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土鍋でご飯を炊いた日
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人生に豊かさが足りていない気がする。
ここで言う「豊かさ」とはあくまで心の余裕的な概念を示すものであり、金銭面における余裕が無いことを示すものではないことを明言しておく。なんなら少し前に期末賞与も入ったから多少金銭的な余裕はあるし。
一人暮らしを始めてから早4年半。
日々の生活に追われて、好きなコンテンツや気になるエンタメに割くための時間を確保することはおろか、ここ最近は自炊にかける時間すらあまり設けられていない。
これは時間が無くてこうなっている訳ではない。
今の職場ははっきり言って残業がほとんどないので時間的余裕はあるはずなのだ。
言ってしまえば、一人暮らしに注力できる体力の低下がこの状況を生み出しているのだ。
楽しみにしていた漫画の新刊も数日積んでから読み始めることが増えたし、いつか見ようと思って年単位で放置している映画なんか両手で数えきれないし、ネトフリもアマプラも何も観ないまま月額使用料だけ支払う月がザラにある。
なまじお金は中途半端にあるので、今の状況が許されているし、食事も外で済ませることが出来てしまっている。
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今もこうして、某松本さんがプライムビデオのCMで使っていたタブレットでYouTubeを観ている。
様々なサブスクへ登録しているにも関わらず、なんとな〜く腰を据えて観なくてもいいような雰囲気があるYouTubeの手軽さには勝てず同じような動画を繰り返し見続けている。相対的にその他のエンタメを見ることに対する重みはどんどん増していく。
新しい刺激を求めずYouTubeの即物性に身を委ねている現状は最早、自らの感性を緩やかに殺すセルフネグレクトと言えるだろう。
何かを変えねば、布団に転がりながら思う。
そして、ふと思い立つ。
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「土鍋でご飯を炊いて食おう」
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何故そう思い立ったのか、自分でもわからない。
ただ、炊飯器という文明の利器が産まれて何十年経ったかすらわからない昨今、わざわざ土鍋を引っ張り出して米を炊くという行為が、心に豊かさを宿した人間の行為のように思えたのかもしれない。
炊飯の「炊」という字は「火を欠く」という書き方をする。
元来、炊飯にとって火は欠かせないものであるはずだと考えると、この「炊飯」という字は炊飯器が誕生してから生み出されたようにも思える。
今こそ、土鍋でご飯を炊くことで、自分の心に欠けた真の豊かさを取り戻す時だろう。
兎に角、思い立ったが吉日。
今日は「土鍋でご飯を炊く日」とする。
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とはいえ、今の僕に土鍋で米を炊くスキルは備わっていない。
あるとすれば「初めチョロチョロ、中パッパ」なる謎の呪文のみ。
生兵法は怪我のもと。こういう時は先人に教えを乞おう。
という訳で、ここからは白ごはん.comのレシピに従って進めていくものとする。
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まずはいつも通り研ぎ汁がある程度透明になるまでお米を研ぐ。
最近のお米はある程度綺麗なのでそれほど研がなくても大丈夫という話を聞いたことがあるが、ついつい気になって何度も研いでしまうのは人間の性だろうか。
擦らず使えるお風呂洗剤だと分かっていても、ついスポンジで浴槽を洗ってしまうのと同じだ。
DNAレベルで人間に組み込まれているのだろう。
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研ぎ終えたお米は浸水させる。
通常なら冬場は一時間程度浸水させれば良いとされているが、この時は出勤前に予めお米を研いでいたので冷蔵庫で10時間近く浸水させることに。
先ほど「思い立ったが吉日」と書いていたが、実の所は数日前から「この日に土鍋ご飯を炊こう。当日は仕事が終わったらアレとアレを買い出ししてから家に戻って…」と計画を立てていた。
行き当たりばったりも悪くはないが、予定を組み立てておくこともデキる大人の嗜みってわけサ。
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仕事も無事に終え、速やかに買い出しを済ませ帰宅。
うるかしていたお米を土鍋に移してカセットコンロをセット。
ここからが本番。いざ、緊褌一番の大勝負。
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FIRE!!
