少年と殺人-真面目な子だからこそ-

※この投稿は2005年6月24日にWEBサイト「ウチナーコンボイ通信本部」内のコラムコーナー「余計な一言」に掲載した記事の再掲です。

本日のニュース番組を賑わせていたのは…、

●イラク・サマーワでの自衛隊車両を狙った爆破事件
●沖縄、戦後60年目の「慰霊の日」
●ジーコJAPAN大健闘!ブラジルと引き分け

そして、

●社員寮管理人夫妻殺害・ガス爆発事件、15歳長男逮捕
●兄弟ゲンカの末、15歳の弟が17歳の兄を刺殺

…である。
中でも、やはり後述の2つのニュースに注目したい。長文になりそうだ。

先日発生した、高校での爆発事件もそうだったが、犯人(容疑者)が揃って「真面目な子」なのである。
ニュース番組では、同級生などのインタビューが流されるが、どの犯人も、普段は「真面目で学級活動にも積極的」「成績は良かった」という印象だったり、または「クラスでは目立たない子」「あまり喋らない」という印象が多いようだ。では、なぜそのような子供達が凶行に走るのか。

私が見つけた答えは簡単だ。それは…
「真面目な子」だから「殺す」のである。

一般に、不良・ヤンキーと呼ばれる子達は、実は普段からストレスを発散している。
別に彼らを礼賛しているのではない。ただ、彼らは「傷は負わせるが、致命傷は与えてない」喧嘩の仕方をする。
例えば、暴走族同士の喧嘩。
やられた確かに相手はボコボコになる。目のまわりは腫れ上がる。口から血は出る。
しかし、虫の息になるところで、止める。
それは、彼らの目的が「自分の強さを相手に思い知らせる」ことであるからだ。
相手が死んでしまっては、「オレに逆らうとこうなる」ことを認識させることが出来ないし、おそらく自分も同じ目にあったことがあるはずだから、どのくらいのダメージを食らわせればいいのか、つまり限度を理解している。

しかし、「真面目な子」は、普段、ストレスを発散させない。
不良やヤンキーの行動を横目に見ながら「野蛮」だと思っているから暴れてストレスを発散させるような「野蛮な行為」をしてはならないと自分で規制をかけているのだ。これは、理性で抑えているのとはまた
意味合いが違う。「暴れない方が自分のためになる」という作戦なのだ。
「真面目な子」は、実は周囲の人間より、精神的成長が早い。
また、最近の子は、テレビゲームなどで、計算力が鍛えられている。
(計算というべきか、作戦力というべきか。)
だから、何か嫌なことがあっても黙っているし、あまり喋らないで、クラスの輪の中にも入らないし、
または、文句も言わずに元気よく学級活動に参加するのである。
だが、彼らも人間だから、ストレスは溜まる。しかし、普段発散していないので、溜まる一方だ。だから、キレる。ちなみに、キレるという意味合いが最近は変わっていている。

本来は、「神経が切れる」という意味合いだったが、最近の少年犯罪の場合、「割り切れる」のである。
「真面目な子」は揉め事が嫌いだ。揉める事でストレスが溜まる。
揉める事は避けたい、しかし、彼の存在は自分にとってマイナスだ。
少年はまずそういう価値観を自分の中で固着させる。
一回揉めてしまえば、意外と簡単に解決するようなことでもだ。
揉めた後に、お互いの間に残る「わだかまり」などの後味の悪さも、
「真面目な子」は嫌いなのだ。
一度そういう価値観を固着させると、それが逆に割り切った場合に「真面目な子」はとめどもない。
考え抜いたあげくに、「存在を消せばすべてうまくいく」と思うらしいのだ。

だから、管理人夫婦殺害事件でも、殺意の対象は父親だったが、父親を殺したことによって発生する「母親とのわだかまり」とか、「自分が殺人を犯したことによって母親に与える心配」を発生させないように両方とも殺してしまったのだろう。

つまり、ストレスを発散させつつ、相手に痛みを重い知らせる目的の「不良の暴力」に対しストレスを溜め込んだあげく、相手の存在を消す目的の「真面目な子の殺人」というわけだ。

さて、ここまで読んで、何か気がつかないだろうか。
「真面目な子」の姿からは、実は現代の大人の姿が見てとれる。

会社では、上司に頭を下げ、取引先にコビを売り、宴会では明るく振舞い、職場では一生懸命真面目に働いているようなお父さんが、自宅に戻れば、家族とは口もきかず、夜の街では女子高生相手に買春をし、場合によっては、妻に暴力を振るう。

なぜか、最近の少年犯罪には、この「外面の良い父親」の姿が重なる。
子供だけの症状ではないのだ。事なかれ主義から生まれる大人のストレス社会が、実は子供達にも伝染していることが、言えるのではなかろうか。

世の教育関係者や、親と呼ばれる人たちは、そろそろ価値観を変える必要がある。
もう10年、20年前とは、子供たちをとりまく環境も変わっているのだから、「不良」=危険、「真面目な子」=安全、という先入観は捨てるべきだ。
「不良」は、常にイライラ信号を発しているから、比較的そちらの方が「安全」で逆にイライラ信号を出さない「真面目な子」ほど「危険」で、気をつけなければならない存在なのかもしれない。

「不良」も「真面目な子」も、同じ人間だ。だから、両方ともストレスは感じる。ストレスを見せているか、見せていないかの違いであろう。

地震がよく発生する地域の震度が比較的弱いのに対し、全く地震が起こったことのないような場所に突然大地震が起こるようなものだ。
「今まで地震なんか起きなかったのになぜ?」ではなく、今まで地震が無かったからこそ「大地震が来るから用心」しなければならない。

「真面目な子だから、悪いことはしない」のではなく、
「真面目な子だからこそ、割り切れたら取り返しがつかない」のである。
 

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