狼の戦士、熊の戦士
狂戦士
北欧のヴァイキング戦士の中に「ベルセルカー (ベルセルク)」と呼ばれる狂戦士がいました。
クマの毛皮をかぶり、鎧は身につけず、ペイントや敵の血を体に塗りたくり、自らの盾をかじって噛み砕き、北欧神話の最高神オーディンの力を授かり、痛みをものともせず、獣になりきり敵も味方も構わず暴れまわる特殊な狂戦士とされています。
ベルセルクは「クマの皮を着た人」という意味だった様で、中でも狼の皮を被ったベルセルカーは「ウルフへドナー (ウルフへディン)」と呼ばれます。
(クマの皮を被ったベルセルカーのイメージ)
(狼の皮を被ったウルフへドナーのイメージ)
ベルセルク、ウルフへディンのイメージ
戦いの後は力尽きて寝込み虚脱の状態になると表現されていることから、覚醒剤の類を使用していたと考える人もおり、一般的には幻覚か陶酔か、何らかの興奮/トランス状態を利用し、戦闘していた狂戦士と認識されています。
キリスト教徒側から見た誇張された異端宗教のイメージでは、何らかの儀式で神を降霊させてトランスする描写がなされます。
実際はエリートを集めた精鋭部隊?
12-13世紀に書かれたサガで、オーディンの精鋭部として伝承されるベルセルクは鎧なしで突進し、犬や狼の様に怒り、盾を噛み、熊谷牛の様に強く、一撃で人を殺す、とされています。
野獣の様で野蛮なイメージの彼らですが、見つかっている遺物からエリート階級の戦士だったのではないか、とも考えられています。
確かに頭のおかしい下っ端をいくら集めても「一撃で人を殺せる」様な部隊は作れないでしょう。
一般的に言われている幻覚キノコや酒を使った前後不覚のトランス状態では、まともに戦う事すら難しいのではないでしょうか。
よほど腕に覚えのある戦士達でないと成り立ちません。
(盾に噛り付いて目玉を向くヴァイキング戦士)
獣の皮を被った古代のエリート軍団
後世のステレオタイプで、ベルセルクやウルフへディンのイメージは、とにかく野蛮で気の狂った危ない戦士というイメージが付きまといますが、ビジュアルを少し変えてみるとエリート感に説得力が出てきます。
時はさかのぼり紀元前、古代ローマにおいても熊や狼の皮を被る習慣がありました。
ローマ軍団の花形は重厚な鎧に身を包み、盾を並べて進む重装歩兵部隊ですが、「ウェリテス」と呼ばれる軽装歩兵部隊は鎧を身につけず、隊列も組まず、投槍や投石を行う散兵部隊でした。
彼らはエリート部隊ではありませんが、一目でその部隊と識別できる様に狼の毛皮を被っていました。
(古代ローマの散兵部隊、ヴェリテス)
(隊列は組まず、投槍を3本持って他部隊の戦術を支援した)
特にカルタゴとの戦いにおいては、戦象 (戦闘用にされた象で、今でいえば重戦車の様な存在) に対して有効な戦果を挙げていたと言います。
もしかしたら対動物に戦果を上げるために動物の毛皮を着たのかもしれませんね?
ただし彼らはエリートではなく、お金のない下層の兵士たちだった様です。
エリートといえば、ローマ軍団の旗手や竿持ち、鳴り物担当などは部隊の先頭に立ち、獣の皮を被りました。
(兜に付けられたライオンの毛皮)
ローマ軍の大隊クラスの旗手や竿持ちは狼や熊の毛皮を被っていたそうです。
(大隊クラスの先頭旗手は熊や狼の毛皮だった様です)
(トラの皮の竿持ちも軍団クラスでしょうか?)
(狼の皮を被ったローマ兵)
(狼の皮を被ったローマ兵)
見せつける演出と軍団としての威厳
ローマ軍の姿は、獣の皮を被った戦士がエリートに見える圧倒的な説得力を持っていますね!
彼らの戦場で敵に与える印象は「圧倒的な畏怖」なので、先頭に立つものが堂々と獣の皮を被っているのは効果的なのかもしれません。
ヴァイキング達も敵対する相手に圧倒的な畏怖を見せつける戦い方をしました。
獣の力を借りて、獣になりきって狂うというより、もしかしたらエリート部隊の目印として、一目で圧倒的な恐怖心を抱かせる目印として着ていた、演出用の毛皮だったのかもしれませんね。
狂戦士集団?それとも堂々たる精鋭部隊?
ベルセルク、ウルフへディンは伝承に尾ヒレがついて話が大きくなってるのもあると思います。
現代ではさらにファンタジーの誇大イメージが強く広まりすぎているので実像がさらに分かりづらくなっています。
まるで古代ローマと戦ったガリア人みたいな野蛮人イメージとして描かれますが、時は西暦900年周辺、はるか海を越えて貿易も侵略もする賢い人たちですよ!
野蛮人で犬神憑きみたいなヒロポン中毒のいかれポンチ集団ではなく、もしかしたら堂々たるエリート精鋭部隊だったのかもしれませんね!
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