(現役生・高卒生共通)夏期講習選択の手法

 

Introduction

 『先生の電磁気徹底攻略E取った方が良いですか?』、『物理特講って難しいですか?』、『αとβと特講どれが良いですか?』・・・ここ1~2週間はこの手の質問で持ち切りです。正直、夏期講習に悩む時間があるなら勉強しろ、と言いたいところですが、7月8月という「受験生活で最も大事な2か月間」の予定を決めたい学生の質問を無下にするのも心苦しいところです。
 当然のことながら、「自分に必要な夏期講習」はひとりひとり違いますから個別相談を要する場合もありますが、それ以前に、夏期講習を選ぶための考え方の指針を持たずに「何となく良さそうな講習を選ぼうとしている学生」があまりにも多い現状が放っておけないので、当記事では夏期講習選択の方法をお伝えします。
 当記事では、まず高校物理を5つの分野に分け、夏期に学ぶべき優先順位をつけます。次に、受験物理の戦略を2パターンに分けて、それぞれについて夏の終わりまでに目指すべき到達点を位置付けます。最後に、それぞれの戦略ごとに講習の選び方を明記します。
 当記事が、皆さんの年間のペースメークに役立ち、同時に、夏期講習を受講することによる効果を最大化できることをお祈りしています。
 なお、当記事における意見は個人のものであり、何かしらの組織や団体の意見を代表するものではないことにご注意ください。

前提

 前提中の前提として、一年間で学ぶ高校物理を5分野に大別しておきましょう。

高校物理分野大別
 ① 力学 
 ② 電磁気学 
 ③ 熱力学 
 ④ 波動 
 ⑤ 原子物理

 このうち、①力学、②電磁気学、③熱力学は体系的な理解を要する分野であり、対して、④波動と⑤原子物理分野は各論的な理解が有効な分野です。なんのこっちゃ、という人にとってもう少し説明を加えておくと、「数少ない法則から物理現象の説明を試みる①力学、②電磁気学、③熱力学」と、「物理現象ひとつひとつを個別に学んでいく④波動、⑤原子物理」と理解してください。この種別を通して、一つ前提として共有したいことがあります。それは、①力学、②電磁気学、③熱力学の方が習熟に時間と手間がかかるという事実です。あえてざっくりと書くと、こちらの分野の方が深く学ぶわけです。
 さらにもう少しだけ付け加えます。③熱力学は、①力学、②電磁気学に比べるとややボリュームは軽いです。また、②電磁気学のうち、「電気」分野をマスターする方が、「磁気」分野以降の知識を網羅するよりも、重要度が高く、また労力を要するということを知っておいてください。重要度が高いというのを言い換えると、「電気」をちゃんとマスターしていれば「磁気」が出てきてからも大丈夫だということもできます。逆に、電磁誘導やコイルの問題を苦手とする人は大抵「電気」分野に穴があります。
 以上は、夏期講習を選ぶ以前に、入試科目に物理を利用する以上、押さえておかねばならない常識です。

