見出し画像

幽閉サテライトという造花


2023年末~2024年の1月

 突如として幽閉サテライトの公式から悲報が発信された。作詞のかませ虎さんやVocalのsenyaさんに続き、Marciaさんまで居なくなるという内容だ。これでは主要メンバーのほとんどが去ってしまう形になる。


もはや原型が無くなるのでは?!

 
そう思えるレベルの大事件だ。もう何がなんだかわからない。ファンの間にも動揺が走った。少なくとも、これまでの幽閉の形を保つことはできないだろう。

 今まで好きだった幽閉サテライトが変わってしまう。“好き”が過去のものになる前に、楽曲を聴き返し、自分が幽閉サテライトをどう思っているか整理したくなった。
なんでもいい。これまでの“好き”を忘れないうちに、取り留めのない感情をツラツラ書き連ねていこうと思う。

 これは、幽閉サテライトを好いていた一人の東方Vocalファンの見た景色。その記録である。




【異質な同人サークル】

2010年~2011年
 ハイクオリティーなアニメPVを引っ提げて登場した幽閉サテライト。美麗なPV、確かな音作り、美しいVocal――どう見てもプロの所業だった。当時の東方界隈の衝撃は相当なものだったし、初期のアルバムはどの収録曲も最強だった。何度も何度も擦り切れるほど聴いたのを覚えている。夢想夏郷や東方活動写真館キネマかんの前例もあったし、満福神社のアニメもすんなり受け入れて観ていた。

 しかし、ベースが企業だったのもあってか、時を経るに連れて即売会でのセット頒布や少女フラクタルのアイドル的な展開など、一般的な東方サークルとは違う動きが目立ってきた。端から見ると“好きが高じて”というよりは“ビジネス”としての活動のように感じる。
 その活動模様は、純粋に東方の同人音楽が好きな人からするとノイズにしかならない。筆者には、幽閉が企業のように利益を追求してチグハグな動きになっているように映った。

(ここまで読んでくれた人、本当にごめんなさい。でも好きだからこそ忖度無しの本音で書くから付き合ってくれ)

 トップダウン式の同人活動だったのだろうか。直接的な原因は何であれ2023年末のメンバーの困惑ぶりから察するに、代表の活動方針から歪みが生まれ、それがメンバー間との修復不可能な軋轢に至ったように見える。

 もはや真相は不明だが『代表の 経営方針音楽性にそぐわない形になったためMarciaさんは離脱する形になった』という見解なのは確かだ。率直な感想として、残念な結果になって悲しいし、これでは説明不足にも思える。


【幽閉サテライトの華】

 ほとんど原型を留めない変化に急速に熱が冷めていくのを感じた。自分が好きだった幽閉サテライトの音楽って、どんな感じだったのだろう。
 メンバーが居なくなっても、好きだった東方アレンジが無くなるわけじゃない――喪失感を埋めるように古い曲を聴いていると、初めて聴いたときの感情やライブシーンが甦ってきた。

 ヘッドフォンから流れる『鳥風月』や『アノ咲クヤ』、『月に叢雲、に風』。あれこれ思い出しながら聴くうちに、かませ虎さんの歌詞の癖を思い出した。

“花”じゃなくて“華”
幽閉の初期曲には“華”に纏わる曲が多い。

『千“華”繚乱』もそうだ。
このアルバムは、もともと幽閉樂祭の限定頒布だった。会場はZepp Tokyo。巨大なライブステージでsenyaさんが両手を広げつつ、『三千世界』を歌っていたのが印象的だった。

千華繚乱 たとえ短きえにしでも
寄り添えば僕らは
大地で繋がった仲間だろう

『千華繚乱』サビ

 詞中の“華”に含みがあると気づいたのは、この限定頒布が切っ掛けだった。そう、人を華に例えていたんだ。『千華繚乱』は1000人の仲間が集まるZepp Tokyoだからこそ、詩の再現性を発揮するCDだった

千華繚乱 たとえ短かき縁ライブの数時間の仲でも
寄り添えば僕らは
大地ライブ会場で繋がった仲間だろう

そうだ、確かにあの時
自分は楽しかったんだ

色は匂へど、いつか散りぬるを変わらぬものは無い
――でも、これを聴き返した瞬間、灰色の景色にどっと色が戻った。俺はこの曲が生み出す景色が好きだったんだ。


【闇曲『ニヒル神楽』】

 ここで、代表曲を差し置いて特異点ともいえる『ニヒル神楽』について触れたい。幽閉だから、幽閉だからこその歪みが産んだ闇曲なんだ、全人類聴け!
 しっとり系の切ない曲調が多い幽閉だが、これはエッジの効いたギターがハチャメチャに格好良い曲だ。サビもパンチがあってライブ映えする。しかし、それは純粋に聴けばの話で……

都は眩しく 影を殺し続ける
この声も途切れるか?  静かに暗闇で……

『ニヒル神楽』歌い出し

 日本全国の幽閉ファン1億人に訊けば、2億人が『知っている』と答える歌い出しだ。ただ、作詞したかませ虎さんの心情を考えると重い。

都は眩しく 影を殺し続けるライブのスポットライトは僕を殺す

 『幽閉サテライト』という企業プロジェクトに参加したかませ虎さん、元々東方Projectはそこまで好きじゃなかったのかもしれない。ライブアクトは柄じゃなかったのかもしれない。それでも、かませさんは演じ騙したんだ。ファンの期待を受けるライブステージで、大胆に

さあ 今宵も騒ごう ニヒル神楽
舞い上がれ 何もかも忘れようぜ

『ニヒル神楽』サビ

――奏では今でもファンの心に届くのかな?
『これで良いのか?』
かませさん自身、葛藤があったのかもしれない。これはかませさんの心情を綴った曲なんだ。聴いた瞬間、えげつない歌詞に全身が震えた。

