ちょっとした小話

サウンディマウンディ先生と助手のモナミ

サウンディマウンディ先生はミョーク街の外れにある小さな木造の小屋に住む年齢不詳の薬学博士である

家の裏にある広大な森は彼のもので、その山の中で取れる薬草や果物、山菜、木ノ実、鉱物、動物、といった生きとし生きる物から命を頂戴し、薬の調合に充てている。薬以外にもインクや飴などの調合も行っているのだが、薬を作る時間に比べれば少ない。

家の隣には森から流れる小川があり、この小川が素晴らしく綺麗で美味しい水なのはミョーク街ではもっぱら有名だ。一度は飲んでみたいものだと人々は口にするが、ミョーク街の街長はこれを禁止とした。街長のヒックは『これは彼との契約だ。彼の守る森に踏み入り、何かをするなど言語道断。我々の生活の中で病気にかかった時、傷を癒してくれる薬を作ってくれているのは誰か。それがサウンディマウンディ先生だ。もし先生の土地に悪意をもたらす、そんなことをする輩がいたら、この街の薬は全て無くなる。いいか、これは彼とこの街の契約だ。忘れないように。』と、街に住む人々に釘を打っている。

大人から子どもまでがそうだ。皆一様にサウンディマウンディ先生には迷惑をかけてはいけないと育ってきたのである。

素晴らしい朝日が森から顔を出し、活気を与えている。そんな中、サウンディマウンディ先生も目を覚ました。寝室のベット横にある横長の窓から木漏れ日がてんてんと布団に差し込む。

『美しい朝だ。』体を起こして伸びをする。ベットの右横に置いてある小さなテーブルの上に水の入ったグラスがある。それをくいと持ち上げ、そのまま飲み干す。ベットから降りてスリッパを履き、意識がまだグラグラとする中、リビングへと向かった。そこにはコーヒーを入れる若い男の姿があった。『おはよう、モナミ』サウンディマウンディ先生がそういうと、モナミという名の若い男が振り返った。彼は笑顔で『おはよう、先生。』と言った。

モナミは手際良くカトラリーを並べ、朝食の準備をする。キッチンには二人分のトースト、今日は目玉焼きがのっている。そして朝、庭の畑で取れたバタフライピーだろうか、その水出しの美しい青が日光に当たりきらりと光る。リビングテーブルには今朝の新聞と幾枚の手紙が置かれている。
『先生、今日はどちらまで行かれますか?』二人分のコーヒーを入れたモナミが、テーブルへと足を運ぶ。先に椅子に座り新聞に目を通していたサウンディマウンディ先生はモナミからコーヒーを受け取り、一口そっとすする。『君の入れてくれるコーヒーは、やはりおいしいね』と呟く。それを聞いたモナミは軽く会釈し、おきっぱなしの目玉焼きトーストを皿に盛り付けにキッチンへと戻った。
はっと顔をあげ、サウンディマウンディ先生はモナミに『今日は蛍インクの調合のため、夜、森に出かけるよ。ランプと虫かご、マッチに試験管、シャーレ、ピペットを2本、準備だな。』と点々と告げる。『夜に出かける、ランプに虫カゴ、マッチに…』と、モナミは準備するものをメモに取りスラスラと綴る。これが彼の朝なのだ。

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