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ようこそ、美しき狂気の道へ。 ジロ・デ・イタリア2022 勝手にプレビュー

ジロ・デ・イタリア(ジロ)の主催者に最大限の賛辞を与えよう。狂っている。正気か。馬鹿なのか。でも、よくやった。大いに楽しみだ。

今年のジロは総獲得標高が5万メートルを超える(50,610メートル)という過酷なコース設定となった。総距離3,427キロで、垂直方向には50キロを登る。単純計算で毎日の獲得標高は2,410メートル。日々、男体山(2,486メートル)や妙高山(2,454メートル)、燧ヶ岳(ひうちがたけ、2,356メートル)に自転車で登るというわけだ。本当に狂っているとしか言いようがない。

落とし穴があることも忘れてはならない。足を削られるステージが続くが、決定的な差が付くステージはごくわずか。もしかしたら、大会中の最も標高の高い峠を指す「チマ・コッピ」が設定された第20ステージまでは混沌としたままで進行するかもしれない。それに、ジロは雪との戦いでもある。ポルドイ峠の雪はもう溶けているようだが、悪天候でコース変更が起きてしまえば、クライマー脚質ではない覇者にもチャンスは訪れよう。

豪華なメンバー勢揃い

個人総合時間賞(マリア・ローザ、ピンク色の特別ジャージー)の優勝候補になる選手は、サイモン・イェーツ(バイクエクスチェンジ・ジェイコ)、リチャル・カラパス(イネオス・グレナディアーズ)、ジョアン・アルメイダ(UAEチームエミレーツ)、ペッロ・ビルバオ(バーレーン・ヴィクトリアス)、ミカル・ランダ(同)、ウィルコ・ケルデルマン(ボーラ・ハンスグローエ)、ギョーム・マルタン(コフィディス)、ヒュー・カーシー(EFエデュケーション・イージーポスト)など。コーエン・ボーマン(ユンボ・ヴィスマ)、パヴェル・シヴァコフ(イネオス・グレナディアーズ)も候補に入るかもしれない。

復活してきたヴィンチェンツォ・ニバリ(アスタナ・カザクスタン)やトム・デュムラン(ユンボ・ヴィスマ)、ロマン・バルデ(DSM)、今シーズン限りでの引退を一応表明しているアレハンドロ・バルベルデ(モビスター)なども候補に挙げられる。昨年覇者のエガン・ベルナル(イネオス・グレナディアーズ)はケガのために不出場だが、メンバーは豪華すぎるほどだ。

イント賞(マリア・チクラミーノ、紫色のジャージー)を狙える顔ぶれも華やかで、スプリンターではカレブ・ユアン(ロット・スーダル)、マーク・カヴェンディッシュ(クイックステップ・アルファビニル)、マチュー・ファンデルプール(アルペシン・フェニックス)、ジャコモ・ニッツォーロ(イスラエル・プレミアテック)などがエントリーしている。展開によってはアルノー・デマール(グルパマ・エフデジ)やリック・ツァベル(イスラエル・プレミアテック)、エリトリア人のビニアム・ギルマイ(アンテルマルシェ・ワンティ・ゴベールマテリオ)にもチャンスが出てくる。

残念ながら日本人選手のエントリーはないが、日本人スタッフが帯同するチームがあるのは吉報だ。

総合優勝候補の不安は…

各ステージの予想はこのあとにするとして、各賞の予想を先にしておきたい。

総合優勝予想は正直に言えば、サイモン・イェーツ(バイクエクスチェンジ・ジェイコ)。登坂能力は申し分なく、個人タイムトライアルでも今年は結果を残している。しかし調子の浮き沈みの激しさが気掛かり。とある番組で解説者の栗村修さんが優勝予想しているのも気になる。

そうなれば、チーム力に勝るイネオス・グレナディアーズ、UAEチームエミレーツ、ユンボ・ヴィスマ、バーレーン・ヴィクトリアスから優勝者が出るに違いない。ただし、トム・デュムラン(ユンボ・ヴィスマ)やミカル・ランダ(バーレーン・ヴィクトリアス)は計算が立てられるわけではない。

