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闘病ノート③

「闘病」とは、文字通り、痛みに耐えることである。いつ止むとも分からない間断無く襲ってくる痛みに対して、ひたすら耐える、我慢するということだ。このことは「病と闘う」という抽象的な表現からはなかなか想像し難い。実際に自分が当事者となり、痛みに耐えているときにこそ、初めて他者の痛みをも自分の問題として捉えることが可能になる。医療制度の充実がどれほど重要であり、国民皆保険制度が如何に貴重であり、医療崩壊など絶対に有ってはならないということが分かる。あの新自由主義者のハイエクでさえ、医療だけは公的部門から切り離すべきではないと主張した。人を襲ってくる痛みだけは、自分の力ではどうしようもないのである。人間同士で支え合うしかない。喉元過ぎて熱さを忘れぬよう、ここに銘記して置こうと思う。

さて、話は5月17日、月曜日の朝に戻る。朝6時半に訓練校の最初の職員さんが出勤した頃を見計らって電話をかけ、急病により休むことを連絡。すでにこの時点で痛みとの格闘は約10時間に及んでいる。例の如くピリン系鎮痛剤を何度も服用したが効かない。いや効いたのかも知れないが、それはごく短い時間であって、すぐに痛みが盛り返してくる。
その後、雨の中コンビニに行き、少し多めに現金を下ろした後、体温計を買いに薬局まで行ったが、まだ開店前だったので一旦家に引き返す。痛みは依然として続いており、腹部を庇いながら慎重に歩行する。
9時になったので、再び外出し、薬局で買った体温計で体温を測ると平熱より低めの36.0度。小雨で多少寒かったためであろうか。9時半に近くの内科診療所の前まで来てから電話し、来て良いとの許可をもらったので、すぐに赴く。9時半開院にも関わらず、すでに待っている患者が数名いた。しかし、診療所の人が私の様子を見て緊急性が高いと判断してくれたのか、さほど待たずに診察してもらえた。腹部エコー検査により胆嚢に石かポリープがあると診断され、処置が可能な総合病院に紹介状を書いてもらう。そのままタクシーで総合病院へ。採血、腹部エコー、CT検査をしてもらった結果、胆嚢内に直径3cm大の石がひとつ、それよりも小型のものが4〜5個見つかり、その中のひとつが胆管に詰まって炎症を引き起こしているという。ついでに軽度の脂肪肝も見つかったが、そちらはあまり影響がないという。しかし、最終的には胆嚢の摘出手術になる可能性が高いとのこと。即座に入院を勧められ、さらに心電図と胸部レントゲンを撮ってから病室へ。新型冠状病毒の危険があるため、最初は個室に通された。PCR検査の結果が陰性だったので3人部屋へ移される。点滴で栄養剤を流し込み、翌日の胃カメラ検査とMRIのため、絶飲絶食が開始する。元より痛みが起きる直前の食事から何も食べていないし、痛みのせいで何も食べる気が起こらない。胃に食物が入ると胆嚢の働きが活発になるため、痛みも酷くなるらしい。そんな話を聞いたら、余計に何も口にしたくなくなる。たとえ、どんなに空腹であろうとも。

入院計画書には2週間と書かれていた。訓練校に電話し、T先生にその旨を伝える。親しい人に連絡して身の回り品の調達を依頼。下着と靴下を10着ずつ等持ってきてもらう。

不思議なもので医師の診察を受けた後は痛みが少し引いた。安心感を得たからか、これがプラセボ効果というものだろうか。(つづく)

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