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sakuraのお話③ 「おはろばの部屋」

チャット部屋は、基本的には誰でも自由に作れて、誰でも自由に出入りできる場所なのですが、中には部屋主さんが厳しくルールを定めている部屋もありました。

初めて入ってきた人は、まず自己紹介すること。
無言でのぞき見だけの人は、退室させます。
部屋を荒らす人は退室させます。
みんなで楽しく話せる人だけ歓迎します。

みたいな感じで、部屋を作る部屋主さんは、けっこうな絶対君主だったりしたのです。

チャットでは、居心地のいい、気に入った部屋ができると、その部屋に何度も通うようになり、常連さんになったりするのですが、常連さんばかりになってくると、逆に初めての人は入りづらくなったりします。
その部屋の空気感や会話の流れができてしまって、初めての人が話に入れなかったりします。

一方で、真夜中のチャットなど、怪しげな変態や、荒らしも炸裂する世界なので、部屋主さんが防衛するのもしかたないのです。

とはいえ、基本、チャットは自由な場所なんだから、あれこれルールがあるのもツマラナイ、もしかしたら、めっちゃ面白い人が来るかもしれないのに、最初から入れなかったり、追い出すのももったいない、、、というタチなので、自分の部屋はまったくのノールールで開いていました。

無言落ちOK、変態発言OK、ネカマOK、荒らし上等、、、

とそんな感じの部屋だったのですが、心配するほどの混沌もなく、それなりにそこを居心地いいと思ってくれるカワリモノの常連さんもいるような部屋でした。

毎日決まった時間に開けるようなきっちりした部屋でもなく、適当な時間に、気まぐれに開け、たまたま見つければ中で好きなことを話して出ていく、そんな感じのところでした。

そんな私の部屋に、ある時期、ときどき現れたのが、sakuraでした。

sakuraが初めて部屋に来たときは、無言君でした。
ふっと部屋に入ってきて、一言も話さず、ただ会話を眺めるだけで、しばらくして落ちていく、そんな感じでした。

それでも、何度かそんな感じで部屋に入ってくるので、まあ気にはいってくれてるのかなと思っていました。

そんな無言の時期をしばらく経て、ある日、sakuraが話をしてくれたのです。

「オレ、女の子じゃないから」

sakuraというのはチャット上のハンドルネームなのですが、その微妙に男なのか女なのかわからなさから、ダイレクトメッセージを送ってちょっかい出してくる人がいたようです。

それからも、たまにふらっと現れては、ほとんどは無口で、でもときどきはちょっと突っ張った調子で、ポツポツと話すようになってきたのです。

男の子だ、というのはわかったのだけれど、どこから来てるのか、なにをしてるのか、実際はわかりません。それでも、まだ若くて、ぶっきらぼうで、生意気だけど、本当は素直な男子なんだろうなと想像できました。

いつも入ってきても挨拶もなく、出るときも無言のままで落ちる、ような感じだったので、他の部屋ではうざがられたようで、なにも気にしない私の部屋は気に入ってくれていたようでした。

そんなsakuraだったのですが、いつの間にか部屋にも来なくなって、みんなもsakuraのことをだんだんと忘れるようになっていました。

話が長くなったので、続きはまたということで。


京都北部の山あいの小さな集落にただ1軒の小さな百貨店から田舎の日常を書いています。子供達に豊かな未来を残すためにサポートよろしくお願いします!