リチャル・カラパス(イネオス・グレナディアーズ)、ジョアン・アルメイダ(UAEチームエミレーツ)、ペッロ・ビルバオ(バーレーン・ヴィクトリアス)の三つ巴になるなら、彼のほうが勝るだろう。

総合優勝
リチャル・カラパス(イネオス・グレナディアーズ)

ポイント賞
マーク・カヴェンディッシュ(クイックステップ・アルファビニル)

山岳賞
ロマン・バルデ(DSM)

ヤングライダー賞
サイモン・カー(EFエデュケーション・イージーポスト)

中間ポイント賞
ナトナエル・テスファツィオン(ドローンホッパー・アンドローニジョカトーリ)

チーム賞
バーレーン・ヴィクトリアス

ハンガリーで始まる1週目

それでは、ここから各ステージを見ていきたいが、記事を書き終えていないため、まずは1週目のみを紹介していく。(後日追記します)

第1ステージ
コース:ブダペスト-ヴィシェグラード
種別:平坦(丘陵フィニッシュ)
距離:195.4km
優勝予想:オーウェン・ドゥール(EFエデュケーション・イージーポスト)

ハンガリーの首都・ブダペストをスタートする。コース表記は平坦だが、丘陵を駆け上がってのフィニッシュで、ピュアスプリンターには容易ならざるコース設定。「ジロは本気だ」とライダーたちに分からせたいのかもしれない。こういうコースでは主導権を得るチームが決まらず、逃げている選手や早駆けした選手のスピードを読み間違う可能性がある。ロット・スーダル、EFエデュケーション・イージーポスト、アンテルマルシェ・ワンティ・ゴベールマテリオなどがしてやったりの笑みを浮かべるのは、行き過ぎた想像でもない。
レースは3日目までハンガリーを走る。このハンガリーという国ではどういう景色が楽しめるだろうか。第1ステージはブダペストを出発すると、首都西側のヴァレンツァ湖のそばを通って丘陵地帯や平原地帯に入っていく。穀倉地帯でトウモロコシ、小麦、それにヒマワリなどが生産されている。個々の規模はそれほど大きいものではなく、日本の農林水産省の資料では「ブランド農産物やオーガニック農産物を重視。特有の認証制度フンガリクムを導入し、自国産農産物の中でも差別化による付加価値をつけている」(ハンガリーの農林水産業概況、2020)と、量よりも質にシフトしている。

自転車ロードレースでの楽しみの一つは空撮や移りゆく沿道の風景。ハンガリーが多角的な生産を行っているのならば、同じような景色が続くのではなく、収穫期だったり、枯れていたり、花が咲いていたりと、パッチワークを見るように風景が変わっていきそうだ。同じ風景にあくびを催すということはないはず。

二つ目のスプリントポイントがあるエステルゴム付近からはドナウ川を左に見て進む。ドナウはドイツ語読み。ハンガリー語で「ドゥナ」、英語では「ダニューブ」。ハンガリーでは国土の北西端から南端へと貫流する。「ボルガ側に次ぐヨーロッパ第2の長流で、全長約2850km、流域面積81万5000k㎡」(ブリタニカ国際大百科)。途方も無い数字だが、フル規格で整備されている日本の新幹線の総距離は2765キロ。大きな川だ。そしてそれだけの距離があるからこそ、交通路、交易路として重要な役目を果たしている。源流はドイツで、中欧、東欧諸国を流れて黒海に至る。下流ではルーマニアとウクライナの国境をなしている。

