"ママ友"?"友だち"?どっちにするか迷った話

先日、高校時代の友人と晩ご飯を食べに行った。

彼女と会うのは3年ぶりのこと。
3年前、今の土地に引っ越してきてからごく近所に住んでいることを知り、わが家に遊びに来てもらって以来だった。

今回、ご飯に誘ったのは私だ。
「一緒にご飯に行きたいってずっと思ってた。でも、もりこはお子さんたちがいるから誘ってもいいのかどうか迷っていたんだ」と友人は教えてくれた。

数年会っていないと積もる話はたくさんあって、私たちはひとしきり盛り上がった。

お互いの状況について。
高校の友人のこと。
共通する趣味である漫画の話。

話の中で、私が自分の友人を引き合いに出してしゃべる場面があった。

「えーと、私の…(間)…ママ友がね、歴史漫画にはまってるらしくてさ」

そんなことを言ったんだったと思うのだが、「私の…」から「ママ友がね」までのほんの1秒ほど、私の頭の中はフル回転していた。

友だち?ママ友?
どっちを使ったらいいんだ!?

最初は「友だちが」と言おうとしたのだけれど「あっ、ここは”ママ友”の方がいい?」と思い直し、どっちにしようかと悩んだ末に”ママ友”を選んだ。今思えば、高校時代の友人にとっては私の友人が”友だち”だろうが”ママ友”だろうがどちらでもいいと思う。

なぜ私は悩んだんだろう。”友だち”と”ママ友”について、自分はどんな風に考えているんだろう。

長女を妊娠中、私は初めて”ママ友”という言葉に出会った。よく妊娠・出産に関するエッセイや育児雑誌を読んでいたのだが、その中にちょこちょこ出てくる言葉だった。

例えば、
・ママ友同士でランチするならこのお店。
・ママ友と公園に行きました。
とか。

それらを見た私は「へー子どもが生まれたらママ友を作るもんなんだ~」と思った。
母親になるまでに出会った友人には、そんな呼称は無かった。高校で出会った友人のことを”高友”とは言わない。そう考えたら”ママ友”という言葉は不思議にも思えるのだけど、この時は特に疑問に感じることもなく「母親になったらママ友ができるのが自然なことだ」と無意識下にインプットしたのである。

一方でネットで妊娠・出産について検索していると、
・ママ友カーストは存在する。
・ママ友トラブル、こんな時どうする!?
などの思わず身震いしたくなるような文言も見かけるようになった。「うへえ、大変そう」というのがその時の正直な感想である。

私はがぜん張り切った。
エッセイや雑誌に書かれていたように母親学級や妊娠中のヨガ教室に行って、同じようなお母さんたちと出会おう!ママ友作ろう!と。
できればトラブルは避けつつ…。

しかし、あえなく撃沈した。

妊娠中はもちろん長女が2歳になる頃ですら、ママ友はひとりもいなかった。

自分なりに頑張ってみたつもりだった。
妊娠中は母親学級やヨガに行ったし、長女が生まれたあとは児童センターに通った。
関西から今住んでいる自治体に引っ越してきてからも、1歳の長女と一緒に親子向けのオープンスペースに行ってみたりした。

しかしどこに行ってもそうなのだけど、とにかく会話が続かないのだ。運よく続いたとしても、連絡先を交換するまでには至らない。
そもそも初対面の人、数回会っただけの人とどこまでしゃべっていいかが分からない。どうやって距離を縮めたらいいのかが検討もつかなかった。

「母親になったらママ友ができるのが自然なことだ」と思い込んでいた私は、孤独と情けなさで日々押し潰されそうだった。

引っ越してきて数ヶ月経った頃、とあるNPO法人の存在を知った。
赤ちゃんのいる母親が主体となって活動するNPOで、「無縁社会を解消していくために、赤ちゃんとお母さんができることを模索していこう」と言う活動主旨に私は強く惹かれた。

夫に相談したら「やってみたら~」と何ともあっさりした反応が返ってきたこともあり、私はNPOで活動することを決めた。
次女を授かったことが分かったのは、ちょうどNPOに加入した頃だった。

このNPOでは連絡事項や共有したい情報がある場合facebookを利用することになっていた。それまでSNSとは無縁だった私はおっかなびっくりfacebookに登録したのだが、これが思わぬ功を奏した。

他のメンバーには加入前からfacebookを利用している人も多く、私は彼女たちの投稿をちょくちょくチェックしていた。
投稿された記事を見ていると「この人はこんなことに興味があるんだ~」とか「あの人は旅行が好きなのねー」とか、何となく人となりを想像することができた。
すると次回会って会話をするときに「私も旅行が好きなんですよー」と盛り上がれたりする。

