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副腎腫瘍になっちゃったー体験に基づく記録

はじめに

わたしは副腎に腫瘍がある。この腫瘍は別の目的で撮ったCT検査で見つかり、現在は経過観察となっている。副腎腫瘍が見つかってから、検査で原発性アルトステロン症と診断され、再検査でそれが否定され経過観察となるまでいろいろあった。そこで他の副腎腫瘍の方の参考となるよう、その経過を記録に残すことにした。最近CT技術の発達で副腎偶発腫(別の目的のCT検査で偶然見つかる副腎腫瘍のこと)が見つかることが増えているらしい。副腎腫瘍の発見からその後の検査、その過程で自分がどう感じ、どう考えて行動したかを記録することで、同じような立場の方々の参考になればうれしい。

1.副腎腫瘍の発見

副腎偶発種はちょっとした思いつきで受けた大腸内視鏡検査からわかった。今まで一度も大腸内視鏡検査を受けたことがなかったので、数十年生きてきて1回ぐらい検査してみるか、という気持ちになったのだ。それで大腸内視鏡検査を売りにしているクリニックに行った。

大腸内視鏡検査の後、クリニックの医師からこういわれた。「子宮筋腫って言われたことあります?」。私はないと答えた。先生の説明では、大腸壁に膨らんだ箇所があり、その後ろに何かないか確認した方がいいと言う。それでCT撮影ができる別のクリニックを紹介され、造影剤を入れたCT画像を撮影することになった。

CTの結果は大腸内視鏡検査を行ったクリニックに送られ、結果はそこで告げられた。「大腸壁の後ろには何も見つからないのですが、副腎に腫瘍があるので、検査した方がいいです。ずっと寝たままの血液検査をしなくてはならないので、ここでは検査できないんです。紹介状を書くので近所の大きい病院に行ってください。どこがいいですか?」。突然近所の大きい病院と言われても思いつかなかったので、困っていると、先生は宛先なしの紹介状を書いてくれた。

2. 地元の総合病院を受診:I総合病院で検査入院

どの病院に行こう?副腎といったらT大学病院が内分泌系では有名だと聞いたことがある。でも体調は悪くないし、たいしたことないのに大学病院に行くと、本当に大学病院を受診しなければいけない人が受診できなくなると思い、近所のI総合病院に行くことにした。

I 総合病院に電話して事情を説明すると「予約制ではないので直接内科に紹介状を持ってきてください。」と言われた。特に曜日は指定されなかった。それで気軽に空いている日に紹介状を持ってI総合病院に行った。

I総合病院は地元で一番大きな病院だ。いつも混んでいて長時間待たされるので気が進まないが仕方がない。午前中に受診したらその日の午後にでもその面倒な血液検査をしてすぐ開放されると思っていた。

長時間待たされた後、ようやく診察室に通された。紹介状と画像は最初に受付の人に渡してあるので、すでに医師の手元にあるはずだ。眼鏡をかけた医師は、私が着席すると唐突に言った「1週間検査入院してください」。びっくりした。1週間も何検査するの?そんなに悪いのか?渡した画像の説明とか、どんな検査をするとか、説明はなかった。

「仕事があるし、とりあえず入院の予約取りますが、上司に確認して後で変更することは可能でしょうか。」と聞くと、変更することは可能という。医師にそういわれて入院拒否できる患者はなかなかいないだろう。仕方なく診察室を出て、指定されたカウンターで入院の予約と手続きをした。手続き直後に上司に電話して、検査入院するから休みが欲しい旨伝えると、幸い年末で繁忙期ではなかったため、許可をいただくことができた。

こうして入院日当日私はI総合病院に出頭した。体調は悪くないので出頭と言う表現が一番ぴったりくる。入院するのは初めてだ。指定の場所に行くと病棟に連れていかれた。4人部屋で個人スペースはカーテンで仕切れるようになっている。ここで1週間過ごすのか。相部屋でも意外と居心地よさそう、というのが第一印象だった。