ブダペストは右岸(西側、地図で左側)の「ブダ」と、左岸(東側)の「ペシュト」からなる「双子都市」で、1873年に合併して一つの大都市となった。ブダ側は丘陵地帯で歴史的な建築物が多く、温泉保養地としても知られている。ペシュト側は低地できれいに区画された市街地が広がる。ブダペスト一帯は9世紀頃からマジャール人の定住地となり、14世紀にハンガリー王国の首都となった。16世紀にオスマン帝国に支配されたり、第二次世界大戦では壊滅的な被害を受けたが、美しい街並みが蘇った。人口約172万人。なお、ハンガリーの国全体の人口は約970万人。

第2ステージ
コース:ブダペスト-ブダペスト
種別:個人タイムトライアル
距離:9.2km
優勝予想:サイモン・イェーツ(バイクエクスチェンジ・ジェイコ)

10キロにも満たない個人タイムトライアル。ブダペストの低地側ペシュトの市立公園にある英雄広場をスタートし、市街地を駆け抜ける。トラムが走るマルギット橋でドナウ川を渡り、丘陵地のブダ側へ。ゴール地点は王宮の丘の一角にあり、1.3キロ、平均勾配5パーセントを登る。4級カテゴリーの山岳ポイントも設定された。登坂はバイク交換するほどではないが、この坂も、途中にある多すぎるほどの曲がり角も、タイムトライアルスペシャリストには悩ましい。ブダペストの街の魅力が詰め込まれたショートトリップを心から楽しむには、総合力のほうが必要かもしれない。

第3ステージ
コース:カポシュヴァール-バラトンフュレド
種別:平坦
距離:201.1km
優勝予想:マーク・カヴェンディッシュ(クイックステップ・アルファビニル)

中央ヨーロッパ最大の湖沼、バラトン湖のほとりにゴールする。バラトン湖は広さの割には浅く、湖面の色は淡いエメラルドグリーンを呈す。コースはスプリンターにとっては輝きたい設定。最大の敵は横風とゴールの12.6キロ手前にある4級山岳への登坂だ。道は狭くはないが意外と急で厳しく、下り坂は見るからに滑りやすそう。もちろん結果的には集団スプリントになるが、風と坂でアシストが削られたチームに勝負権はない。

移動日

イタリア初日はいきなりのエトナ

第4ステージ
コース:アーヴォラ-エトナ
種別:上級山岳
距離:169.8km
優勝予想:ヴィンチェンツォ・ニバリ(アスタナ・カザクスタン)

第4ステージにしてエトナ山に駆け上がるコースが設定された。主催者の蠱惑的な脳裏を「美しい前菜を終えたところで、そろそろメーンディッシュといこうではないか――」などと想像するのは日本人だからだろう。せいぜいスープか、シチリア島だから、野菜を煮込んだカポナータあたり。おもてなしはまだまだ続く。なお、エトナ山への登り方は多くの種類があり、今回は登坂距離約25キロ、平均勾配5.6パーセントという。地元のニバリ、上り調子のペッロ・ビルバオ(バーレーン・ヴィクトリアス)、2019年のジロで山岳賞を獲得しているジュリオ・チッコーネ(トレック・セガフレード)などが優勝候補。ただ、最後の数百メートルはほぼ平坦で、総合系の小集団スプリントに持ち込まれる可能性も高い。

第5ステージ
コース:カターニア-メッシーナ
種別:平坦
距離:173.9km
優勝予想:マチュー・ファンデルプール(アルペシン・フェニックス)

「メッシーナのサメ」ことヴィンチェンツォ・ニバリ(アスタナ・カザクスタン)の出生地へとゴールする。途中に2級山岳があるが、ゴールの100キロほど手前と遠い。しかし、登坂距離は19.5キロ(平均勾配4パーセント)と長く、ゴールまでに集団に復帰できないスプリンターもかなり出てくるだろう。レース後半はティレニア海、メッシーナ海峡を見ながら走り、景色は抜群だ。終着地メッシーナの市街地で2度のカーブがあり、特に残り1キロを切ったあとの鋭角のカーブはハイリスク。なるべくなら先頭付近で通過したい。メッシーナはシチリア島の玄関口にあり、海上交通の要衝。ワイン醸造をはじめとする食品工業が盛んだ。人口は24万人。

