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器やしつらえのこと

食卓まわりのことが好きになったのは、今から20数年前の義母との食事会がきっかけだった。

夫の実家にごあいさつに伺った日、料理は苦手なのと言いながら義母は手料理をふるまってくれた。よく焼けたステーキと、付け合わせの緑色のインゲンと白いじゃがいもが淡いベージュのお皿に美しく配置されていた。フチがちょっと上がっている薄くて平らな味わい深いそのお皿は、陶芸や油絵を趣味としている義母が作ったものだった。土でできた温かみのある器のおかげか、緊張が少しずつほぐれていったことを覚えている。ごくごく一般家庭な夫の実家で、箸置きを使うことやテーブルクロスを敷いての食事に驚いたけれど、今思えば料理が苦手な義母の心からのおもてなしだったのだと思う。

それからというもの、雑誌などで紹介されてる陶芸家が気になり始めた。当時大人気モデルの雅姫さんが好きな器作家として紹介されていた花岡隆さんの粉引きにとても惹かれるようになり、今はなき自由が丘にあった器の店によく通った。取り扱い作家が厳選されていたことから、目移りせずに自分の好みを知れたし、優しい店主にいろいろ教えてもらえて器デビューにぴったりの店だった。

花岡さんの個展のレセプションに招待していただけたときのしつらえが忘れられない。たくさんのお野菜が盛られた鉢のとなりに、黒い小ぶりの片口に盛られていた白色のお料理が粗塩だったこと。作家ものの器に調味料をいれるという感覚に衝撃を受け、家でも真似してみたい!とその器を持ち帰ることを決めた。料理研究家や食通の方々に混ざってのパーティーは器と料理としつらえをトータルで学べる贅沢で素晴らしい時間だったし、食べることは好きだけど料理は好きじゃないわたしにとって、食べる楽しみは器としつらえによって格段にあがるということを、個展や義母の食卓から学んだ。

数日前、このお店で買ったバターケースに付属している木製のバターナイフが折れた。長い間楽しませてくれてありがとうという気持ちとともに、好みのバターナイフ探しをしたいという気持ちが、むくむくと湧いてきている。(まさみ)

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