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「旅と旅行。」

少し前、えのもTくん(以下Tくん)と会った。

Tくんは私を「おばば」とよぶ。このあだ名をつけられた時、私はまだピチピチの16歳だったんだけどね。
私はTくんがチンパンジーにしか見えない。これはもうしょうがない。それにしか見えないんだもん。
多分お互い、特に深い理由はなくそう思っていて(少なくとも私はそう)、そうやって感覚で人とのて距離を測っているところはものすごく似ていると思う。

最後にTくんと会ったのはきっと高校の卒業式で、わざわざバイバイを言うほどの関係でもなかったから覚えてない。
それでも高校生ながらになんとも面白いニンゲンだと思ったことは覚えていて、そんなTくんから「おばば、お話しよう」と突然お誘いを頂いた時は戸惑いの反面ワクワクした。

Tくんとの話は、話というよりも議論に近いと思った。お互いの意見を重ねていって、私たちなりの答えを探してる感じ。
議論といってもその内容は学校のこと、農業のこと、自己肯定感のこと、宗教のこと...どっちかというと雑談なんだけど。ほんと取り留めのないことを次から次へと話続けた。待ち合わせしたのは夜の10時だったのに気づいた時には2時になっていた。2人とも一滴も飲んでないのにね。
それぐらい聞きたいこと、話したいことが渋滞していたんだと思う。
というか、お互い誰かに聞いてほしい、話したい、行き場のない意見や感情を抱えすぎてたのかな。

「人に言う言葉って、時々ブーメランになって返ってきて、驚くほど深く自分に突き刺さったりするよね」
と、なんともなしに吐き出された一言が、あの夜のハイライトだと思う。
どっちが言ったかは覚えてないけど、人の言葉か自分のの言葉かわからなくなるぐらい、
それぐらいなんの違和感もなく入ってきて、まさにそのフレーズの通り、突き刺さった。

それはきっと、その日私がTくんに投げかけた言葉の全てがその”ブーメラン現象"を起こしていたからだと思う。
いや、ともすると私が他人に投げかける言葉のほとんどが実はそうなのかもしれないとさえ思った。

その日の会話を反芻しながら、その言葉たちを全力で受け止めてみようと思った。
今の私に刺さる言葉はきっと、今の私に必要な言葉なんだと思ったから。

だから、"社会のレール”を外れたニンゲンに会い続けているTくんに言った
「面白い人図鑑作ってよ。」という言葉が、次の日の夜、自転車をこぎながら曇り空を眺めている私に「あれ、それって私がやりたい事なんじゃ...」とブーメランした時、これは実行しなきゃと思った。
という事で、始めたよ。Tくん。

幸いな事に私の周りには素敵な人、面白い人、やばい人、キモい人(愛を込めたディスりだよ)が溢れているから、ゆっくりでもその人たちへの愛を言葉として残したいと思う。

この活動(というほと大掛かりなものではないけど)は、その人のことを想いながらこれまでの事やその人の話をじわじわと思い出す感じが、旅から帰ってきた後に写真を見返す時の感じに似ている。だからもしいつか、この文章がシリーズ化して一冊の本としてまとめる時がきたら、タイトルはきっと「友人紀行」にすると思う。
タイトルは、その人が言った中で一番心に残っている言葉にする。私にとってその人の存在をなんとなく言い表すのって結局その人の生の言葉だと思うから。


かの偉大なTくんは、私のヒッチハイクの旅の話を聞いてぽろっと、
「旅と旅行。一文字違うだけでも本当に違うんだねえ。」
とつぶやいた。

確かに。(これは、実際には たあああああしかにいいいいいいいいい )

旅行というと、普段行かないようなところに行く行動そのものを指している感じがするけど、
というと、その中で出会ったヒト・モノ・コトとの出会いや関わりを包括して表している感じがして、なんか温かみがある気がする。
ううううん、ほんと、その通りだよTくん。

この言葉に納得する一方で、私はとっても安心していた。
この人は言葉を大事にする人だから、きっと私が選びとった言葉を数々の言葉の中から「選びとった」ことを理解してくれるだろうし、今日話した内容も、それを構成する言葉も、私が伝えたかったように汲み取ってくれる気がした。

Tくん曰く、彼は今人生の迷子らしい。
私から見ると、迷子というよりは「夏休みの冒険中」って感じがする。
真っ青な空の下で知らない道を開拓していくあのワクワク感とか、
道が見つけられるのかもわからないドキドキ感とか、
目に入る一つ一つのものが気になって、夢中になっちゃうあの感じ。
彼なりの迷子なんだろうけど、それにしてもすがすがしすぎるぞ。

そうやって不安要素をも楽しく変えちゃうのはTくんの才能だ。
そしてその才能は周りをも変えちゃう力を持っている強力なものだと思う。
現に、Tくんと話してから私の心にはひまわりが咲いていて、私も彼の夏休みの冒険に引き込まれている。
恐るべし。

だからきっとTくんは、
これからも周りの人を巻き込みながら素敵な夏休みを謳歌して、
夏休みが終わっても道なき道を開拓し続けていくんだと思う。

だから私も、今は夏休みの冒険を目一杯謳歌してやる。
見てろよ、Tくん。

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