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能登放浪~雨女の旅~


旅に必要なもの

旅は道連れ世は情け……。
人生を旅に例えるならば、それは素晴らしくもあり。

ただ私にとって旅の意味は、少し違う見解を持っていたりする。
もしかすると放浪という言葉のほうがしっくりくるのかもしれない。

たとえば、半年のうちに2度も能登半島へ向かったのは、2年前の夏と晩秋だった。

その旅に出るのに私に1番必要だったもの……。
それは【よし!能登半島へ行こう!】という思いつきと決意のみ。
もちろん財布の中身との相談もあるけれど、それは二の次。
どうしても財布の中身との睨めっこの結果、決裂することも多々あるわけで。

ではナゼ能登半島だったのか?
そう、目指す場所への旅にはもちろん理由はある。

【二三味珈琲】を飲みたかった。

舟小屋珈琲豆焙煎所にて


ただそれだけ。

その理由ひとつで、旅に出る。
どんな旅でも思い立つ理由はいつもたったひとつだけ。

ちなみに現在の居住地から高速道路を使ってトイレ休憩を挟んでも、片道は軽く5時間を超える。

ひとつの理由以外は、現地調達すればいい。


旅の必須条件

ただ、そんな旅には必須条件もある。

  • 電車目的でなければ車旅であること
    (仕事や所用のときは別)

  • 宿目的でない限り車中泊

  • 朝焼けを必ず撮影する

思いつきから旅に出るまでの短時間に下調べするのは、目指す場所のことだけだ。
この能登半島放浪では、入念に調べたのは舟小屋で自家焙煎している二三味珈琲のことだけ。

ところで、そもそもその二三味珈琲を焙煎している舟小屋とやらをなぜ知ったのか?

ご存知だろうか?
【さいはてにて】という日本映画を。
サブタイトル的な「~優しい香りを待ちながら~」というセンテンスもあるけれど、個人的には【さいはてにて】だけで充分そそられる。

能登半島のさいはてにある珈琲の自家焙煎を営む舟小屋。
映画のモデルとなったロケーションに、ただただ焦がれたというのがこの旅の理由。
もちろん、無類の珈琲好きであるのは言うまでもない。

さいはてにて

少しネガティブなイメージも付き纏いそうなワード「さいはて」。
たしかに、能登半島の外浦側の荒波は、能登の崖っぷちの岩を砕き続けてきたようで、岩肌は荒々しく削られている。
火曜サスペンス劇場さながらの景色を走り続けてたどり着くのが、舟小屋【二三味珈琲】だ。

舟小屋の隣カフェ

この旅の1番の失敗談は、入念に下調べしたくせに、到着当日、舟小屋はお休みだったこと。
それもまた旅の醍醐味で笑えば済む。
時間になど縛られていないセルフプランニングの旅なのだから。
オープンしている隣のカフェが二三味珈琲を提供していたから問題もない。

友達と、恋人と、あるいはバイク仲間と……。
二三味珈琲の舟小屋に隣接するカフェは、訪れる人が後を絶たないほどだった。

わたし?
もちろんひとり。
ここで誤解のないように言うならば、ひとり旅しかしないわけではない。
思い立ってすぐ旅にでしまうのだから、誰ひとり予定を合わせてくれるのは無理なのだ。そのうえ、わたしの目的が至極個人的すぎる。

自分勝手極まりない旅に、寂しいからといって付き合ってもらうほど寂しがり屋でもない。
むしろ、そんな旅はひとりが都合が良い。
誰にも気を遣うことなく、自分の時計で、自分の地図で、自由気ままに放浪できるほうが良いに決まってる。

そう特に、朝焼け撮影が必須のわたしに、午前4時や5時にゴソゴソと起き出してうるさくされたり、起こされたりなんて、迷惑極まりないと思われる。

ひとり旅であることが必須ではない理由は、そんな経緯からだ。
いつ何時でもわたしの思いつきの放浪に付き合えて、気も遣わず、笑いや感動のツボが同じで、さらには旅先でのわたしの行動にただのんべんだらりと付き合える奇特な人がいるとしたら、ひとり旅じゃなくても良い。