第6ステージ
コース:パルミ-スカレーア
種別:平坦
距離:192.2km
優勝予想:マーク・カヴェンディッシュ(クイックステップ・アルファビニル)

旅人たちはハンガリーの3戦、シチリアでの2戦を終えて、いよいよイタリアの本土に上陸した。ティレニア海を左に見て、ひたすらに北上するステージだ。ゴール地点も一直線。何ら癖のない集団スプリントに持ち込まれる。すなわちクイックステップが勝つべきレース。いくつもの長距離列車が時刻表に載るスカレーアの街に、ルフェーブルが眼光を光らすブルートレインはエーススプリンター・カヴェンディッシュを一番に連れていかねばならない。

第7ステージ
コース:ディアマンテ-ポテンツァ
種別:中級山岳
距離:197.7km
優勝予想:アレハンドロ・バルベルデ(モビスター)

3級山岳を皮切りに、1級、2級、3級と各カテゴリーの山岳をこなして、ポテンツァにゴールする。最後もやや急な坂を登る。ワンデーレースを得意とするパンチャーに有利なレイアウトで、先着するのはバルベルデのようなレーサーだろう。途中の山岳で大きなバトルは起きないが、きっと脚試しの動きはある。仮定に仮定を重ねれば、脚試しのはずのヴィンチェンツォ・ニバリ(アスタナ・カザクスタン)が逃げ切ってしまうなどという展開もおもしろい。

第8ステージ
コース:ナポリ-ナポリ
種別:中級山岳
距離:153.4km
優勝予想:マチュー・ファンデルプール(アルペシン・フェニックス)

今日は5月14日、土曜日。ナポリ周辺をぐるぐると巡る周回コースが設定された。最近のジロは大都市に入るのを避けてきた印象を抱くが、空撮は都会の華を見せてくれるだろう。コースそのものはナポリ郊外の海岸線を発着し、一日を通して細かなアップダウンと曲がり角がある。アルデンヌ・クラシックのようなプロフィールの、かなりテクニカルなレイアウト。ピュアスプリンターではなく、何でも屋の舞台になろう。アムステル・ゴールドレース覇者の一人、ファンデルプールはお腹さえ空いてなければ勝ち切れる。レース途中の山岳地点ではピッツァの被りものをした男たちが応援という名のパフォーマンスをしているだろうが、気をつけろ、それはビニール製だ。

第9ステージ
コース:イゼルニア-ブロックハウス
種別:上級山岳
距離:191.8km
優勝予想:リチャル・カラパス(イネオス・グレナディアーズ)

レース後半に二つの1級山岳が設けられ、二つ目の1級山岳・ブロックハウスにゴールラインが引かれた。この山では2017年、ナイロ・キンタナが勝利している。総合優勝を目指す選手にとっては勝負どころだ。ブロックハウスの登坂距離は26キロで、残り14キロ地点・ロッカモリーチェの平坦区間を境に2段階に分けた登攀となる。後半はいよいよきつくなり、残り10キロは平均勾配約10パーセント、最大勾配約14パーセントに達する。

誰が勝負を仕掛けるか。ツール・ド・フランスで付き位置からアタックして返り討ちに遭ったカラパスは、「汚名」というほどではないが、そういう選手だという評価を濯(すす)ぐためにも、仕掛けておきたいのではないか。もしうまくいったら、これから出てくる山岳は付き位置でいいのだから。

休息日

第10ステージ
コース:ペスカーラ-イェージ
種別:中級山岳
距離:196.5km
優勝予想:ギョーム・マルタン(コフィディス)

