見出し画像

中世ヨーロッパのビールジョッキ 〜中世後期〜

はじめに「ジョッキ」という言葉は日本でしか伝わらない言葉です。
ジョッキとはそもそも英語の「ジャグ」のことで、日本でいうピッチャーの様なものです。
では、日本でいうジョッキは本来なんというのでしょう?
取っ手付きの酒器はマグ、タンカードやスタインなどと呼ばれます。

中世のマグはどんなカタチ?

中世の後期はいかにも中世さが熟成された世界でとても魅力的な時代ですね。
中世の酒器というとみなさんはどんなのを思い浮かべますか?
映画やドラマの中にはいろんな酒器が登場しますね。
暮らしぶりや階級によって使うものを違ったと思いますが、普通の庶民は酒場でどの様な酒器でビールを飲んでいたんでしょうね?

ピューター (錫の合金) で出来たこんなのを想像しますか?

画像1

巷で「樽ジョッキ」と言われるこんなのを想像しますか?

画像2

それともこんなブサイクな焼き物を想像しますか?

画像3

15世紀までのいわゆる「中世」と呼ばれる時代に使われていたのは、実は上の画像の中では最後画像のマグしかありません。

最初のいかにも酒場らしい銀色の酒器はタンカードと呼ばれるイギリスのマグで、「ポストメディーヴァル (中世の後) 」と呼ばれる16世紀後半に登場しました。

二番目の画像の樽型ジョッキはファンタジーの産物で全く歴史的なものではありません。

最後の画像の焼き物は14世紀のもので、おそらくビールを入れて直接飲むものです。

ビールの提供方法と飲み方

飲料用の酒器とは別に「ジャグ」というものがありまして、ここに注がれたビールを、焼き物のマグやカップ、ビーカー呼ばれる口の広がったガラスのカップなど各自の酒器に移して飲みま

画像4

(14世紀頃のビールジャグ)

今でいうピッチャーみたいな感じですね。
実際にどの様にして飲んでいたのか、気になりますね。
ちょっと後の時代になりますが16世紀の庶民たちを描いたブリューゲルの絵でも垣間見ることができます。

画像5

(左下で席に置く用のジャグにカメからビールかミードの様な液体を入れてます)

画像6

(この人たちはもうジャグからそのまま飲んでますね、ピッチャーで寄越せ!みたいな感じでしょうか)

現在では注文すれば各自に冷たいビールの満たされた酒器が配膳されますが、昔は樽から直結したビールサービングシステムはありませんでした。
もちろん冷蔵設備も無く、ビールの鮮度管理が難しかった時代です。
ビールの入った大元の樽は地下の酒蔵に貯蔵してあります。
注文を受けると地下まで降りてジャグにビールを汲んで来て席に提供するというわけです。

注文を受けて地下の酒蔵にビールを取りに行くのが大変な労力のため、イギリスでは18世紀頃にハンドポンプというビールの組み上げ装置が開発されました。

画像7

(イギリスのパブのハンドポンプ、地下の酒蔵からビールを組み上げる18世紀の画期的な装置でした)

タンカードはもともと木製

ピューター (錫の合金) のタンカードは16世紀後半に初めて登場しますが、のちに底だけガラスになったタンカードが登場します。
「ポーカーをしているときにガラス越しに相手の表情を読むため」とか、「海軍の入隊を拒否するため (王のシリング硬貨を受け取ると強制的に入隊させられる事になり、酒場でタンカードの底に王のシリングがしばしば混入させられていた)」とか、「酒場で喧嘩相手のパンチを察知するため (酒を口に運んでる最中に殴られることが多かった)」とか諸説ありますが、
多分、単純にお酒の色を判別するだけのためのものだと思われます。

そんなタンカードという酒器ですが、言葉自体そもそも「木製の酒器」を指す言葉だった様です。
なので初めにあげた二番目の画像の様な木製マグが無かった訳ではありません。
むしろ木製のは沢山あった様ですが、少なくとも樽の形はしていませんでした。

木製の酒器は朽ち果ててしまうため、現存するものが極端に少ないです。
木を束ねてタガで巻いた木のマグで残っているものは中世以降のものばかりです。

画像8

(16世紀の木製マグ)

画像9

(17世紀の木製マグ)

画像10

(18世紀の木製マグ)

木製マグ、すなわちタンカードの歴史は相当古く、2000年前のものがウェールズで見つかっています。
泥炭層の中から後期鉄器時代 (紀元前50年-紀元75年)のものが見つかりました。

画像11

(木製タンカード、10枚の木板を銅板で巻いてある)

画像12

(紀元前1世紀から紀元2世紀頃に使われた4パイント入る木製タンカード)

中世後期に使われたマグは?

つまりその頃にも木のマグはあったのでしょう。
牛の角で出来た取っ手付きカップや、革で出来たマグも使われていた様ですが、実物は見たことありません。
もしかしたら腐敗して残っていないのかもしれませんね。

残っているものの大体は先にも触れた通り、ビーカーと呼ばれる先の広がったガラスのカップ、焼き物のカップか、取っ手のついた焼き物のマグなどです。
中世の絵で酒場の様子をみるとわかります。

画像13

(焼き物のジャグに焼き物のカップ、中身がビールかワインかはわかりません)

画像14

(これは赤い液体が泡立ってんですかね?)

画像15

(カップで飲んでますね)

画像16

(ゴブレットを持っているのでこの人たちはワインかミードでしょう)

ざっとこんな感じでしょうか。

現代において、普段は透明なガラスのジョッキやグラスで飲むビールも、時には雰囲気を変えて焼き物のマグやカップ、ビーカーで飲むのもたまには楽しいですよ!


今回も読んで頂きありがとうございます、「サポート」も大歓迎でございます👍

下のボタンから是非よろしくお願い致します🙇‍♀️

-----------------------------------
【ウルフバート トーキョー】

Webショップ. https://arsenal.theshop.jp
Twitter. @ULFBERH_T
Instagram. @ulfberht_tokyo

現在、日本ヴァイキング協会の「ヴァイキングマーケット」にも
ウルフバート トーキョーの作品を出品中です
https://market.japanvikings.com/categories/2691629

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?