AULD LANG SYNE(蛍の光)

先日、島浦素子さんのお別れ会に行ってきた。島浦さんは、昔お世話になった楽インターナショナルという音楽事務所の代表で、永六輔さんや小室等さん、加藤登紀子さんなど、日本のエンターテインメント業界のすごい方々と長年お仕事を一緒にされていた方だ。長く闘病されていたが昨年11月に亡くなったと、島浦さんと一緒にお仕事をされていた、楽工房の西山哲也さんからご連絡をいただき、献花をさせていただいた。

島浦さんとの出会いは20年以上前になる。叔父の友人の映像制作会社の方から、「音楽をやっているのなら、知り合いにとてもいい人がいるから紹介するよ。きっと力になってくれるよ。」とご紹介いただき、当時、千駄ヶ谷にあった事務所にお邪魔させていただいた。公園のすぐそばにある建物の2階で初めてお会いした島浦さんは、おかっぱのグレーヘアで、知的な笑顔が魅力的なおばさまだった。持っていったCDを渡すと、すぐに聴いていただいた。当時のバンドで作ったお料理の曲たちを、おもしろいわね、と笑って聴いてくださった。私が、作詞と訳詞をやっていることを伝えると、「私ね、ひとつ温めている企画があるの。蛍の光って、日本では年末の歌だけれど、元の歌詞は違うのよ。AULD LANG SYNEっていう古い英語の歌詞なんだけど、これを日本語にして発表したいの。あなた、歌詞書いてみる?」

そして、私と島浦さんの、AULD LANG SYNEの訳詞プロジェクトが始まった。私が書いては島浦さんにチェックしていただき、また書き直しては持っていき、3回か4回くらいで、これで行こう、というものが完成した時、島浦さんがにこにこしながら、こうおっしゃった。「誰に歌ってもらいたい?誰でもいいよ。」でもその時の私は、誰も思いつかなくて、「どなたでもいいです。歌っていただけるなら。」と答えると、島浦さんはすこしがっかりしたようだった。

私と島浦さんが訳詞をしたAULD LANG SYNEは、オペラ歌手の秋川雅史さんと、中島啓江さんに、それぞれ1回ずつ、コンサートで歌っていただいた。秋川雅史さんの歌声は、その場で聴かせていただいたが、浪々と会場に響き渡り、全身に鳥肌がたったのを覚えている。けれど、私と島浦さんの歌詞は、ここで終わりになった。私が当時やっていた前出のお料理の曲のバンドメンバーと、意見の相違をすりあわせることができなくてバンド活動ができなくなり、音楽業界に足を踏み入れることに躊躇してしまったからだ。

それから20年たって、私も少しは大人になった。いや、年齢的には十二分に大人でおばさんになった。そして、あの時のAULD LANG SYNEを歌ってほしいアーティストができたので、楽インターナショナルと楽工房のサイトを探して連絡をしたところ、西山さんからお返事をいただき、島浦さんが闘病中であることを知った。昨年秋のことだ。西山さんは昔と変わりなくダンディーで、不義理をした私を怒ることもなく、この20年のことや最近のことなどをお話ししてくださった。その時、AULD LANG SYNEがまた新しいプロジェクトとして始動中だと知った。「今、加藤登紀子さんが歌詞を書いていて、できあがったらYaeさんが歌う予定になってる。でも上野さんの歌詞はまた違う歌詞だから、お互い動いてみて、いい形で、本当のAULD LANG SYNEを広めることができるといいね。」そうおっしゃった。うれしかった。私のAULD LANG SYNE、お蔵入りのままにしなくていいんだ。

加藤登紀子さんの訳詞による、YaeさんのAULD LANG SYNEは、島浦さんのお別れ会で披露された。もう会うことのできなくなった昔の友達を想う、優しい歌だ。Yaeさんの透明な声が、爽やかな寂しさを私に届けてくれた。島浦さんはもういない。でも、ここにいる皆さんの心の中に、きっといつまでも存在し続けるんだろう、そう思った。

Should auld aquaintance be forgot
And never brought to mind?
Should auld aquaintance be forgot
And days o’lang syne?

For auld lang syne, my dears,
For auld lang syne;
We’ll tak’a cup o’ kindness yet
For the sake of auld lang syne.....

Robert Burnsの原詞は、昔の英語で書かれているけれど、とても易しい。口ずさみやすく、覚えやすく、そして力強い。私はこの歌詞を、絶望的に分かれた友達との再会の歌として、訳詞をさせていただいた。

島浦さん、私は今、島浦さんと一緒に作った歌詞を、歌ってもらいたいアーティストができました。でも、一般の会社員の私には、なんのつてもありません。ファンサイトから問合せをしてみたけれど、お返事はありません。たぶん、いろんな問合せに紛れてしまっているんだろうな、と思います。だから、ファンレターを書くことにしました。お手紙を出しても、たくさんのファンレターに、またまた埋もれてしまうかもしれません。でも、いつか手に取って、封を開けて、読んでもらいたいです。歌ってもらいたいです。

これが私の初めてのnoteです。いままで作った歌詞や訳詞にまつわるあれこれを、時々、書いていこうと思っています。

ここまでお読みくださって、どうもありがとうございました。







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