このときの能登放浪にしても例外ではない。

この旅の目的の現地調達分は、能登半島最先端、いわゆる能登半島の外浦と内浦の交わるところ禄剛崎灯台で朝焼け撮影、また青の洞窟と呼ばれる施設までの道のりで日の出撮影、輪島キリコ会館がある海沿いで日の出撮影、することにしたわけで……。

朝焼けに蜃気楼のごとく佐渡ヶ島

別名、狼煙の灯台。

天気が良ければ、遥か彼方に朝焼けに染まる佐渡ヶ島が見える灯台。
このときはたしか、道の駅狼煙にて車中泊をし、午前4時過ぎに明るくなり始めて目が覚めた。
慌てて灯台まで向かったら、灯台までの道のりが長いこと、長いこと…。
息切れをしながら灯台の朝焼けに感嘆の声を上げた記憶がある。

そして、わたしの旅がひとりの方が良いと思われる理由がここでも発動する。
この後、灯台を離れて次の目的地を探して出発すると、大雨になった。

そう……
わたしは自他ともに認める《雨女》

二三味珈琲の舟小屋で挽きたての珈琲を購入出来た日も、雨。

能登半島は雨が多いとも聞くが、この旅の天候は、間違いなくわたしのせいではないかと思う。

ところが撮影しようと思ったスポットに到着すると、少しの間、雨が降り止むという【もってる雨女】でもある。

通りすがりに気になる案内看板を見つけて、訪れた場所では雨の日にはひと苦労する急勾配の坂道もあったっけ。

こんな御屋敷に出逢ったら、立ち寄らないという選択肢はもちろんない。

そうなると帰りは、雨に濡れた屋敷前の急勾配下り坂を、滑って転んでカメラを壊さないようにゆっくりゆっくり降りなくてはならないことはいうもでもない。

2泊3日程度、能登半島に珈琲豆買ってくるね!とフッ軽で出かけた雨女の旅は、結局3泊4日になった。

輪島キリコ会館

その1番の理由は、輪島入りし立ち寄ったスパで教えてもらった駐車場で車中泊しても大丈夫というキリコ会館で、「御陣乗太鼓」の実演を観てしまったからだ。
外での実演を観てから、翌日も放浪の後、輪島キリコ会館に舞い戻ったほど。

翌日は開演前から雨のために、キリコ会館の中での実演となった。
雨女の旅ではいつ何時も雨は想定内。

御陣乗太鼓 実演

立ち寄ったところで何でも馴れ馴れしく聞くのはお得意でもある。
この「御陣乗太鼓」の歴史を調べると、とても面白く興味深いのだけれど、それについては自身の目で観て、調べる方が絶対に楽しい。
少しだけ触れるとしたら、この舞は、人口少人数の小さな村の漁師たちが、このおどろおどろしい面を被り太鼓を叩き、攻め入る大軍を退陣させたという言い伝えから残る伝統ある舞なんだとか。

とにかく迫力満点で、文字通りのイケ面なのだ。

外浦の荒波を見ながら海沿いに車を走らせると、その御陣乗太鼓の歴史をもつ地域がある。

そんな外浦の海岸沿いをこの旅だけで何度往来したことか。
昔ながらの揚げ浜式製塩の塩田にも出会える外浦。
未だにその製法で塩を作っているところもあるということにも驚かされる。

実演は見れなかったものの、その製法は資料館さながらの道の駅で知ることができた

塩サイダーなるものまであって気になる、気になる。
気になるならば、海沿いに延々とおもしろ看板で案内してくれている《塩カフェ》に行くしかない!
おもしろ案内看板は、外浦を車で走りながら探してもらいたい。

もちろん雨の塩カフェ

塩サイダーを入れて焼くというパンケーキまである。
しっかり映えスポットもゲットして、満腹、大満足の外浦。

能登半島についての知識も情報も、輪島塗程度しかなかったわたしが、このさらに3ヶ月後に3泊4日の珠洲焼レポートの取材に行くことになる。
能登半島の魅力に取り憑かれたのは紛れもない。