看護師さんが来て入院についてひととおり説明してくれた。最初の検査についての説明も簡単にされた。まずは24時間蓄尿するとのことだった。蓄尿とは、24時間尿をビニール袋のようなものに貯めて、尿中の成分を検査することだ。私も入院前に副腎偶発種についてネットで調べていたので、蓄尿検査をするのは何となく知っていた。

ネットで読みかじった情報によると、副腎に腫瘍ができると、副腎が勝手にホルモンを増産又は欠乏して、ホルモン異常になることがあるらしい。副腎はホルモンを作る臓器でいくつか生命維持にかかわる重要なホルモンを作っている。異常がでたホルモンの種類にもよるが、どうも高血圧になる場合が多いらしい。自分は低血圧だし、副腎に腫瘍があっても非機能性と言って、ホルモン異常にならない場合もある、とある大学病院のサイトに書いてあった。非機能性の副腎偶発種だったらいいな、と何となく思っていた。

蓄尿のほかに、ホルモンの値を調べるための血液検査が複数行われた。入院日の午後に病棟の担当医が部屋にやってきて、血液検査をするための点滴口のようなものを腕に取り付けられた。要は血管に針を刺しっぱなしにして、血を取りたいときに管から自由に採れるようにする物だ。担当医は若い医者だった。針刺しが苦手らしく、左腕手首で針刺しに失敗し、次に右腕手首で試し、超音波の機械のようなものも使って針を刺そうとしたが、またもや失敗。結局初診時に外来で会ったW医師が病室に来て、手際よく針刺ししてくれた。これでいつでも血がとり放題の状況になった。しかし、病棟担当医の針刺し失敗で両腕が複数個所内出血してしまった。

その日の夜から採血系の検査が始まった。採血系の検査をするとは聞いていたが、何の検査をするとの説明は一切なかった。入院した日は、夜中の1時頃寝ている時に看護師さんが部屋に来て、腕から血液を抜いていった。副腎ホルモンは、日内変動があるらしく、就寝時のホルモンの値が知りたかったらしい。他にも、別の日だったが、寝る前に薬の錠剤を飲んで、翌朝採血する検査もあった。何の検査なのかという説明はほとんどなかった。説明もなく渡された錠剤を飲むのはあまり気持ちの良いものではない。どんな検査をするのか、副腎のどのホルモンを測るか少しでも説明してくれるとうれしいと感じた。

翌日午前中に所定の血液検査が終わり、午後は特にすることもなく病院内を散歩していた。病棟に戻ってきたら、病棟事務の方が泌尿器科のK先生が呼んでいるので行くように、と言われる。泌尿器科のK先生は全く会ったことがなく、なんだろうと思いながら泌尿器科に行き、診察室にとおされた。K先生の説明では、内科のW先生から私の画像を見せられて意見を求められたとのこと。K先生の話では、画像を見る限り腫瘍の大きさは2cmぐらいで血管のように見えるところや石灰化しているように見えるところもあるのでFDG-PETを受けた方がいいと考えているとのことだった。そう医師に方に言われて拒絶できる患者もなかなかいないと思う。なので「わかりました」と承諾した。その時はまだFDG-PETが保険適用で3万円もかかるとは知るよしもなかった。

病棟に戻ってから、何で泌尿器の先生に直接呼ばれたのか不思議に思った。というのも泌尿器は副腎腫瘍を手術で摘出する外科系の科だからだ。まだ内分泌の検査入院している最中で血液検査結果も出ていないのに何で泌尿器に呼ばれるんだろう?そんなに画像に写った像が良くないのだろうか?と不安になった。

翌日も血液検査だった。今日は採血検査の前に尿を取る、と朝起きた時に看護師さんから言われた。看護師さんは採尿のコップを渡さずに行ってしまった。いつコップをもらえるんだろうと思っていたら、どうしてもトイレに行きたくなりトイレに行ってしまった。その後1時間ぐらいしてから、看護師さんが採尿のコップを持ってきた。その時にはもう尿が出ない状態になっていた。仕方なく水を飲みまくった。その結果少しだけ尿をとることができた。その後、採血検査になった。