レースはアドリア海の海岸線に出てきた。コースの前半は海沿いを北上する平坦ルートで、後半は一転してアップダウンを繰り返す。スプリンターは厳しく、パンチャーには優しく、クライマーには眠たいステージ。いかにも逃げ切ってくださいというレイアウトだ。したがって、勝ち逃げに乗りたいチームのバトルはきっと熱く、一番の激しい争いは簡単すぎるレイアウトの前半戦に起きる。そのあとはクライマー同様、プロトンも視聴者も睡魔にだけ襲われる。テレビなら気づいた頃にはスーパーGTの再放送でも始まっているだろう。しかし、「落車」(寝落ち)しなかった人は意外な結末を目にするかもしれない。第9ステージで総合優勝を諦めざるを得なかった選手が己の力を示す可能性だってあるのだ。もし彼が頭を抱える理由がコフィディスの空回りならば、マルタンは地力をアピールしたっていい。

第11ステージ
コース:サンタルカンジェロディロマーニャ-レッジョエミリア
種別:平坦
距離:203.4km
優勝予想:マーク・カヴェンディッシュ(クイックステップ・アルファビニル)

200キロ超も走りながら獲得標高は400メートル。平原を駆け抜けていくレースは、風が吹けば少しは面白くなるが、ペーター・サガンの愚痴を借りずとも、最後の10キロだけを見れば十分に翌日の会話のネタになる。すなわち、「モルコフのリードアウトは完璧だった」。

第12ステージ
コース:パルマ-ジェノヴァ
種別:中級山岳
距離:202.4km
優勝予想:ケース・ボル(DSM)

レースのカテゴリーとしては「丘陵」や「中級山岳」と表現され、確かに3級山岳が三つも入るが、現実には後半が平坦基調で、集団スプリントに持ち込まれるだろう。前日の絶好のチャンスを逃したスプリンターにとっては、さっそくの好機再来。血眼で逃げ集団を飲み込み、ジェノヴァになだれ込む。昨日はアドリア海を見るイタリア東岸をスタートし、今日は西岸のジェノヴァ。イタリアが海の国であることを再認識する2日間だ。

第13ステージ
コース:サンレモ-クーネオ
種別:平坦
距離:150.3km
優勝予想:トーマス・デヘント(ロット・スーダル)

今日の走行距離は150キロと短い。レース序盤に3級山岳を駆け上がり、そのあとは標高500メートル前後の平原をひた走る。まだアルプスは霞の中にあるが、来たるべき山は地中海(リグリア海)で釣り上げた魚を食い、平原の恵みに手を付けるメインディッシュであり、さしずめ今日は箸休め。「移動ステージ」とはまさにこういうステージを言うべきなのだ。おぞましい山を前に涼しそうに走る選手がいるとすれば、百戦錬磨の逃げ職人に違いない。

第14ステージ
コース:サンテナ-トリノ
種別:中級山岳
距離:147.1km
優勝予想:ヒュー・カーシー(EFエデュケーション・イージーポスト)

トリノ市街地東側の丘陵地帯を周回するルートが組まれた。四つある2級山岳地点の最後が残り約12キロ地点で、そこから下ってゴールするが、100メートル超の獲得標高がある登り返しがあり嫌らしいコース設定だ。逃げ切りの可能性と、細切れになった先頭集団の小集団スプリントのどちらかだろう。

第15ステージ
コース:リヴァローロカナヴァーゼ-コーニュ
種別:上級山岳
距離:177.5km
優勝予想:ジョアン・アルメイダ(UAEチームエミレーツ)

イタリア北西部のヴァッレダオスタ州で繰り広げられる上級山岳ステージが組まれた。1級山岳、1級山岳とこなして、最後は2級山岳・コーニュに至る。ただしコーニュの登坂は22.4キロと長いが「2級山岳」であることからも分かるように、勾配そのものは緩い。つづら折りでもなく、だらだらと登っていく。登れども、登れどもゴールが遠いのだから投げ出したくもなる。それに総合系で付くタイム差もほとんどないのだから、視聴者だって寝落ちしてしまいかねない。
見どころはむしろ、つづら折りの登坂、つづら折りの下降で組まれた二つの1級山岳だ。今日まで体調の悪さを隠してきたライダーがいたとしたら、全てが暴かれる。エース級が遅れるかもしれないが、アシストの脚も万全だろうか。ちょっとした駆け引きの中に、脱落者が見つかる落とし穴のようなステージ。明日の休息日に作戦変更を迫られるチームは必ず出てくる。