メンバーとは定期的に会うため、少しずつ少しずつ会話が増え、半年~1年ほどかかって親しい人が増えていった。”友だち”でもあるけれど 、”同志”に近い感覚だった。

NPOに入って9ヶ月後、次女を出産。
出産後自治体から配られる子育てパンフなどを確認していたとき、1枚のチラシが目に入った。
そこには自治体が主催する乳幼児連れの親子向けイベントの案内と「ママ友をつくろう!」というキャッチフレーズが書かれていた。

私はこの「ママ友をつくろう!」という言葉に強烈な違和感を覚えた。あれだけ「ママ友を作りたい」と必死だったというのに。
考えたけれど、違和感の正体は分からなかった。

次女が1歳を迎える頃から子どもたちを連れて、私自身が興味のある講座やワークショップに行ってみるようになった。会いたいと思う人に会いに行くようにもなった。

子連れOKの講座ばかり選んで参加していたので私と同じ幼い子どものいるお母さんとの出会いが多かったが、独身で子どもはいないけれど『子ども』という存在をリスペクトしている人たちにも出会った。

前は頑張っても空回りするだけだったのに、いつの間にか友人と呼べる人たちが周りにいてくれるようになった。そこにはママもいるし、ママでない人もいた。

そして気付いた。
あのとき抱いた違和感の正体に。
「ママ友をつくろう!」という一文にもやっとしたのはなぜか。

「母親の友だちと言えば母親だよね!」と決めつけられた気がしたからだ。

ママだろうがママじゃなかろうが気が合えば友だちになれる。だから「”ママ友”をつくろう」なんて言って、対象を母親に限定しないでよ!と腹が立ったのだ。
そのイベントに来るのは大多数がお母さんたちだろうから、理不尽な怒りではあるのだが。

また、「友だちは作るもんじゃない、なるもんだ!」と思ったのもある。
世の中には色んなタイプの人がいて、気の合う人を見つけてサクッと友だちになれる人もいる。時間をかけて何度も会うことで気付けば友だちになっていたという人もいる。私はもろに後者のタイプだった。
だから「作れるかーい!泣」と盛大にツッコミを入れたい気持ちになったのだ。

改めてもう1度、自分に問う。

どうして私は”友だち”と言うか”ママ友”と言うかで迷ったんだろう。この2つの言葉について、自分はどんな風に考えているんだろう。

私は友人はみんな”友だち”という認識でいる。共通の興味を介していろんな立場の友人ができたことで、母親であることは”友だち”の属性の1つなんだという考えになったからだ。
会話の中で漫画好きの友人を引き合いに出そうとした時に、はじめ「友だち」と言おうとしたのはそのためだ。

じゃあどうして最終的に”ママ友”を選んだんだろう?選ぶ前にどっちにするか悩んだのはなぜ?

私が最終的に「ママ友が…」と言った理由も悩んだ理由も、きっと”ママ友”という言葉を特別視しているかららだだ。

“ママ友”という言葉が思い浮かんだあと、どっちにするか悩んだのは、私が”ママ友”という言葉にマイナスイメージを持っていたからだと思う。
私が過去に“ママ友カースト”や”ママ友トラブル”の記事を見て感じた「ママ友付き合いって大変そう…」という気持ちは、いつしか”ママ友”のイメージに鈍い色の霧をまとわせていた。それに加えて、自身の「ママ友=母親になったら自然にできるもの」という思い込みが孤独感の中で「ママ友=母親になったら作らなきゃいけないもの」に変化したことで、私は”ママ友”に暗くどろっとしたイメージを持ってしまったんである。
会話中、“ママ友”が思い浮かんだと同時に暗いイメージも浮かんできて「ママ友がね」と言うことをためらったのである。

だというのに最終的に「ママ友がね」にしたのは、自分でもビックリするくらい無意識に、矛盾を抱えていたからだ。

友人の属性の1つが母親ってだけだから、どんな立場の人でもただ”友だち”だ。

そう思っているのは確かだ。

確かなはずなのに、私は「母親になってから出会った、同じ母親である友人を”ママ友”にカテゴライズすることは自然なこと」という認識も持っていたのだ。
たぶん”ママ友”という呼称があるためだと思う。わざわざ呼び名が存在するという事実は、私にとってとてもインパクトのあることだったんだろう。その衝撃は脳裏に深く刻まれ、”ママ友”は呼称の無い他の友人たちと区別する存在なんだというイメージが、頭の片隅にぺとっと張り付いていたのだ。
だからとっさに「漫画好きの友人は母親だから、やっぱりここは”ママ友”って言った方がいいんじゃない!?」と考えたのである。

“ママ友”はただの言葉だ。
私はその言葉に強くとらわれていたんだなぁと思う。

ここまで書き終えた今、”友だち”でも”ママ友”でもどっちでもいいやという心持ちになった。
“友だち”は”友だち”に違いないし、”ママ友”って言うことで「その友だちには子どもがいて…」っていう補足説明が省けるなぁと思ったりもする。

“友だち”と、”ママ友”。
そのうち器用に使いこなせるようになるだろうか。

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