夏期講習選択の手法

分野別優先順位

 この前提知識を踏み台に、夏期講習選択の方法についてお伝えしていくのですが、夏期講習そのものについて語る前に、もう少し広くとらえてみましょう。先に述べた5つの分野の中であなたが優先的に学ぶべき分野はどれでしょうか。「今この瞬間に」、という話であれば誰であっても①力学ですが、夏期の時期であればどう考えたらよいでしょう。やはり①力学でしょうか。それとも②電磁気学でしょうか。なんとなく、⑤原子物理でないのはわかりますね。
 もったいぶっても仕方ないので考え方を書きましょう。夏期に優先的に学ぶべき分野は、習熟に時間と手間がかかる分野、入試によく出る(=配点の高い)分野、あなたが苦手としている分野です。このようにはっきりと書かれれば『当然だな』と、誰もが納得してくれることでしょう。逆にここを学ばずに、後期に突入する場合を考えてみてください。時間と手間をかけるべき分野に手がついていない、入試によく出る分野に手がついていない、苦手としている分野で平均点を取ることができない・・・言うまでもなくこれでは基本的な戦略の本筋を外していますから、代わりとしてほかの分野をどれほど勉強していたとしても、入試本番においては残念ながら、当落ラインのせめぎあいに参加することすらできないでしょう。
 では、「あなたが苦手な分野」、の部分は一旦置いておいて、習熟に時間と手間がかかり、かつ入試によく出る分野とはどれでしょうか。これは当然①力学と②電磁気学というのが答えです。習得に時間と手間がかかるのは先述のとおり、また、出題頻度及び配点の観点からは、私大、国立2次における出題パターンを見ると、8割を超える大学の出題パターンが「①力学1題、②電磁気1題、あと1題~2題」という形式です。
 そして、この2つを直接比較した場合、②電磁気学の方が、より受験生から敬遠される傾向にあります。これには理由がいくつかありますが、やはり「目に見えないものを扱うとっつきづらさ」が一番でしょうか。ちなみに「電磁気E」ではまずこの「とっつきづらさ」を取り払うところからスタートします。
 対して、①力学は、②電磁気学にくらべれば「とっつきやすい」といえますね。また、年度のはじめから学ぶ分、夏期に突入する前に勉強が進んでいるという点も大きな違いです。②電磁気学や④波動分野は、復習しきれないまま夏期に突入することも大いに考えられます。
 すると、多数派の学生にとって、まずは②電気が最優先、次に、まだ手が回りきっていない④波動分野と、そもそもの重要度が高い①力学が次点での優先、あとはなんとか③熱力学にも手を伸ばしたい(現役生は③熱力学を後期にイチから扱いますから、夏期に②電気、①力学、④波動をちゃんと習得することに専念すれば良いです。)というところになるでしょう。以上がそのまま「受験生が夏に力を入れて学ぶべき分野」に当てはまるわけです。

夏の目標の設定

 さて、大局的な視点から、分野別の重要度が決まりました。この時点で、実はすでに夏期講習の選択作業は半分済んでいます。あとはあなたの得手不得手と照らし合わせることで、「あなた自身にとっての、夏に力を入れるべき分野」が決まることになります。
 
 ところで、あなたは今、どの程度先を見通せているでしょうか。年間を通した戦略をすでに持っているでしょうか。ええ、もちろん、「今、この瞬間の」あなたにできることは、目の前の問題を一題ずつ復習して力をつけるべく、ひとつひとつの計算をこなすこと以外にありません。しかし、受験というのは、大学入試というのは、「ただただ一生懸命やっているだけで受かるもの」なのでしょうか。
 夏が過ぎ、秋口になれば志望大学の名前がついた模試もあるでしょう。そこで判定が出るのであれば安心ですが、4割の学生にはE判定が出ます。D判定も合わせたら6割になります。秋口の模試では、進度的にも少し進んだ分野から出題されることもあるため、想定外に未習得分野からの出題があり、結果が出ない場合がよくあります。
 仮に、万が一、(いや、10に6あるわけですが)D判定以下の結果が突き付けられたとしましょう。ここで落ち着いて、『その想定はできている。今この結果が出るのは仕方ない。ただし今後の戦略通りに勉強が進めば合格がつかめるはずだ』と思うのか、それとも、ただただ『やばいやばい』と慌てふためくのか。あなたはどちらでしょうか。
 プレイヤーとして一生懸命勉強する自分と同時に、先を見据えて自分をマネジメントする、いわば監督としての視点を持ち合わせていないといけないわけです。

 模試の話はまたの機会に回しますが、夏期講習も同じです。「どの講習を取るのか」を選ぶ以前に、そもそもの年間を通した戦略が必要不可欠なのです。そのうえで、「何のために夏期講習をとるのか」という目的を明確にし、やっと初めて、「どの講習をとろうか」と進むのが、戦略的な受験生である上で、当然の考え方の流れなのです。
 とはいえ、そんなに先の話は、当事者である皆さんにはなかなか見通しがつきません。学生にとっては、毎日が初めての受験生活です。そこで、当記事では、2通りのコースを用意し、それぞれについて、8月末に物理選択の受験生はどうなっているべきなのか、年間の計画の中で目安を設定して、夏の終わりまでの学習到達目標を明示し、さらには講習の選び方を加えて整理しました。皆さんはどちらかを選んで、その通りに考えていただいても構いませんし、この2通りのコースを目安として自分なりに調整してくださっても構いません。

