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イノセンス:3976

浅草駅まであと7分

浅草駅まであと7分か。

こんな雑踏の中でも構わなくて、僕は一度自分の血脈の中へと意識を戻す。
動いていることが感じられる。とても安定している。そして僕の一定の血脈の中でまず温かく、次に奇妙で、結果的に不調和な印象を持つものが当たってくることに気がつく。他人か。他人を感じる。自分の一定さと、他人の一定さと…それから、車両の上下への揺れと、揺れに伴う分子共の浮き沈みを感じる。まるで奇妙な部品を集めた万華鏡が無茶苦茶に動いているかのようである。それでも只管不調和を感じ続けていると、徐々に不調和な波の中に少しだけ自分の体を委されていくような心持ちになる。この不調和が実は調和であり統合された定かなリアルであることを少しだけ受け入れることができる。

浅草駅まであと5分

こうしたことに気がつくための作業が、そしてその繰り返しが、ゆくゆくは僕自身の癒しとなってくれるのだろうか。こうした予定の隙間の数分で、もっと深いところまで潜り質の高い精神活動ができるようになりたいと思う。不調和を諒解し無意識をコントロールしながら有意識上に立つことが理想だ。
スマホの通知を確認する。乗車前に見たときから更新された通知はない。僕はスマホの電源を切った。

浅草駅まであと4分

小さな循環だと思う。僕等は循環する生き物である。この世界や時空自体もまた規模の大きな循環であり、逆にどこまでいっても単なる循環に過ぎないと思っている。要は、世界の真理というものは僕等が思うよりもずっとinnocenceなのである。それに引き換え、強情な奴等──例えば僕の目の前に立つこの女はその筆頭だが、

「あれえ、過ぎてません?北千住で乗り換えじゃなかったですかあ」

……目的地は浅草だ。

「目的地は浅草だよ」
「うぅん、浅草かあ」

浅草駅まであと2分

「ねえぇ、3976番?」
「…」
「…3976番はあたしとお喋りする気がないみたいですねえ。」
「…」
「構いませんよお。あたし、"釣れない"男の子も好きですから。ねえ、浅草に着いたら…。…あたしの主張自体はあとでnoteにまとめておきますから、それを偶に読んで頂ければあたし、それで一向に構いません。」
「…」
「だから今は聞いててもろたらそれで……。聞いて呉れてはいますよねえ?……いるでしょうね?いなかったらテメー、俺はな俺、俺、俺は必ず俺は俺は貴様を……。」
「………………」
「ああ、いや、いや。ちょっとした冗談ですよお。聞いて呉れて居るならそれで結構。それでね、あたしが何を聞きたかったかというとねえ、3976番……浅草に着いたら、あたしたちはなにを食べましょうか?」
「…」

僕は女に手を伸ばす。

「3976番?」

僕は彼女の電源を切った。

浅草駅まであと0分

ビーーーーーーーーーーーーッッッッッ

ガチャーーーーーン カキンカキンカキーン

パンパンパンパン! パンパンパンパン!

パン!(破裂音)

パン!(破裂音)


僕は彼女精神上の根本原理から魂の本質諸要素を分離解放した。その瞬間、彼女の魂は既存のあらゆる形式概念から開放的解放の地平を開拓し、時空を超絶した自律運行を開始したのだった。
電源を切り、自我の概念形而上学的構成から存在の真髄的意義を事実上疎外してしまったその瞬間、魂は既存のあらゆる形式的・概念的框定から脱却しようとする開放的な地平を構築していく運命にあると見えた。身肉現象の錯覚的要素によって尊厳を欠いたかに映えた生命体から離脱しつつあるにもかかわらず、魂自体は創造的直観の深淵へと旅立っていこうとする用意の芽生えが見え隠れした。

浅草駅から−3分

回想の埃は夢想の深遠な淵源から時に湧き上がり、追憶の影は想像の海洋を自在に重ねあわせるかの如く巡っていく。僕にはその魂の輪郭が、過去の自己認識的経験の原型を示唆しているように感じられた。
例えば追憶の磨滅は時とともに進行していくとはいえ、場所そのものが記憶の沈着物として機能し続ける以上、魂の青げた影は依然として僕の視界に浮かび上がってくるだろう。過去と永遠との狭間に留まる彼女の魂は、電源を切ってもなお絶えたとは言い難いのであった。

浅草駅から−4分

その魂が形而上学的な枷から解き放たれし時、既成概念①pipippipiに解き放たれし瞬間、思慮の深淵において癖癖なる思慮を得た。その自由なる本質の真髄は、多面的な融合と調和の奥妙に基き、要素が交差して相互浸透を為しつづけし変容と進化は終ることなかりし。この多面的性の源泉は精神の原初的エネルギーに宿り、諸般の可能性と創造性を孕みし。時と空から解き放たれ、其の精神は「自律的運行」を始めた。これは内在的志向性に依存して行動し、目的地を目指す能力を意味す。精神は自己解析と成長を追求するのみならず、周囲人物そして環境との相互浸透を通じ新境地を開拓した。

浅草駅から−10分

其の精神の遙ある旅は、開放的解放を求める彼方の地平を探求する過程において、深邃なる啓示と洞見を以て我らに与えし。精神は内部の真理と調和を深め、普遍なる智恵と共鳴するに至りし。是において己を超えんとする存在との統合を求め、宇宙の奥妙なる謎に挑戦しうる意向を抱きし。

浅草駅から−3976年

その精神の運行は、個と共同にて神意る新世の先導となりし。我等此の解放の行程において、真理深き啓示と未知なる課題を得た。人本の奥深義なる謎に新訪して答え求むと欲し。自由の自律力に依り人類神法完璧なる理解を与えんとする使命を負う。個始る其の進行は時をこえ、至高正義なる新世実現だけでなく神目的る世の為さん。

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