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短いおはなし

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短めのお話をまとめる予定です
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#あの夏に乾杯

14歳の夏休みなのにねこすらいない

 私ときたらここ数日の暑さもあってもうフラフラのイライラだった。漫画やTVだと14歳の夏休みというのは、みんなでどこか海にでかけて(しかもなぜか友達の一人が超お金持ちでリッチなリゾートとか)、男女ペアになったりとか、冷たくてアイス浮いてるソーダ飲んだりとかいろいろと想い出を作るはずなのに、私にあるのは、朝起きてご飯食べて部活行って帰ってクタクタになってアイスなんて全然浮いていないおばあちゃんの作ってくれた紫蘇ジュースを一気に飲み干して寝るの繰り返しだけだった。紫蘇ジュースは美

お盆にはあの人を迎える精霊馬を

 からりと晴れた青空に、威勢よく張り出した真っ白な入道雲。重さを感じるほどのそれを良く見ようと日傘を傾けて仰ぎ見れば、待ち構えていたかのように真夏の日差しが瞳に差し込んでくる。たつ乃は慌てて傘の蔭へと隠れて思わず苦笑する。軒先では、くすくすと笑うように風鈴が揺れていた。  いつもと同じ、暑い夏の庭先。ただひとつ違うのは、60年間連れ添った寅一が隣にいない事だ。 ――そういえば、初めての夏なのね  たつ乃はあらためてそう気づいた。寅一が旅立ったのは昨年の11月。そろそろ冬

今ならパピコを独り占め

 暑い暑い夏の夜。我が家のクーラーは、稼働しなかった。母は冷房を使うことを嫌い、窓を開けて扇風機や団扇や風鈴で凌ぐことを、良きこととしていた。  私と兄は、しばらく扇風機の前の場所を取り合いしていたのだけど、そのうちどうでもよくなって、二人で汗をかいて居間の床に寝転がっていた。そんな私たちを、父は夜のドライブへと連れ出してくれた。  私たち兄妹を乗せた車は、冷房を効かせて闇を走る。なんていう天国。でも、この天国にはまだ続きがあって、私と兄はそれを口に出さずに期待していた。