馬筋note


はじめに

 1つ思う事ががあり、この記事の執筆に至ります。
 私はポスト(旧ツイート)において、〇〇筋が□□など述べる事を多用して来ました。それは自分の中で様々な仮説を検証し、一定の結果を得た物を持って、好走に繋がる可能性の高い情報を皆様に伝えたい!と言う思いから始めた事でした。
 しかし、発信を続ける中で「もっと、もっと…、誰も言っていない考察で好走馬を導きたい!」と欲が出る様になり、どんどん細かい表現になって行きました。そしてまた、「手の内は無料で明かしたく無い」と言う間違った考えも相まって、今振り返れば…どんどん意図が読み難い文章になって行っていた事を自覚するに至りました。
 そして、それを気付かさせてくれたのは、幸か不幸かアンチの方でした。私が俳句形式で馬体の所感を表現していた時の事…、「抽象的で何言っているか分からない」や「難しくて参考にしづらい」との鋭いご意見を頂戴致しました。正直な所、俳句も逃げ腰の策であった事は認めます。そんな逃げ腰運用をしていた当時の私には、手痛い一撃でありました。
 そこから間も無くして活動休止に至るのですが、その当初目標としては「もし次回も同じ様な事があったとしても、とにかく怯まない様に鉄壁の知識を得る事」でした。抑えきれない感情を起爆剤に栄養学や血液循環、はたまた細胞の機能など苦手な分野も思い切って追求しました。これらは確かに馬体の知見を深める上で一定の学習効果はありました。しかし、その時は急に訪れました。馬体学習の一巡感と共に得体の知れない虚無感を感じました。Xで発信もしてないのに、ずっと馬体の事ばかり…自分は何やってるんだろう?と。
 そんな折、あるお方と熱帯魚を飼うに当たり、何を揃えたりする必要があるかなど相談した事がありました。凄く熱心に相談に乗って下さり、しかも説明するのが楽しそう!…私はその姿を見て「人って好きな事の話をしている時に輝くんだなぁ」と改めて感じました。試しに私もこのお方に対して、以前なら包み隠していた馬体の知識を言ってみる事にしました。すると、「楽しい!」の一言。以前はツイート文を作成するのに、包み隠そうとしながら考えていたため、140文字の文章構成も大変だったのですが、その必要が無ければ「こんなに言葉がでてくるのか?」と思う程でした。そこからフォトパドックで思った事を素直に文章化するリハビリを経て、久々にXの+ボタン(ポスト文作成ボタン)を押し、神戸新聞杯のサトノグランツの所感を述べました。そして「この感触ならやれる!」と感じ、その勢いで今に至ります。
 今回の復帰後のXライフのテーマは「吹っ切れ」であり、私が持っている馬体の知識を皆様にどんどん共有して行こうと思っています。一巡感・虚無感を経て、「そんなに包み隠してもしょうがないんじゃない⁉︎」と言う心境に至りました。
 ただどうしても、私の馬体診断のスタイルとして〇〇筋が□□と説明する事は避けて通れません。ならば、いっそのこと私なりに解釈して記述した筋肉の辞書の様な物が固定ポストにあれば、日頃の私のポストの内容が分からなくても、いつでも調べに立ち返る場所が出来るため、皆様にはより私の意図を伝える事が出来るのではないか?と思い、このnoteの執筆に至りました。

 前置きが長くなってしまい申し訳ありません。一度この思いを吐き出しておきたいと思いましたので、冒頭で書かせて頂きました。


 さて、本編に参りましょう♪


サラブレッドは『走る芸術品』…
その肉体美や血脈が織りなすドラマは、人々を魅了してやまない。
私もその肉体美に魅了された1人です。
偶然にも医療職に就いた事で人体に精通する事になった訳ですが、その人体を見る視点で馬体を見てみた所、そこにはより興味深い世界が広がっており、更なる深みにハマってしまった人間です。
その泥沼でもがきながら得た知見、今回は特に筋肉にスポットを当て、あの複雑な曲線美を織り成す多数の筋肉を一つずつ解説して行こうと思います。

