ワイルド・マン・フィッシャー紙ジャケCDのお知らせ。
フランク・ザッパがプロデュースし、1969年4月に発表されたワイルド・マン・フィッシャーのアルバムが、8月に紙ジャケットCDで再発されることになり、そのライナーノートを書いたところです。CDの解説を書くのは5年ぶりくらい。内容をかなりカットして結局5000文字くらいに収めました。それでも大幅にオーバーしてるけど。本作はざっくり言うと妄想型統合失調症と双極性障害を併発した男の歌をザッパが編集した2枚組のレコード。いったいどのくらい売れるんだろ。現在わが国に千数百人いるのではないかと思われる、ザッパの全作品116タイトルをすべて持っていて、ガチで内容を把握しているみなさんはお買い求めになりますでしょうか。
ザッパはワーナーブラザーズの「リプリーズ」の傘下として2つのレーベル「ビザール/ストレイト」をスタートさせ、1969年の4月から6月にかけて①The Mothers of Invention『Uncle Meat』②Wild Man Fischer『An Evening with Wild Man Fischer』③Captain Beefheart & His Magic Band『Trout Mask Replica』の3つのアルバムをプロデュースしてリリースしています。これらはすべて2枚組のアルバムで、個人的には昔からこれを3部作と捉えていました。今回の解説でもそのことについて書いてますが、より考察を深めるには『Uncle Meat』と『Trout Mask Replica』を掘り下げつつ、1968年から70年のザッパの仕事を俯瞰する必要があり、その点については字数の都合でばっさりカットしているので、かなーり言及不足ではあることはいなめません。
アルバムの発売後、被害妄想にとらわれたフィッシャーが、ザッパ邸で物を投げて当時まだ3才のムーンにぶつけそうになったり、ベビーシッターを殴ったりする事件があり、その事が遠因となってかゲイル・ザッパは長年本作の再発を許可しなかったと言われています。また同時期に『Trout Mask Replica』を出したキャプテン・ビーフハートは、フィッシャーと同じ「変人枠」にくくられてプロモートされ、「俺をあいつみたいに〇〇〇〇扱いするな!」と怒りをあらわにしたという話も。本作は2015年にゲイル・ザッパが亡くなった直後に初めてCD化されました。このタイミングはヒジョーに意味深ではあるけど、ザッパ本人は本作における自身の仕事ぶり満足しており、どれだけ時間が経過しようと本作はこうして再発されるべきだったのです。ちなみに私は本作の最初のCD化の時の国内盤のオビのデザインをしています。どうせならいつか日本で紙ジャケットCDで出たらいいのになと思っていたら、本当に出る事になりました、5年前のCDはパッケージデザイン的にはかなり欠落部分があったので朗報です。
本作の主役であるワイルド・マン・フィッシャーは2011年に亡くなっています。プロデュースしたザッパも、ゲイル夫人も、キャプテン・ビーフハートもすべて故人。きっとそれぞれ素晴らしい人生だったでしょう。この3部作は、ザッパの仕事作法の点ではっきりとした共通性がありつつ、明確に個性の異なる作品で、なおかつ並々ならぬ感情が渦巻く心のアルバム群でもあります。それらレコード群を息子に持たせてみました。ここから多様な世界を感じとってもらえるといいんだけど、とりあえずでいいから。2020年の小学生がこれらのレコードを一度に手にすることは稀有なことでしょう。
ワイルド・マン・フィッシャーの紙ジャケCD『An Evening with Wild Man Fischer』は8月26日発売。この日は息子の誕生日でもあるね。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?