今回の採血検査はやっかいで、まず採血をした後、薬を飲み、その後時間をあけて4回採血する。その間ずっと寝ていなければならない。私は尿を出そうと水を飲みまくってしまったのが災いして、1時間後の採血の前に猛烈にトイレに行きたくなった。少しなら大丈夫かな?と思い、トイレに行き、ベッドに戻ったその直後に医師が採血にやってきた。その時はどうしようもなかったのだが、検査的にはこれはまずかったような気がする。横になって安静状態にしていなければきちんとした検査値が出なくなりそう。困ったときは自己判断せずナースコールを押せばよいのに、初めての入院でよくわからず、ナースコールを押して聞くことができなかった。立ってしまったことを医師に申告せず、こうして最終検査が終わり、退院することになった。正しい検査値がでるか不安だった。

退院時にひと悶着あった。退院する時、結果を聞くため次にいつ来院したらよいかを看護師さんから教えてもらう。するとなぜか、内科の受診予約と泌尿器科の受診予約が日を違えてふたつ入っていた。もともと内科で検査入院しているため、内科の受診予約が入っているのはわかるし、日時もW先生と合意していた日時だった。しかしなぜ泌尿器科の受診が勝手に入っているのか?泌尿器科は12時半に受診予約を入れているので、受診するなら泌尿器科の受診のためだけに丸1日仕事を休まなくてはならない。そして泌尿器科で一体何を聞くというのだろう?看護師さんに、泌尿器科の受診をこの時間帯に入れられても聞いていないし仕事を休めないので困ると伝えた。看護師さんから泌尿器のK先生に問い合わせるも、手術中で回答がもらえないとのことだった。看護師さんからW先生に聞いたら、W先生は「行かなくていい」と言ったらしい。仕方がないので看護師さんが責任をもって、泌尿器科のこの日の受診は難しいということをK先生に後で伝えるということで、無事退院することができた。

退院1週間後に別の病院でFDG-PETを撮影した。入院したI総合病院にはFDG-PETが無い為、近隣のFDG-PETがあるクリニックを内科のW先生が予約してくれたのだ。FDG-PETは簡単に言うと、体内の腫瘍が悪性か良性かを判定するためのCTらしい。糖をつけた標識物質を体内に入れて、この糖が腫瘍に異常なほど凝集する場合は悪性である可能性が高いらしい。悪性の腫瘍は大きくなるために異常に糖を使うそうだ。

FDG-PETの予約は午後で検査前は飲食禁止だった。そのため、検査当日は朝から何も食べず腹ペコのまま午前中仕事をし、午後から検査に向かった。クリニックは豪華な感じだった。ここで糖をつけた標識物質をを体内に注入し、しばらく静かに横になっている。その後CTの下をくぐり、糖を付けた標識物質が副腎腫瘍に凝集するかを観察するらしい。結果は後日、検査入院したI総合病院に送られ、I総合病院で結果を聞くことになる。お会計の時、3万円を出す手が震えたような気がした。保険適用で3万円、ということは保険がなければ1回9万円以上する。恐ろしく高価な検査だ。

年明けにFDG-PETと入院検査の結果を聞きにI総合病院に行った。受診機で受付したら、内科の受診の後になぜか泌尿器科の受診予定が勝手に入っていた。多分K医師が内科の診察に合わせて受診予約を移動したのであろう。仕方ない泌尿器科も受診しよう、と思った。

まず内科の外来受診に行った。診察室でW医師から、FDG-PETの結果異常な糖の凝集は見られなかったと言われた。ほっとした。入院中に泌尿器科に呼ばれたことから、もしかして画像の写り方が悪性っぽいのかも、と気になっていたので、糖の異常凝集が無かったと聞いて、心底ほっとした。ネットの読みかじりだが、副腎原発のがんは非常にレアな希少がんだが存在するらしい。