旅がもたらすもの

珠洲焼資料館にて
漆黒の焼物の魅力


再び訪れた能登半島では、レポート取材で珠洲市の伝統あるお仕事、珠洲焼や珪藻土コンロの取材をさせてもらった。
もちろん、12月の能登半島も雨から雪に変わるほどの空模様で雨女健在だった。

朝焼け撮影にも立ち寄った見附島は、能登の軍艦島とも呼ばれ、珪藻土で出来ているそうだ。
島と並ぶように海にそそり立つ鳥居も神秘的で、時間を忘れるほど海を見ていた。

軍艦のような見附島

鳥居といえば、能登半島にもたくさんあって、海を臨む鳥居にもいくつも出会える。

なかでも、恋路海岸の鳥居はその名の通り、恋人の聖地にもなっていて、恋人と眺めたくなるような海。

鳥居を見るたびにいつも思うのは「鳥の居る場所」だなぁということ。
鳥居で翼を休める鳥がいたら、ここの神のつかいなんだろうなと感じて手を合わせ、シャッターをきる。

何度も何度も内浦から外浦、外浦から内浦と車で放浪した。

夏の能登半島と冬の能登半島を堪能した合計6泊8日の車中泊。
正直、足りていない。

夏の千枚田
冬の千枚田


カメラをもつ人なか1度は撮りたい冬の千枚田も、観光客でごった返していて、またゆっくり必ず行きたい場所だ。

能登牛ステーキ丼

ただただ自由気ままに放浪するだけでななく、ご当地グルメもしっかり現地調達する。
能登半島の美味しいものを訊ねると、能登牛をすすめる人がいた。
能登牛?実は知らなかった。

知らないことは体験するのみがモットーではあるが、わたしは究極の肉食派でもある。
能登牛…食べない選択肢はもちろんない。

控えめに言って「途轍もなく旨い!」

その美味しいお肉をいただいたあと、前情報皆無で出くわした光景がコチラ⤵︎ ︎

珠洲市は白鳥の飛来地だったのだ。
前情報が無くていきなり遭遇する光景がどれほど感動的か…。
えっ?何?
今の白い大軍は何!?

そのまま通り過ぎてしまい、慌てて引き返すことになる。
ちゃんと駐車場も用意されているのに、この白鳥の優雅な姿を見ている人は誰ひとりいなかった。

車道を挟んでカメラを構えているわたしの姿を見て、観光客らしき県外ナンバーの車が白鳥にやっと気付くという流れになる。

たったひとつの目的から始める放浪旅。
車で飛び出す理由が、こういうことなのだ。

二三味珈琲を買い求める。
たったそれだけで、ここには書ききれないものに出会う。

宿を楽しむという旅も、もちろん大好物なんだけれど、たったひとり、思い立って飛び出す旅には現地調達の目的が生まれ、感動と驚きの光景と出会ったりするのだから、止められない。

日々、まとまった自由な時間が取れなくても、近場にも必ずあるものだ。
まだ見ぬ景色。

今、まさにまとまった休みを取れる環境下にない生活をしているわたしだけれど、放浪は継続中だ。

次は旅は道連れ編も公開してみようかな。


さいごに

思い立って飛び出す放浪は、出会うもの全てにひとりで感動し、ひとりではしゃぎ、ひとりで満喫するものであり、リアルタイムに誰かと旅の喜びを共有することがない。

話し相手もいないので、言葉を発することがあまりない。

わたしは訪れた場所で、その土地の人にあれこれ訊くタイプだけれど、それ以外はとにかくひとりで感動を堪能する。
丸1日、ほぼ言葉を発していなかったなぁと思ったら、実は運転しながら大音量で聴いている歌を歌っていたりするので問題ないことに気付いた。

寂しがり屋にはおすすめできない旅のカタチ。
でも1度は、ひとりで飛び出してみるのはおすすめ!

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