『思うところがあるかもですが、
この歌詞を書けるのが
かませさんの強さなんだと思います』

 思わず、幽閉スペース前でかませ虎さんに直接感想を言ってしまった。一瞬停止したかませさん。『ベル君に言われるとなぁ』と照れ臭そうにしていたのが印象的だった。今では確信している、この解釈で当たりだったと。2014年当時、感想を告げたのは少女フラクタルのファーストライブの日だった。急激な環境の変化に軸が揺らいでいたのかもしれない。

夜桜に君を隠して 新たな道へ
無情な選択 美しさも無く……

『夜桜に君を隠して』歌い出し


幻想万華鏡のEDにも起用されている
『夜桜に君を隠して』
ニヒル神楽と同じアルバムに収録されている。サビの“ミヤコワスレ”の花言葉は『しばしの別れ』――ここでも“華”。ニヒル神楽の『都(ミヤコ)は眩しく影を殺し続ける』に掛かっている。『ニヒル神楽』単体でも強力な存在だが、アルバムを通して順番に曲を聴いていくと、さらに火力が上がっていく


【幽閉サテライトという造花】

 満福神社の二次創作アニメ、PVなどから幽閉サテライトを知った人も多いだろう。東方Projectを愛する身としては、同好の士が増えて嬉しいし、同人イベントの楽しさを知ってもらえる入り口として最高の光だった。だが、今は満福神社も最終回を迎え、結成当時の主要メンバーはIceonさんしか残っていない。

 今後ライブ活動をする場合、新Vocalで演るわけだが、例え『華鳥風月』を歌おうとも、『色は匂へど』を歌おうとも、もうsenyaさんの歌うPVの世界はライブの世界に顕現することはないし、Marciaさんの『幻想症候群シンドローム』も生では聴けないのだ。
senyaさん時代の幽閉が好きな人には、今の幽閉は造花(偽物)に見えることだろう。

白状すると、筆者は初期の過激派だったのでMarciaさんの『色は匂へど~』は“違う”と思っていた

 きっと、Marciaさん時代の幽閉から入った人も、未来の新メンバーの『幻想症候群シンドローム』を聴くと何か違う(造花)に映ってしまうのだろう。当たり前だ、実際にVocalが違うのだから……それがとにかく虚しいし悲しい。

そして何より、好きだった曲を
『造花』と断じてしまう自分の感性に腹が立つ!!

そんな偏屈な自分でも、ライブで何度もMarciaさんの歌を聴いているうちに、『これが今の幽閉の華だ』と思えたんだ。senyaさんが歌う曲が好きだったし、かませ節の効いたフレーズが好きだった。今はMarciaさんの歌声が好きな人もたくさんいる。『幻想症候群シンドローム』を別の人が歌って、造花だなんて思う人が出る日は来てほしくない。

 新規で幽閉の東方Vocalアレンジを好きになった人は憧れに立ち会う機会を永遠に失った。突き付けられた現実はとてつもなく残酷で哀しいものになった。

 今後も幽閉はそうやって折り合いがつかないメンバーを切っていくのか。ガワだけが美しい新たな造花カバー曲を造り出してしまうのか。また新規が好きになった未来の新Vocalが華となっても、既存のファン層から生花今の幽閉として受け入れられても、それを再び切ってしまうのか。不信感を持ってしまって辛い。

ただ一つ言わせてほしい

私たちにとって
好きになった曲は造花なんかじゃない
生花の薫り匂わす色あるものだった

ライブ会場では
私たち一人一人が“華”だったんだ。

楽しかったし、好きだったんだ。
この気持ちだけは偽物造花だなんて言わせない


造花であろうとした者ひとりの作詞家

頒布 2016年
原曲 二色蓮蝶 ~ Ancients

 だからこそ、そんな私たちに真摯に向き合ってくれた結果誕生した曲が『ニヒル神楽』なんだと思う。どうでもいい客だと思っていたなら、こんな歌詞は書けない。

 思い返せば、2017年の幽閉ワンマンでニヒル神楽を演った時のかませさんは“やりきった”という表情だった。senyaさん作詞のOpposite Worldなど、あまりライブでやらない曲のオンパレードで、熱狂と共にいつもと違う雰囲気を感じたのは確かだ。

 その後しらばらくしてかませ虎さん、そしてsenyaさんが卒業し、Marciaさんのライブ体制がフェードインする形になった。その形も軌道に乗り、力強いライブパフォーマンスを披露するに至る。


【貴方にとっての幽閉サテライト】

 ――筆者が見て、感じた“幽閉の景色”はそんな体験から形成されている。色彩豊かで、わずかな影も見え隠れする波乱の景色だ。ここまで、たくさんの『華/花曲、人 、色』について語らせていただいたが、これはあくまで筆者の感じた『華/花』である。

読んでくれているそこの貴方。貴方にとっての『華/花』もまた違う色どりなんだろう。

 
同じ曲を聴いても人それぞれ感じ方が違うように、同じライブの体験でも、人の数だけストーリーがあるんだ。ニヒル神楽はこうだ!と偉そうに語ってしまったが、純粋にカッコいい曲でも良いじゃないか。

ひとりひとりの信じる
自分だけの幽閉サテライトの『華』
これを大切にして欲しい

 しばらくは、ショックで幽閉の曲を聴きたくなくなる人も居るかもしれない。でも、落ち着いたらまた聴き返してほしい。自分だけの華を思い出してほしい。曲は無くならないから。

 今後このようなことが起きないよう、切に願う。一人の東方Vocalリスナーの戯れ言だけど、ここまで読んでくれてありがとう。

寄り添えば僕らは 大地ライブ会場 で繋がった仲間だろう


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?