筋肉について知識がない方でも、理解出来る様に手解きしていきたいと思いますので、どうぞよろしくお願いします。


0.episode of 筋肉総論

【筋肉の種類】
 馬の筋肉は大きく3種類に分別されます。
 白,赤・ハイブリッド。
 何故色が異なっているかを以下に超簡単に説明します。
・白は瞬発筋でトモに多く存在する。
・赤はスタミナ筋で肩に多く存在する。
・ハイブリッド筋はメタモン笑…、白・赤どちらの要素も備えており、調教法により赤にも白にも調整する事が出来る。

 また白・赤・ハイブリッドの大まかな割合は、
白:40〜50%
赤:30〜40%
ハイブリッド:20〜30%
※血統背景や調教(調教師・外厩設備)によりこの数値は大きく変動しますので、目安程度に捉えて下さい。

 では次に、以下に3種類の筋肉についてもう少し詳しく掘り下げたいと思います。ですが、最悪上の要約だけ押さえるだけでも良いので以下は飛ばしても構いません。詳しく知りたい方はお読み頂ければと思います。
①白筋は速筋線維とも呼ばれ、急速な爆発力や瞬発力を発揮する際にメリットとして働きますが、疲労が早いと言うデメリットも同時に持ち合わせます。主に後肢(トモの筋肉)に多く存在しており、無酸素運動においては短時間で最大の力を発揮します。これらの筋肉が発達した馬は短距離競走に適応を示す傾向があります。
②赤筋は遅筋線維とも呼ばれ、持久力や耐久力を発揮する際にメリットとして働きますが、急速な収縮には不向きと言うデメリットを持ちます。主に前肢(頸・肩の筋肉)に多く存在し、有酸素運動運動において長時間の収縮に耐える事が出来るため、これらの筋肉が発達した馬は長距離競走に適応を示す傾向があります。
③ハイブリッド筋は人間の筋肉には無い概念となります。白筋と赤筋の中間に位置し、速筋と耐久筋の特性を併せ持ち、スピードと持久力のバランスを発揮するのに重要な筋肉です。ハイブリッド筋の割合は、血統背景にも左右されますが、トレーニングプログラムにより調整する事が出来、競走馬の特性を最適化する役割を果たします。この特性は短〜中距離競走で重宝されます。

【収縮様式】
 筋肉の収縮様式には求心性収縮と遠心性収縮、等張性収縮の3つがあります。
 まず簡単な表現で伝えます。
・求心性収縮は腕の力こぶを出す収縮様式。
・遠心性収縮は反発力の強いゴムが伸ばされ続けている時の、あの元に戻りたそうな伸長感。
・等張性収縮は壁ドンの後、お互いが目線を合わせる静寂な間、実は支えてる腕・体幹の筋肉はずっと「ぷるぷる」働いている…そんな感じ。笑

以下に詳しく説明していきたいと思います。特に馬の歩容や走行を理解したい方は遠心性収縮の理解をここで深めて頂ければと思います。
①求心性収縮は、筋肉が収縮し、その長さが短くなるプロセスで、腕の力こぶ(上腕二頭筋の収縮)を作る時に時にやるあの動き。
②遠心性収縮は少し想像が必要で、例えば上記の様な力こぶを見せつけている人がいて、その人から「俺の腕を伸ばせるものなら伸ばしてみろ!」と挑発されたとします。あなたは力自慢男の手首辺りを掴んで強引に腕が伸びる方向に引き伸ばそうと頑張ります。するとちょっとずつ腕が伸びて来たけど、相手も必死に頑張ってるのでゆっくりしか伸びて来ない…。みたいな時の筋肉の収縮様式を遠心性収縮と言います。
遠心性収縮と言うのは物体の制御に寄与し、また歩行・走行と言うはそれぞれの筋肉の遠心性収縮が緻密にが干渉し合って、弾性エネルギーを再利用しながら行なっている動きと言っても過言でないからです。もちろん、この動きの中には求心性収縮との協調的な働き・バランス感が必要になりますが、良いパフォーマンスを発揮する観点においては遠心性収縮なしには語れません。また弾性エネルギーと言う新たな言葉を出しましたが、これはゴムを引き延ばして、手を離した時にパチン!と戻るあのエネルギーの事と想像して貰っていれば良いと思います。この概念もパドックやレース中の馬の動きを分析する上で重要になるので、ここで頭に入れて頂ければと思います。
③等張性収縮は筋肉が収縮しても長さは変化せず、物体を動かすイメージではなく、静止やポージングのイメージを持って頂ければと思います。代表的な筋肉としては体幹筋が挙げられ、特定のポジションを維持するための安定性に寄与します。ここではこの収縮様式は深く掘り下げず、馬の体幹筋の所で説明したいと思います。
とりあえず、ここでは②遠心性収縮の概念をしっかり理解する様努めて頂ければと思います。一点に集中して理解してもらうため③等張性収縮の説明は後回しにしています。

