を持って出るのを忘れてしまった。それは後日にしよう、とおもった。
なのに、あんなにたくさんいた野口英世は、あとかたもなくわたしのもとを離れ、今や福沢諭吉さえも姿を消した。
みんな、どこへ行ってしまったのだろう。
むだ遣いはしていない。
忘れていた父の分のチョコレートを買い足し、ついでにじぶん用に買ったチョコはほんのおまけ程度だ。ふだんスーパーで見かけることのない鉄人坂井のチョコレート、と言われれば、ちょっと食べてみたい、というのはひとの心じゃないだろうか。
そして、コスメコーナーに立ち寄った。
コスメコーナーとはいえ、ブランドものの立ち並ぶデパートコスメほどの高額化粧品ではない。地方のショッピングモールのなかのコスメコーナーだ。
プチプラコスメを眺め、どれどれ、と味見しながらあるいた。もちろんほんとうに食べ歩いたわけではなく、手の甲につけて試し歩いたのだ。そうしているうちに、今使っているファンデーションのメーカーのコーナーを発見した。
うそ! ここにあった!!
今使っているファンデーションはナチュラル系のお店で買ったもので、ナチュラル系のお店にしかないものだと思いこんでいた。しかも、今のものがなくなりそうで、買いに行きたいけど近くにはないし、とひやひやしていた。ここはひさしぶりに1時間半かけて車でやってきたところだ。無くなったからといって、仕事帰りに買いに行けるような場所ではない。ラッキー!!
それも、今のものは偶然新幹線の乗り換えの駅で乗り換えの時間内であわてて見つけたもので、それがとても良かったのだけど、色黒のわたしにはすこし明るい。もう少し暗いものか、もしくはこのメーカーの別の種類のファンデーションか店舗でつけてみて選びたい、とおもっていた。
それが偶然にもここにあるなんて!
とびあがるほどうれしくなった。
あれこれと手の甲につけてみて、顔にもつけてみて、をくりかえした。悩んでいたクリームファンデーションは、さすがにカバー力が高く、しっかりとついた。だけど、やや重い。
今使っているものは、つけている間もトリートメント機能があって、とてもしっとりしていて、つけ心地も軽い。それに、アトピー肌のわたしにはめずらしいほどしっとりして肌が落ち着いた状態が続いている。
どれも、すこしずつ家で試してみたい欲求にかられたけれど、今いい状態なのだから、今と同じスキンケアのできるファンデーションですこしトーンを落としたものを買うことにした。
ふと気がつくと、試し塗りをくりかえした手の甲は、ファンデーションでべとべとだった。
ああ・・・。クレンジングないかな・・・。
そうおもって振り返ると、SINNというメーカーのクレンジングが置いてあった。ラッキー! と、そのテクスチャーは透明なジェル状のもので、田中みな実ちゃんがおすすめしていて、気になっていたMTクレンジングジェルのテクスチャーによく似ているように見えた。
あれも試してみたかった。
ちょうど今朝ほんとうになくなってしまった化粧水は、絶対に買って帰らなくちゃいけないものだった。だったらついでに、と、SINNのおためしセットを買ってみることにした。
スキンケア類はそんなわけで、けっこうな額になった。
ほんとうは、おおきな本屋さんに寄って帰ろうとおもっていたけれど、コスメコーナーの散策でかなり満足したので、ショッピングモール内の本屋コーナーに立ち寄ることにした。
買おうかな、とおもっていた本は、パラパラめくってみるとそれほど魅力的ではなく、見送ることにした。
それから中をうろうろと歩いてみた。
本屋さんはだいすきだ。歩いて眺めているだけでも、運命の出逢いをすることがある。そういうときに出逢った本は、たいてい、《 正解 》だ。
と、目に止まった本があった。
『デザインのひきだし』だ。
ちょうど1年くらい前、『セブンルール』にこの『デザインのひきだし』の編集長が出演していて、紙がだいすきでだいすきでたまらないことを知っていた。そして、採算度外視のとってもおもしろい本をつくるらしかった。
1冊2000円もするのに、たいていすぐに完売し、ネットではかなりの高額で売られていることが多かった。だから、見てみたいと思ってはみるものの、なかなか現物を手にすることができなかった。
それが、あったのだ。
この地方のショッピングモールの片隅にある本屋コーナーの一角に。
あった・・・・。
しかも、ZINEをつくりたいという想いがあって、そのために紙にこだわりたい。変にこだわるタイプだから。だからデザインのひきだしで紙特集とかないかな、とおもっていた。そんな折の、『紙(再)入門』だ。
これは買うしかない。
というかもう表紙が直接さわれないけれどなんだかかわいい。かわいくてたまらない。鼻息が荒くなるのをおさえ、両手でだいじに抱きかかえ、レジにむかった。
そして財布を開いたら。
あれ? 朝にはたくさんいたはずの野口英世さんたちがいない。なんとなく重かったはずの財布が、とても軽くなっている。
諭吉さんを送り出し、代わりに念願の『デザインのひきだし』を受けとって駐車場のある外に出た。
青空がまぶしかった。財布は軽くなったけど、こころもからだも軽くなっていた。ここ1ヵ月、インフルエンザや研修でろくに休みもなかった日々から一気に解放された気分だった。
あしたからまた仕事がはじまる。
さぁ、家に帰ろう。
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