かつての「いつか」が近づいてきた
烏の濡羽色。それは幼い頃からずっと私の髪について言われてきた言葉。
そう言われるのを満更でもなく思っていて、10代20代も、ほぼ黒髪ロングストレートで過ごしてきた。
20代半ばでお寺の跡継ぎの夫に嫁ぎ、程なくして子どもたちも生まれ、髪はいつしか短めになり、黒髪
でおしゃれ感を出せなくなってきた。「お寺のお嫁さん」的にはおとなしめの黒髪が好まれるのはよくよくわかってはいるが、「いつか、白髪になったら赤とかオレンジとか派手派手カラーにする!」と本気とも冗談ともつかない感じで夫とこどもたちにだけ言ってきた。
「お寺のお嫁さん」。お客様の対応や法事のときなどには黒っぽい格好をしてお手伝いをする。
でも、庭仕事などの時は派手色のTシャツやら上着を着て掃除や剪定、草刈り草むしりなどをするうちに、徐々に派手カラーの私を地域の人が見慣れてきた。
20年かけて「お寺と家族と地域のためにがんばってる明るい色の好きなオバチャン」の立ち位置をかためることに成功したはず。
さあ、準備は整った。
現在40代後半突入。白髪が分け目にチラチラ見え隠れするようになってきた。
ここぞとばかりにヘナを塗り、長年の希望を実現する第一歩を踏み出した。頭にラップを巻いてタオルも巻いて、じっと待つ。
キラキラとちら見えする白髪がオレンジ色に染まる様を思い描きながら更に待つ。
タイマーが鳴って洗い流し、希望に満ちてドライヤーをかけ、鏡を見る。
ほぼほぼ黒髪のオバチャンがうつっている。
がっかりなんてしないのよ。チラッと見えるのが白髪じやなくてオレンジ色なんて、楽しいじゃない。
ここから更に20年かけて、ほんの少しずつふえていく白髪に同じように色を付けていくの。いつの間にかオレンジ色の髪になってる派手なオバアチャンを見慣れてもらうんだから!
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