続いて検査入院の結果を説明された。検査の結果「原発性アルドステロン症」だと診断された。私の場合、アルドステロン/レニン比(原発性アルドステロン症の診断のための基準)が基準値を超えている状態だそうだ。副腎が勝手にアルドステロンを多く作っている状態だと。通常レニンによってアルドステロンの生産量が調整されるが、レニンの量に関係なくアルドステロンが多くなっているとのことだった。W先生のたとえ話では、レニンが上司でアルドステロンが部下であると。レニン(上司)の指示がないのに部下(アルドステロン)が勝手に働いている状態だと。

次のステップとして副腎静脈サンプリング検査をする必要があるとW先生から言われた。後からネットで調べたところ、この検査はなかなか難しい検査で、今までの採血検査とは全く違う検査だった。副腎は腎臓にくっついた形で二つあり、どちらの副腎からアルドステロンが多く産生されているか分からないので、副腎静脈サンプリング検査をするらしい。脚の鼠径部の静脈からカテーテルのようなものを入れて両副腎近くまで行き、副腎を刺激し、どちらの副腎がアルドステロンを異常に多く産生しているかを調べるらしい。(上記は自分でネットで調べた情報で、W先生からこうした詳しい説明はなかった)

W先生は、副腎静脈サンプリング検査をするために、内科のA先生の協力を仰ぐことになると言った。その後A先生の診察室で、A先生から原発性アルドステロン症の説明を受け、副腎静脈サンプリング検査の入院予約を取った。

その後泌尿器科に行き、K医師の受診をした。K医師からFDG-PETの結果、糖の異常な凝集がなくてよかったね、と言われた。それだけ。後で会計をしたら、当然泌尿器科の受診料もかかっていた。なぜ同じ結果を聞くために泌尿器科を受診しなければならないのか本当に分からなかった。

3.転院を検討

家に帰っていろいろ考えた。A先生のとの会話の中で、ひとつ解せなかったのは24時間蓄尿による尿中のアルドステロンの量は基準値以内だと言う。それでもアルドステロン/レニン比(原発性アルドステロン症の診断に使う基準)が基準値を超えると原発性アルドステロン症になるんだろうか?またネットなどの情報を見ると、原発性アルドステロン症は、高血圧になることが多いと書かれていた。私は低血圧なのだが、それも何かひっかかる。A先生は、症状(高血圧)が出る前から治療した方がいいと言っていたが、アルドステロン/レニン比が基準値以上でこんなに低血圧なのはありえるんだろうか?

懸念点は他にもあった。A先生は、副腎静脈サンプリングは難しい検査で、I総合病院でうまくいかなかった場合は、別の病院(Y病院)でもう一度検査することになると言った。患者の立場からすれば、難しくて侵襲性の高い検査であれば、2回もやりたくない。時間も料金も2倍かかる。Y病院は原発性アルドステロン症の治療に定評のある病院なので、副腎静脈サンプリング検査が必要なら、最初からY病院に転院してそこでやってもらった方がよいのではないか?

それ以外にも、検査入院中に感じた不安があった。病棟医師と看護師の連携がうまく取れていないように見えたのだ。副腎腫瘍の検査に看護師さんが慣れておらず、病棟医師の指示がうまく伝わっていないので、看護師さんから私への検査に関する指示もあいまいになっている感じだった。

総合的に診て(個人的な考えだが)I総合病院は副腎腫瘍に関する症例が少ないように思われ、ノウハウも少ないように推察された。もっと副腎腫瘍の症例数が多い病院に行った方がよいのでは?と思うようになった。血液検査だったら私も気軽に受けるのだが、次に受ける副腎静脈サンプリングは今までの検査と比べて侵襲性が高い検査なので、本当に必要であれば受けるが、必要ない検査であれば受けたくない。I総合病院のW先生とは別に、副腎腫瘍の症例を多く見ている医師の診断が欲しいと思った。