休息日

第16ステージ
コース:サロ-アプリーカ
種別:上級山岳
距離:202.6km
優勝予想:ペッロ・ビルバオ(バーレーン・ヴィクトリアス)

今日を含めてあと6ステージ。全てが決まるのは第20ステージに違いないが、これからは毎日のように脱落者が出ていく。獲得標高5400メートル超の今日に関しては、マリア・ローザの夢が無惨に散っていく選手は一人ではないだろう。ステージに三つの1級山岳があり、勝負がかかるのはステージ最終盤にある1級山岳・サン=クリスティーナ峠だ。ゴールラインが引かれているのは、そこから6キロを下った先のアプリーカだが、登坂で遅れた選手が6キロの下りで縮められるギャップはせいぜい10秒前後。登坂力こそがものをいうレイアウトだ。2015年のジロではアプリーカ終着のステージでミカル・ランダ(バーレーン・ヴィクトリアス)が勝利している。この時のランダはステージ2連勝を飾っているが、今年は笑顔を浮かべられるだろうか。

落とし穴は残り30キロ地点にある。強烈すぎるジャブである二つ目の1級山岳モルティローロ峠をなんとかこなし、細切れになった集団はところどころでまとまりながら次の1級山岳サン=クリスティーナ峠を目指すが、そのつなぎの区間にスプリントポイントが設定された謎の400メートルの登坂があるのだ。「お前はブエルタか」とツッコミを入れたくなるが、ここはボーナスタイムのみが得られる地点で、スプリンターが相手ではない。それでも3級カテゴリーくらいは付くべき登りで、もし逃げているのが山岳賞を目指しているライダーなら涙目になりそうだ。でも、主催者は耳を貸すつもりはない。スタート、1級、1級、1級、ゴール。イタリアがこの美しき響きを捨てるはずもない。たとえそこでふるい落とされる総合系ライダーがいたとしても、耽美の淵からの嘆きは届かない。

第17ステージ
コース:ポンテ・デ・レーニョ-ラヴァローネ
種別:上級山岳
距離:168.0km
優勝予想:サイモン・イェーツ(バイクエクスチェンジ・ジェイコ)

168キロと短く、レースの中盤から3級山岳、1級山岳、1級山岳とこなしていく。最後の1級山岳は前日と似ていてゴールの7.9キロ手前に設定されている。そこから少しの登り返しと、緩やかな下り坂を経てゴールに至る。最終山岳の登坂は距離7.9キロ、平均勾配9.9パーセントときつく、大きなつづら折れが複数ある。真の実力者なら、第20ステージを待たずして勝負を掛けるかもしれない。なお、最初の3級山岳は、前日のスプリントポイントの山とほぼ同じで、今日はカテゴリーを付けるのかとため息が出るライダーもいるかもしれない。しかし、人間社会とはそういうもの。同じ内容なのに日にちが違えば決裁が通らないという理不尽さに似ている。

第18ステージ
コース:ボルゴ・ヴァルスガーナ-トレヴィーゾ
種別:平坦
距離:152.0km
優勝予想:マグヌス・コルト(EFエデュケーション・イージーポスト)

ヴェネツィア近郊のトレヴィーゾにゴールする今大会最後のスプリントステージ。距離は152キロと短く、何事も起きなければ、典型的な集団スプリントとなる。何事も起きなければ。しかし、プロトンは残り45キロで進路を真南に変えるが、周辺の空港は滑走路が全て東西方向に引かれていることに気づけば、何事かが起きないほうが無理な想像だ。風は東西に吹く。少しでも強ければ、結末は悲惨だ。限られたチームしか先頭集団にしか残れず、総合系だって油断は禁物だ。

