これは…どっちだ?


少し前の話。


18時頃。僕はいつもの道を何気なく歩いていた。


いつもの道は四季によってはイチョウの葉っぱが落ちていたりするような道。


たぶん誰しもが1つはあるであろういつもの道。



そんないつもの道が突如僕を苦しめた。


18時頃ということで帰路に着くサラリーマンやスーパーの袋を持った主婦、謎にうるさい小学生だか中学生の集団が歩くいつもの道。そして僕。


ボトッ!


突然、僕の前方から聞き馴染みのない音が聴こえた。


何だろうと頭を軽くキョロキョロさせてみると、背負ったリュックサックを手前に引き寄せるおばさんがいた。その足元を見てみるとペットボトルらしきものが見えた。


おそらく、そのおばさんはリュックサックを引き寄せたことでリュックサックのサイドのポケットに入れていたペットボトルを落としたのだろうと思った。


僕はてっきり、そのおばさんが落としたから拾うものだろうと思っていたが、おばさんは拾おうとすることもせずに歩き始めた。


あっ!そもそもペットボトルを落としたことに気がついていないのか。


そう思いそのペットボトルを拾ってあげようと思ったとき、ふと迷いが生じた。


もしかして、これは新手のポイ捨てなのでは?


ボトッ!という音は割と大きめの音だったし、それにリュックサックを背負い直したとき重量の変化に気がつくのではないかと。


それに人は見た目と中身が結構ちがうものだ。


仮に…


ただペットボトルを落としただけで気がついていない。これをA。


新手のポイ捨て。これをB。


どっちなんだろう?


Aだとするとペットボトルを拾って渡すことで、おそらくデロンギのオイルヒーターによって暖められた部屋くらい心地の良いそんな気分や空気が流れるかもしれない。


Bだとするとペットボトルを渡したときに「こいつ何してくれてんだよ…」みたいな目で見られるかもしれないし、そもそもこんな人だったら近づきたくはない。小学校のプールの授業で『カエルの歌』を歌い切るまで水を浴びせられる。楽しいプールの授業という親切のつもりが『エンドレスカエルの歌水浴び』としてトラウマになるのは嫌だ。


どっちだ…。


こんな迷いが脳内を駆け回る。


まるでゲームセンターにある装置内で発生する風によって紙が舞っているクジのあれのよう。


僕は装置内に腕を突っ込み1枚のクジを掴んだ。


これは新手のポイ捨てだ。



僕はBのクジを掴んでいた。


僕はおばさんを『そういう人』とし、またいつもの道を歩き始めた。


歩き始めてからまだ1分も経っていないとき。


後ろから走ってきた女性が僕を抜いて、おばさんに「落としましたよ」とペットボトルを渡した。


おばさんはとても女性に感謝していた。きっとおばさんと女性の間にはデロンギのオイルヒーターの暖かさと暖かい空気が流れていたに違いない。



僕は何に迷っていたのだろう。



ペットボトルをおばさんに渡した女性が僕の前を歩いている。


僕はこの女性を絶対に抜かすことはできないと直感し、親切の大切さを改めて感じながらトボトボと申し訳ない気持ちでいつもの道を歩き家に着いたのだった。



その日。



僕の部屋はいつも以上に冷えていた気がした。



















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