【用語】
・起始
 筋肉の起点で、筋収縮の際に動かない側。すなわち固定となる場所。
・停止点
 筋肉の終点で、筋収縮の際に動く側。すなわち骨を引っ張って動かす場所。
※筋肉は通常、起始から停止に向かって収縮することで、骨を動かし、体の運動を引き起こします。筋収縮により、起始と停止の間の距離が短縮され、骨が動かされるため、運動や動作が可能になります。

1.Episode of 中臀筋


 まず1番最初に選んだのは中臀筋です。
 何故かと言うと、私が1番最初に人と馬で比較した筋肉であり、位置と名前が一緒だった事に驚き、それがきっかけで他の筋肉も比較したところ、そのほとんどが位置と名前が同じだと言う事実に気付かせてくれた、ありがたい筋肉だからです。
 また何故、中臀筋を比較しようと思ったかと言うと、その当時は職に就いたばかりで知識も乏しいながら中臀筋に着目してリハビリを行なっており、更に馬と言えば「トモ」と思っていて、推進力を生むには白筋繊維が豊富な中臀筋が非常に重要と言う旨の記述を見たからです。
 更に、馬体診断の用語では「トモの幅が広い」「筋肉量が豊富」「半腱半膜様筋が…」の様な、ボリューム感を評価する流れがある事もあり、私は「中臀筋にボリュームがあれば瞬発力も推進力もすぐれているのではないか?」と仮説を立ててフォトパドックを見る様になりました。この説は結果「まぁまぁ」と言う所に落ち着くのですが、馬体を見て何を見れば良いか分からないと言う人には、この中臀筋がハッキリ確認出来るのを買ってみるのも1つの手だと思います。
 この頃の記憶で1つ印象的に残っている物がありますので紹介させて頂きます。それは大井競馬場に行った時のこと、パドックで中臀筋だけを見て馬券を買うと言う縛りプレイをしました。途中雨が降ってきて、L-WING内の大窓からパドックを見る事になりました。偶然か必然か上から中臀筋を見る機会を得ました。すると後肢の着地毎に「パンッ、パンッ」お中臀筋がはち切れんばかりに張っており、雨に濡れた中臀筋部がライトに照らされて「ピカッ、ピカッ」と光って見える馬がいました。迷わずその馬を買ったところ3着内に好走して馬券が当たった事を今でも覚えています。「じゃあ、中臀筋を追いかけるぞ!」となった訳ですが、この気持ちをポッキリ折る様な事象も次第に確認され始めました。それは中臀筋部分がベッコリ凹んでいる馬も多数好走すると言う事実です。この結果を受けて、「中臀筋のボリューム≠好走」と言う結論が得られました。そして瞬発力や推進力に重要な中臀筋にその様な結論が得られたのであれば、「トモの筋肉のボリューム感を過大に評価する事も違うかな?」と言うスタンスに立つ様になりました。恐らく大事なのは量より質であり、立ち姿(四肢の位置関係)はどうか?そのボリューム感を演出しているのは求心性収縮なのか遠心性収縮なのか?皮下脂肪はどうか?と言う観点の方が必要であると、私は今この筋肉を評価する際にその様な事を考えています。更には仙結節や寛結節の出っ張り具合と筋肉ボリューム感から、その筋肉の質・量(柔らかさや硬さ、また血統背景)を想像したり、脂肪量を推測するなど行っています。


