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クラブが犯した2つのタブー

シーズン中の週末はスタジアム通いにアウェイ遠征と、慌ただしく過ごすサポーターにとってシーズンオフは束の間の休息期間だが、そんなシーズンオフにも楽しみは存在する。その一つが来シーズンを戦う新しい戦闘服の発表である。どんなデザインとなるか、どんな色になるのか、その上で誰のユニフォームを買おうか迷う。そんな楽しみがユニフォーム発表にはある。

サンフレッチェ広島の2ndユニフォームの発表は多くのサンフレッチェサポーターを失望させた。前代未聞の3チーム統一ユニフォームということ以上に反感を買ったのが、サンフレッチェ広島にとってタブーともいえる赤色がユニフォームに採用されていたことだった。

フットボールクラブにとって"カラー"とはクラブとサポーターを繋ぐ役割を持つ。"カラー"とはユニフォームやエンブレムの色という本来の意味の他、チームにどの様な選手が所属しているか、チームがどの様な姿勢で戦うのか、チームの社会的位置付け等、様々な意味合いを含んでいる。とりわけユニフォームの色やエンブレムの色といった視覚的に直接見ることのできる"カラー"は、サポーターにとっては、我々がサンフレッチェ広島であるというアイデンティティを保つために最も重要なものだ。

今回のクラブの決定は2つの点でサンフレッチェサポーターのプライドを傷つけた。

①浦和レッズのカラーである赤を使用したこと。サンフレッチェと浦和レッズとの関係性についてはことさら説明せず割愛するが、サンフレッチェのサポーターは浦和に少々複雑な感情を抱いている。ここで過去の移籍の是非や浦和を批判する気はない。サポーターなら誰しもが一度は、愛する選手との別れを経験しているだろう。フットボールの世界ではよくあることであり、特定の誰かに責任があるわけではない。だが頭では理解できても感情は別だ。クラブの今回の決定は、あまりにもサポーターの心情を軽視し過ぎている。どんなに選手が引き抜かれようとも、試合で負けることがあっても、我々はサンフレッチェ広島であるという誇りがクラブとサポーターを団結させ、困難を乗り越える糧となる。自らアイデンティティを喪失させる様な行為は選手が他のチームへ移籍したり、試合で負けるたりすること以上に"敗北"だ。

②この決定に至った過程の説明でカープを持ち出したこと。サンフレッチェサポーターはカープに、これまた少々複雑な感情を抱いている。それは嫌いという意味では決してない。むしろサンフレッチェサポーターの多くはカープ応援しているだろうし、敵視もしていないだろう。だが、広島に住む人々は猫も杓子もカープであり野球とサッカーとの間には大きな隔たりがある。人々の話題も、テレビでの扱いが多いのもカープだ。カープが悪いというわけではない。多くのサポーターは理解している。しかし感情はえてして理屈とは別の所で働く。だからこそサンフレッチェサポーターは広島の地が赤く染まっても、紫の誇りを胸に生きていきたいのだ。赤を採用した理由をカープに求め、ある種の"免罪符"として利用したかの様なクラブの説明は、サポーターの神経を逆撫でするものだ。

今回のクラブの決定が様々な事情を背景に下されたこと、関係者の方々の様々な思いがあることに留意する必要があるにせよ、少なくとも現時点で、クラブとサポーターは大きく乖離している。

この乖離が行き着く先はどこなのか。少なくともポジティブなイメージは抱き難い。クラブ、選手、サポーター、それぞの矢が束にならなければこの群雄割拠のJリーグでは相手にすぐ折られてしまうだろう。

実際にはクラブ、選手、サポーターはある種のさんすくみの様な関係で、完全にベクトルが一致することはないのかもしれないが、3者の適切な距離とバランスを見出した上で三位一体となることが必要だ。今回の件は明らかにバランスが崩れており、割り食ったのはサポーターだ。


#紫を取り戻せ

誰から紫を奪われたのかを、我々は理解する必要がある。我々は他ならぬ、我々自身が愛するクラブから紫を奪われたのだ。

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