最初はセカンドオピニオンで副腎腫瘍の症例が多い病院の医師に診てもらうことを考えた。しかし、セカンドオピニオンで受診すると、保険適用外になり、意見をもらうのに1時間4万円ぐらいかかるらしい。その上、セカンドオピニオンは、意見をもらった後、元の病院に戻って治療を継続する制度で、その後はI総合病院に戻って治療を受けることになる。I総合病院の副腎腫瘍の症例数に不安があるので、できれば戻りたくないと感じた。

悩んだ末に、セカンドオピニオンではなく転院したいので紹介状を書いてほしいとW医師にお願いすることにした。問題は転院先をどこにするかだ。A医師が言っていたY病院は原発性アルドステロン症の治療に定評がある病院で、腫瘍摘出となった場合の手術症例数も多そうだ。今後治療が必要になった場合、安心できそうだ。ただ、家から2時間ぐらいかかる病院で、治療継続が必要になった場合、職場との位置関係も含めて通うのは難しいと考えた。

ここで副腎腫瘍が分かった時、最初に行こうと思っていたT大学病院が思い浮かんだ。T大学病院も内分泌では定評のある病院で原発性アルドステロン症の症例数は多そうだ。こちらは家から1時間ぐらいかかり近くはないが、職場の位置関係も考えると、こちらの方がまだ通いやすい。午前に会社に行き、午後半休をとって病院にいくこともできそうだ。悩んだ末、T病院に転院することに決めた。

ちなみに病院選びは、原発性アルドステロン症の治療に関する本を参考にした。Amazomに行って、病名で検索すると「XX診療マニュアル」といった医師向けの本が出てくる。その中から何冊か購入した。その本に寄稿している先生の所属病院は大体その病気の治療で定評がある病院だ。いくつか自分の家から通えそうな病院をピックアップして、その病院の内分泌科のサイトを見たりして決めた。

ウェブサイトでは、学会のホームページが参考になった。副腎腫瘍であれば、内分泌学会のホームページに情報が掲載されていて助かった。適切な学会のホームページであれば、適切な情報が掲載されているし、患者向けの疾患啓発的なやさしい情報も掲載されている場合がある。インターネットを参考にする場合は、情報の発信主体がどこか?に気を付けた方が良いだろう。発信主体が学会や病院なら大体大丈夫だが、民間企業であれば気を付けた方が良いかもしれない。よくあるのは「がんが治った」的な情報だ。こうした情報を発信している民間企業は商品を売ることを目的にしているので、情報の質には気をつけた方が良いと思う。

話が横にそれた。

I総合病院で副腎静脈サンプリングの検査入院予約を取ったものの、T大学病院に転院することを決めた私は、紹介状を書いてもらうためにW先生の診察を受けに行った。I総合病院は予約制ではないので、仕方なく予約なしで診察を受けに行った。事前に病院の代表電話に相談したら、そうするように言われたのだ。内科の受付の方に、転院したいので紹介状が欲しいと相談し、診察室に通された。と書くと、簡単に診察室に通されたようだが、1時間以上待った。I総合病院はいつも患者であふれていて診察を受けるには長時間待つ羽目になる。

W先生にどう言ったものか考えたが、W先生は診察で結論のみおっしゃって、説明はあまりなかった。それで私も率直に結論だけ「転院したいので紹介状を書いてほしい」と伝えた。W先生は、「患者さんの希望に合わせます」と言い紹介状を書くことに同意してくれた。

今思うとW先生も大勢の外来患者さんをこなすのに必死で、結論だけ診療になっていたのかもしれない。ただ患者の立場としては、自分の体のことなのでもう少し説明が欲しいし、納得しなければ次の治療にはすすめない。疑問を持ったら質問したいがI総合病院ではあまり質問Welcomeという雰囲気を感じなかった。この点も転院の理由である。

