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花様年華〜Jin side③-2.

JIN side③-2

→つづき

元彼の男性はまだ道にうずくまっていた。

聞くしかない。
なぜだか、どうしても気になるんだ。

「あの...」

へたり込む元彼に声をかけた。

「えっちょっとやばっ...こんなイケメン見たことないんだけど!」

隣の、今の彼女らしき女性が早口で何か話している。

「あの...さっきの彼女...走って行った...」

僕は一体、何を聞こうと思ったんだろう?

「あー...あいつね...本当変な女なんだよ。頭ばっかり良くて。かわいげないから、別れたくて」

分からない言葉もあるけど、要するにこの人の勝手で別れることになったのは雰囲気から伝わる。

「そしたら合コンでこいつと出会って。いやーやっぱ女はかわいくなくちゃ!男を立ててくれるような...いてて」

あー、やっぱ痛いんだ。
でも、この人すごくよく喋る。

「あの、彼女って何歳ですか?」

なんで年齢聞くの、僕ってば!!

「私はぁ24歳です!お兄さんは?何歳?てか名前教えて!」

「あなたじゃなくて、さっき走って行った...」

僕が話を遮ったことに、隣の女性は少し怒ったようだ。

「あいつは俺と同じ歳だから...」

年上だったんだ。
若く見えた。
暗い道だったからよく見えてなかったのかな。

「立てますか?」

まだよろめく男性に手を貸し、立つのを手伝った。

「お兄さん優しいー!ねぇ今からどっか行こうよ?」

「はっ!?何言ってんの?俺が今ここにいるのに!?」

「だって!こんなイケメン見たことないし!」

「あのなぁ、俺は高収入の堅物リケジョと別れてお前選んだんだよ?お前の価値がどんなもんか自分で分かってんのかよ」

「ちょ、それどういう意味!?」

早口だし怒ってるからちょっと何言ってるか分からない。

でも。
なんだろ。
ムカつくな...

本当やっちゃいけない。
こんなこと絶対ダメだ。
だけど我慢できない。

僕は買ったガイドブックをくるくると丸めて、男性の大変大切な部分へとフルスイングした。

「.......っ」

もう明日まで声も出ないだろう。

「ひどいです、あなたたち。彼女傷つけてそのままなんて。反省してください」

僕、何言ってるの?
何やってるの???

ポカンと口を開けた女性と、今度こそ再起不能になった男性を置いて、僕は一目散に逃げ出した。


こんなに速く走ったのはいつぶりだろう?

なぁみんな!
僕まだこんなに走れるんだな!

あの頃、みんなと悪さばかりしてた。
気に入らない大人への反抗心からだった。

僕ももう十分大人になって、あの頃の悪さを非難する立場になったのに。

どうしても彼女のために何かしてあげたかった。
見ず知らずの人に僕があんなことするなんて、みんなが知ったらもう何日も笑われっぱなしだろうな。

いつも来る土手まで走ってきた。
寒いと思っていたのに、一筋の汗が僕の頬を伝った。

『あー!気持ちいいー!』

伸びをして思わず声が出た。

名前は知らない。
顔もよく覚えていない。
年齢は知ってる。
声は...少しだけ聞いたかな。

そんな彼女に、この日からずっと会いたいと思うようになるなんて誰に想像できただろう?

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