幸福な朝食
「なんで勝手に塗るんだよ?」
梨ジャムをトーストに勝手に塗ったのが気に入らなかったらしい。
「君はジャムはちゃんとパン一面に広げて塗るのが好きなはずだろ?だからそうしたのになんで怒る?」
「基本はそうだけど、初めて食べるときは、美味しいかどうかわからないから、端っこにつけて味見してから食べるんだ!」
ふむ。そう言われれば確かにそうだったかもしれない。
でも食べもの、特に1日の始まりである朝食は感謝して気持ちよく食べた方が絶対いいに決まっている。
初めてのジャムをパン一面に勝手に広げて塗られたからって怒るのは大人げないし、まあ子供なんだけど、子供でも朝はカチンとくる。
言われたとおり、その梨ジャムは昨日、手作り市で買ったばかりでまだ食べたことがないジャムだ。
それでも梨は一番好きなフルーツだし、地元の梨でちゃんと手作りした梨ジャムが美味しくないはずがない。
ジャムの味うんぬんっていうより、意志に反して塗られちゃったってとこだよね。
まあ、ジャムぐらいほっといてみんなそれぞれ自分で好きに塗ればいいんだけど、1日の始まりの大事な朝ごはん、なるべくなら美味しい感じでサーブしたいのだ。
ただトーストした6枚切り食パン1枚だけの日もあるけど、多少は朝ごはんに彩りをつけようと心掛けている。
脂っぽいのが好きでない息子はマーガリンもバターもつけないシンプルなパンで満足なタイプだ。
だけどさすがにただトーストしただけのパンじゃ味気ないから何かはつけたい。
果物をつけたり、卵をつけたり、チーズをのせたり、ジャムによってしたり。
フレンチトーストもあまり好きじゃない。
なんならご飯と味噌汁の朝ご飯が一番好きなのだ。
だから一週間に一度くらいはご飯と味噌汁の朝ご飯もするのだけど、お母さんはパンとコーヒーのモーニング派。
家庭内パワーバランスの結果、お母さんの好みが優先されてしまうのだ。
毎朝家族の好みを考えて朝ごはんの用意をする父も楽じゃない。
まあ、ほんとはみんなが美味しく囲める朝ごはんを考えるのって楽しくて仕方ないことなんだけどね。
兎にも角にも、せっかく大好きなはずの梨のジャム買って、楽しく囲むはずだった朝食にクレームついたものだから、
「イヤなら無理に食べなくていいよ!」
と梨ジャムのトーストをとりあげた。
「いいよ、食べない。自分で作るから!」
そう言って、台所でごそごそしだす息子。
しばらくしてラップに包んだおにぎり持ってきた。
どうやら自作のおにぎりの出来に満足したようで機嫌は直っている。
「なんやその昔話みたいなおにぎりは!」
「お父さん、食べる?」
「ううん、いいよ。君が食べ。」
我が家の朝はたいてい平和だけど、たまに平和じゃないときもある。
朝はとても大事だ。
京都北部の山あいの小さな集落にただ1軒の小さな百貨店から田舎の日常を書いています。子供達に豊かな未来を残すためにサポートよろしくお願いします!