4. T大学病院を受診:再び検査入院

点滴

さっそく紹介状を持ってT大学病院の予約を取り、診察を受けに行った。事前にT大学病院のホームページを見て原発性アルドステロン症を主に診ている先生の診察日に予約をとった。初診時にお会いしたS先生は背が高い先生だった。W先生の紹介状の検査値を見て「うーん、これちがうんじゃないかなぁ」と言い、尿中のアルドステロン量が基準値以内であることにも言及した。そして「もう1回入院して検査してみる手はあると思う。4日でできるけどどうですか?」と言われた。内心、また入院して検査するの。今手元にある検査結果じゃだめなの?と思った。ただ、前の病院の検査中に寝たままでいなければいけないのに立ってしまった負い目があり、本当にちゃんとした検査値が出ているのか不安があった。そこでもう一回入院して検査するとの提案を受け入れることにした。

S先生は最後に「最近こういう人(別の目的で行ったCT検査で副腎腫瘍が見つかる人)多いんだよね」と言っていた。副腎腫瘍について調べていた時に、確かにそういう記述をネットで見た。CT技術の発達で、今まで気が付かなかった副腎腫瘍が発見され検査につながっているようだ。

こうしてT大学病院に「原発性アルドステロン症疑い」で検査入院することになった。今度も4人部屋で満室だった。初日にコミュニティルームで病棟の医師が、原発性アルドステロン症の説明をしてくれた。栄養士が高血圧の食事管理について説明してくれた。こうした説明が事前にあると大変心強い。この病院は原発性アルドステロン症疑いで検査入院している患者が複数名いるようで、私の他に男性がひとり一緒に説明を受けた。

同じ病室の方は一人を除いた2人が原発性アルドステロン症の検査入院のようだった。カーテン越しに漏れ聞こえてくる会話で大体わかる。I総合病院では、同室に副腎腫瘍の検査を受けている人はいなかった。同室者が同じ病気の疑いで入院していることは心強く感じた。同室の他の方々は難治性の高血圧で原発性アルドステロン症疑いになったようだ。その点は私と異なる。

T大学病院でも、24時間蓄尿をした。また着いたその日にいつ何の検査をするか、スケジュールを事前に説明してくれた。さすが原発性アルドステロン症の治療に定評がある病院で、すべてがシステマチックに進んでいった。看護師さんが検査の説明を紙の資料を使ってしてくれた。資料が手元にあるので自分がどうすればよいか事前に分かり、スムーズに検査を受けることができた。

この入院では3つの血液検査をした。うち2つはI総合病院で行った検査と同じだったが、1つは初めて受ける検査だった。この検査は、体内に2Lの生理食塩水を静脈から3-4時間ぐらいかけて入れる。その途中で何回か採血し、ホルモンの値を測る。その間ずっと寝たままの姿勢だ。この検査が一番きつかった。生理食塩水を2Lも体内に入れたことがないし、最後の方になると心臓にすごく負担がかかっているような感じがする。ちなみに検査中は絶食なので、朝から何も食べず検査が終わる昼過ぎまで食べることはできない。検査が終わる頃には昼食の時間は過ぎているので、いつも検査後は1Fのコンビニに行きお弁当を買ってきて食べた。T大学病院の検査入院は予定どおり4日で終わった。

検査からしばらくして、検査結果を聞きにS先生の診察を受けた。S先生は2つの検査結果の数値を見せて、原発性アルドステロン症ではないと言い、検査結果もプリントアウトして渡してくれた。私は、3つ検査を受けたので、あと1つの検査結果はどうだったのですか?と聞いた。どうもその検査は基準値を超えたらしい。しかし、総合的に診て原発性アルドステロン症ではないというのがS先生の見立てのようだった。検査は偽陰性や擬陽性もあるので完全ではないことはわかる。原発性アルドステロン症を多く診ているS先生が総合的にみて、原発性アルドステロン症ではないと判断するのであればそれで良いと思った。ただ基準値を超えた検査結果を言わないのはどうかと思った。

S先生は原発性アルドステロン症ではないと言ったが、副腎腫瘍が大きくなっていないか定期的に検査した方がよいと言った。次のCT検査は半年後に実施した。腫瘍は大きくなっていなかった。その後は1年毎にCTを撮影しているが今のところ大きくなっている気配はない。S先生のカルテには「(多分)非機能線種」と書いてあるのが見えた。

5.まとめ:どうすれば一番よかったのか?