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まずは中火で沸騰するまで加熱、たまに蓋を少し開けて沸騰したか確認する。
「赤子泣いても蓋取るな」なんて言葉もあるが、慣れないうちは沸騰したかどうか目視で確認した方が確実に炊けるだろう、白ごはん.comにもそう書いてあったし。
私はビギナーおさんどん、用心に用心を重ねるに越したことはあるまい。
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カセットコンロの火がエアコンの風で消えそうになるので一時的に止める。
失敗に繋がりかねない外的要因はなるべく排除せねば。
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沸騰が確認できたら今度は弱火で15分加熱。
炊飯器と比べて炊くのにかかる時間が短い気がする。
普段IHのコンロを使っているとわからない「火の力」をつくづく感じるばかり。
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15分経ったら水気が飛んだことを確認して火を止め、ご飯をふっくら炊き上げるために「蒸らし」を10分くらい行う。
普段炊飯器を使っていると蒸らしの工程自体を意識しなくなるので、ある意味土鍋ご飯ならではの時間と言えるかもしれない。
このスキにご飯のお供となるおかずを一気に準備する。
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10分経過。
遂にご開帳の瞬間。
果たして、お米はしっかり炊き上がっているのか…?
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Beautiful…!!
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見てコレ!ピッカピカのツッヤツヤ!!
凄い、ちゃんとご飯になってる!
普段文明の利器に頼り切っていると気がつけない感動が、そこにはあった。
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感動に浸ってる場合じゃない。
ご飯が炊けたらすぐにかき混ぜないと…
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みんな見てぇ!!!おこげが出来てる!!!
これぞ土鍋ご飯の醍醐味と言えよう。
真っ白なご飯の奥底に潜んでいた茶色のアイツを見つけて思わずニッコリ。
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折角だからしゃもじから直にいかせてもらおう…!!
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TASTY…!!
美味い!当然のように美味すぎる。
お米の甘味がしっかり感じられる。
生命の息吹すら感じる。
浸水時間が長かったからか少し柔らかめのご飯になってしまったものの、ちゃんとご飯として成立していることに感動する。
頭で理解していても実際に目の当たりにすると感動もひとしお。
米が炊き上がったからにはもう、やることはあと一つ。
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茶碗によそって…
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食うぞ!!!!!(ドン!!!!!)
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味噌汁!!(インスタント)
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鳥を甘酢で焼いたやつ!!(焼きすぎた)
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近所のキムチ屋で売ってるめちゃうまのチャンジャ!!
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汁が多すぎるほうれん草のおひたし!!
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久世福の瓶詰めおかず!!
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冷蔵庫に残ってた賞味期限切れのめかぶ!!
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生卵!!!!!!!!!!
全ての食材に感謝して…
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いただきます!!
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ただ、ひたすらに、がむしゃらに…
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飢えた獣の如く…
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生命を頂き…
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時にはかき混ぜ…
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一心不乱に貪り食らう!!!!!
…という訳で、土鍋ご飯を堪能しましたとさ。
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残ったご飯もおにぎりにして、翌日のお昼ご飯に。
翌日への楽しみも残してフィニッシュですわ。
終えてみると、土鍋ご飯を食べるという行為は、食事にありつけることを大切さを知ることが出来るレジャーのようなものではないかと思えてきた。
便利な道具を持ちいらずに「火」という原初のアイテムを用いて食事を得るという行為に及ぶことで、人間の真の豊かさとは何なのか、それを仮想的に思い起こさせるものなのではないだろうか。
これからは偶に土鍋でご飯を炊いて有り難みを思い出すことにしようと思う。
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それっぽいまとめをしたところでお腹いっぱいで眠くなってきたのでそろそろ終わりにしたいと思います。
次回「カレーをスパイスから作ってみた」でお会い致しましょう。
ありがとうございました。
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