 では、次に中臀筋の概要についてまとめていきます。この筋肉は人では骨盤の外側にあり、大転子の外側で停止しています。作用は足を外に開く動作(股関節外転)をした時に、その部位を触れると収縮して硬くなっている事を確認出来ます。また片足立ちの際、骨盤が過度に傾いたりしない様に遠心性収縮にて張力を発揮し、骨盤の安定性や身体バランスを維持するのに役立ちます。この様に中臀筋は、体幹筋群と併せて運動パフォーマンスに大きく関与する重要な筋肉の1つである事は間違いなく、人においても非常に重要な筋肉となっています。
 かたや馬では、トモの左上に位置し、胸最長筋の終端外側(背筋)や臀筋膜などと連結を持ち、大転子後面に停止しています。この大転子の後方に停止している事がミソで、人間の中臀筋は大転子外側で作用が股関節外転でしたが、馬の中臀筋が収縮した場合は地面を蹴る方向に脚を引く(股関節伸展)となり、運動作用にギャップが生じます。ではこのギャップを埋めるにはどうしたら良いか?と言うと、人間の股関節伸展筋を探せば良いのです。それは大臀筋(股関節伸展筋)であり、この筋肉を知る事でギャップを埋める事が出来ます。

馬の大転子(後面のイメージ)
人の大臀筋(右斜め後ろから)

そうすると、ある公式が浮かび上がって来ます。人と馬の比較解剖において、馬の中臀筋=人の大臀筋、人の中臀筋=馬の浅臀筋と言う構図になります。よって馬の中臀筋は、名前こそ中臀筋となっていますが、人間のそれとは全く別物であると言う答えに辿り付きます。ここで中臀筋以外にも浅臀筋の名前も出て来ましたが、これについては次回以降に取り上げて説明します。
 そして更に、人の大臀筋の歩行中の働きを見てみる事とします。静止立位から左足を踏み出す場面を仮定します。その時右足は後ろに引く必要があり、それは大臀筋の求心性収縮によって遂行されます。そして右足は地面を蹴り、ある程度の速度感を持って前へ振り出されます。そして着地の時は、速度を調整し体を安定的に保って踵を着く準備をする必要があるのですが、その役目を大臀筋の遠心性収縮が担っています。この様な事象を確認した上で、馬の走行の中臀筋の筋電図を見てみると、脚が前へ運ばれる終期から後肢を着いてから後ろに引くまでの瞬間に活動電位が発生しており、上記で提唱した「馬の中臀筋=人の大臀筋」を裏付ける根拠として十分役目を果たすと思われます。ただし、1つ頭に入れて置く必要のある事があって、それは馬と言う生き物は骨格構造の恩恵を受けて、歩行初期に一定の惰性を付けてしまえば、特に後肢の筋肉は努力的に筋収縮を行わなくても歩き続けられると言う能力を備えています。そのため、私は「パドックにおいて後肢の筋活動について言及する事はオススメしない」と言う判断に至っています。
 この様に中臀筋を考察する事で面白い気付きが多々ある上、パドックを見る上での注意点、調教映像やレースで走っている馬に対しての想像が広がると思われます。


 さて、今回は中臀筋にスポットを当ててまとめて来ましたが、皆様参考にして頂けましたでしょうか?これからも各筋肉に対する私の見解を記載して行きたいと考えています。そして、イイネやフォロー、またXでのリポストなどして頂けますと励みになりますので、是非ともよろしくお願いします。

 また「〇〇筋」、「馬体の〇〇辺りにあるあの筋肉」の事が知りたいなどのリクエストがありましたら、Xのコメント欄に書き込んで言って下さい。重ねてよろしくお願いします。

2.episode of ◯◯coming soon


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