副腎腫瘍が発見されてから、経過観察になるまで、3か月の時間を要し、検査入院2回分の費用が12万円ぐらいかかった。一連の体験をふまえて、結局どうすれば一番よかったのかを自分なりに考えてみた。

先に結論を言ってしまうと、「最初から副腎腫瘍に詳しい病院に行くべきだった」。これにつきる。副腎腫瘍が最初に分かった時、内分泌分野に強いT大学病院に行こうかと考えたのだが、そのとおりに最初からT大学病院に行けばよかったと思う。症状もなく、大したことないからと遠慮して地元のI総合病院に行ったが、やはり病院毎に疾患毎に得意不得意はあるので、最初からよく検討し、その疾患に詳しい病院に行った方が良いと思う。

というのも日本の大病院を受診するには、紹介状が必要で、紹介状がないとどこにも行けないのだ。正確に言うと高い初診料を払えば紹介状なしで大病院を受診することは可能だ。その場合受診の経緯を自分で全部説明しなければならない。また、治療データがない紹介状を持たない患者の扱いは、転院先の先生も正直困ると思う。一から検査データを取り直す必要がある。

私の場合、副腎腫瘍と最初に診断した大腸内視鏡を受けたクリニックの紹介状を持って、I総合病院に行ったのだが、I総合病院の受付に紹介状を提出した瞬間にどこにも行けない状態になるのだ。やっぱり別の病院に行きたいと思っても、もう紹介状がないのでどこにも行くことができない。正直なところ、初診でW先生が詳しく説明してくださらなかった時点で、「あ、しまった。別の病院に行きたい。」と思ったのだが、その時はもう紹介状がないので、別の病院に行くことはできない。それでI総合病院でそのまま検査入院することになった。検査後、副腎静脈サンプリング検査に進む前に、T大学病院に転院することを決断して本当に良かったと思う。転院するにあたりW先生の紹介状が必要で、転院はそれなりに労力がかかった。なので、できれば最初から副腎腫瘍に詳しそうな病院に行ったほうがよいと思う。

このように、一度ひとつの病院で治療プロセスが進みだすと、それを止めて転院するのはなかなか難しいのが現状だ。いつお世話になるか分からない地元の大きな病院に目を付けられたくないし、ものすごく悩んだ。

おわりに

私の副腎腫瘍はいつからそこにあるのか分からない。もしかしたら、意外と若い時からずっと害をなすことなくそこにあったのかもしれない。今回経過観察になり本当に良かったと思う。ただここに至るまでは、どうするのが一番良いか自分なりに悩んだ。

自分が副腎腫瘍の診断を受けて感じたのは、病気が重いのか軽いのかよく分からない段階で誰かに相談するのはなかなか難しいということ。一人暮らしの私は、相談する相手もなく、ネットや本で情報収集し、ひとりでもんもんと考えることが多かった。それが本文を書く動機になった。この記録が同じように副腎偶発腫瘍と分かった方の参考になればうれしい。

最後に補足だが、私は医療従事者の対応を非難するためにこれを書いたのではない。個別の医療従事者の方はおかれた場で最善を尽くして患者さんのために尽力されていると思う。ただ医療者の出した診断が、患者として腹落ちしなければ、別の医療者の診断を受けてみるのも一つの方法だと思う。患者として、何か引っかかることがあれば、まずは自分の感覚を信じていろいろ調べてみることをお勧めする。そして調べた上でどうするか、自分で納得できるように決めて行動することが大事だと思う。最後に結果を引き受けるのは患者自身なのだから。

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