コース1「中辛コース」(標準受験生パターン)

標準的な王道の問題(例えば千葉大や筑波大)の本番で合格点を切らないために

夏の終わりまでの到達目標
① 力学・・・講義問題に加え、同難易度の演習問題が自力で解ける
② 電気・・・講義問題が自力で解けて、その数値替え程度の問題が解ける
④ 波動・・・講義問題が自力で解けて、市販の問題集の基本問題を自力で解ける
③ 熱力・・・高卒生は講義問題の復習が1周済んでいる

 この場合は、先に整理した、分野別優先順位

②電気 > ④波動 = ①力学 > ③熱力学

 に従い、上記の目標を埋めるために、苦手を潰すことをメインにして、分野ごとの講座を選択すると良いでしょう。レベルとしては「徹底攻略」がベストです。基本的な考え方から始めて、上記の入試のレベルの問題を扱い、しっかりと自立して解ききるところまで進みます。3時間×4日=12時間という時間で1分野を煮詰めることで、復習を通したころには実力と手ごたえが備わっているはずです。

コース2 「辛口コース」(横綱受験生パターン)

「横綱相撲をとる」つまり、東大、東北大レベルで合格平均点またはそれ以上を狙う、その他いわゆる難関大で他者に大きく差をつけるために

夏の終わりまでの到達目標
① 力学・・・過去問レベルの演習問題が自力で解ける
② 電気・・・コンデンサーを含む回路の過去問レベルの演習問題が自力で解ける
④ 波動・・・講義問題が自力で解けて、市販の問題集を自力で解ける
③ 熱力・・・卒生は講義問題の復習が済み、同難易度の演習問題が自力で解ける

 まず大前提として、この分野だけは苦手、というものがはっきりしている場合、集中的に対策を立てることを怠らないでください。得てして、東大や東北大、東工大レベルを志望する学生が、標準レベルの講習を「レベルが低いから」という理由で嫌う傾向にあります。東大を志望していたって、誰にでも一つ二つの苦手分野はあり得ます。そして、夏までに向き合えば克服は十分間に合います。しかし、自分の苦手と真摯に向き合って対策することをきらえば、合格する確率はガクっとさがる(というかほとんどノーチャンス)でしょう。戦略の本筋をはずしているからです。
 そうではなく、「物理には大きな苦手がないよ」と言える学生で、このコースに進もうとする場合は、前期分野をまんべんなく扱う講習を選んで、予習、復習を通して「穴、見落とし」を探す作業が極めて高い効果を持ちます。『自分は本番で絶対に問題が解けるのか、本当に大丈夫か』、と自問しながら学ぶことで本番の点数を1点1点かき集めるような作業です。「志望校」を「合格確実な学校」レベルにしていく上で、この作業は全科目において必要不可欠であるどころか、横綱相撲を取ることを前提とすると、むしろ上記の作業をどれだけ積めたか、だけが合格率を上昇させます。そして、丁寧に解き進める作業を通して、計算力(つまり物理の底力)を飛躍させます。

 自分が上記の2コースのいずれに、もしくはこの2コースの間のどのあたりに該当するかをはかり終えれば夏期講習の選択作業は8割完了です。あとは、日程を照らし合わせて無理のない予定を組んで、終了です。

Conclusion

 いかがでしたでしょうか。まず、高校物理を ①力学 ② 電磁気学 ③ 熱力学 ④ 波動 ⑤ 原子物理 の5つの分野に分け、夏期に学ぶべき優先順位の一般論として、 ②電気 > ④波動 = ①力学 > ③熱力学 としました。次に、物理における受験の戦略を大きく2コースに分けることで、夏の終わりまでに目指すべき到達点をはっきりさせました。これさえしっかりしていればおのずと講習の選び方は決まってくる、ということも納得していただけたかと思います。他の、細かな話や、講習ひとつひとつの内容は、各自情報を集めてください。当然相談に来てくれても大丈夫です。それでは、また校舎でお会いしましょう。

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