第19ステージ
コース:マラノ・ラグナーレ-カステルモンテ
種別:中級山岳
距離:178.0km
優勝予想:ロレンツォ・フォルテュネオ(エオロ・コメタ)

主催者は今年もスロベニアに入るコースを作った。残り約80キロ地点でイタリアからスロベニアに入り、残り43.4キロ地点にあるコロヴラットの1級山岳地点までを現代最強のグランツールレーサーを輩出した国で過ごす。残念ながら主催者のラブコールは届かず、タデイ・ポガチャルは今大会も出走していないが、きっと来年も、再来年も、主催者はスロベニア国境の外側から待つということはしないだろう。
コースは絶好の逃げ切り日和だ。スロベニア側から駆け上がる1級山岳は厳しく総合系が足を削るには十分だが、彼らが今日、優勝する必要はない。もしジロが振り向いてほしい彼やもう一人のスロベニアンが出場していれば、逃げ集団は料理されてしまうかもしれないが、エオロ・コメタやドローンホッパー・アンドローニジョカトーリのレーサーたちは安心して逃げていい。特に昨年のモンテ・ゾンコランを制したフォルテュネオにとっては勝ち切れるコースだ。

第20ステージ
コース:ベッルーノ-マルモラーダ(フェダイラ峠)
種別:上級山岳
距離:168.0km
優勝予想:リチャル・カラパス(イネオス・グレナディアーズ)

今年のジロ・デ・イタリアの天井、ポルドイ峠にきっと手を伸ばすステージだ。今年も最高標高地点に設けられるチマ・コッピ特別賞が「一応」、ポルドイ峠(標高2239メートル)に設定され、山岳賞のポイントが高く配分されている。もちろん通れればの話だが。

レースは168キロ。最初に通過する1級山岳で脱落する者がいたとしても、すでに19ステージまでに大きく遅れているので問題はない。勝負が始まるのは残り44.6キロ地点にあるポルドイ峠の登坂と、ゴール地点のマルモラーダの登坂だ。ポルドイ峠は2段階の登りで後半は11.8キロの距離を平均勾配6.8パーセントで登る。今年は西側から取り付くが、平均勾配が物語るように愕然とするような厳しさではない。ただつづら折れは一定ではなく、長いものもあれば、短く切り返すものもある。疲れ切った脚には堪えるに違いない。
一団がポルドイ峠を過ぎようとする頃、木の全く生えていない山肌が映し出されるか、おぞましい雪壁が映し出されているか、それとも残雪のためにポルドイ峠がオミットされているかは分からない。おそらく今年は通れそうだが、下り坂は慎重にこなしたい。下り切ったらすぐにポルドイ峠の南側にあるゴール地点の峠、マルモラーダのダムサイトへと登り返す。登坂距離14キロ、平均勾配7.6パーセントと実はこちらのほうが厳しく、ライダーの心を折るような直登区間も長い。

第21ステージ
コース:ヴェローナ-ヴェローナ
種別:個人タイムトライアル
距離:17.4km
優勝予想:トム・デュムラン(ユンボ・ヴィスマ)

今年もジロは個人タイムトライアルでフィナーレを迎える。17.6キロの距離は短い部類に入るが、山登りを極める今大会を象徴するように途中に3級山岳の登坂がある。上り坂は4.6キロで平均勾配が5.1パーセント。決して厳しい登坂とは言えないものの、タイムトライアルバイクでは3週間の激務をこなした脚にはきついかもしれない。ノーマルバイクにアタッチメントというスタイルも選択肢に入る。優勝候補は純粋なタイムトライアルスペシャリストというよりは、オールラウンダーの名前を挙げねばならない。復活のデュムランかサイモン・イェーツ(バイクエクスチェンジ・ジェイコ)。どちらかが、「終わりのないトロフィー」が待つヴェローナをきっと最速で駆け抜ける。

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