[2]戦争の記憶継承を阻む著作権の壁

 「半分しかコピーできません」
国会図書館の複写サービスの窓口で、定期刊行物については、例えば研究紀要などでは執筆者名が入った論文は一本丸ごとコピーできるが、書籍は名前が入った記事はそれぞれ半分までしかコピーできないとのこと。

ある開拓団の歴史を編集委員会を立ち上げてまとめたもので、ところどころ当時の様子について関係者が名前を入れて書いている。窓口の説明によれば、巻頭に「発刊に寄せて」など複数の人が挨拶文を載せているが、これもそれぞれ半分まで。それ以上は著作権者の許諾書を取ってこないとコピーできない。

著作権を保護するためどこかに一線を引かなければならないのはわかる。
しかしこれは非売品。一般には流通せず、古本マーケットでも見かけなかったが、先日、見つけた、と思ったら5万円もしていた。

保有しているのは国会図書館と地方の公立図書館、同じく地方の博物館。
公立図書館は貸出禁止扱いなので、地元の図書館を通しても借り出せない。
国会図書館も頻繁には通えない。だから何度も目を通すような箇所だけでもコピーしておきたいと思ったのだ。

同じように戦時中の体験を自費出版や商業出版した書籍、あるいは仲間内の記録としてまとめた冊子も、今書店で入手できるものはほとんどない。古本マーケットに出ていることもあるが、高値がついていることも少なくない。国会図書館にもなく、地方の公立図書館や大学の図書館にしかないものもある。

原稿を書いた人たちは、自分たちの記録を後世に伝えたい一心だったと思う。
その多くは今やどこかの書庫で誰の目にも触れずに朽ちていくのを待っている。紙は確実に劣化するのだ。

長野の博物館の資料閲覧室で調べ物をしていたとき、学芸員に家族に関係する開拓団の資料がないか尋ねている人がいた。多くの開拓団を送り出した長野では、研究者だけでなく一般市民にとってもいまだに関心の高いテーマだ。

戦争の体験本が電子化されればいいのに。

それには著作権者の許諾が必要になる。
執筆者の多くは亡くなっている。出版社から刊行された場合でも、その出版社自体がなくなっていたりする。

著作権者が不明な場合は文化庁の裁定制度があるが、国会図書館でコピーするだけなら手間と費用が見合わない気がする。

戦争体験者はいつかいなくなる。
一方で、せっかく残された貴重な証言が、著作権と「紙」という物質的な制約のために生かされていない。

公的機関が代表して著作権処理の手続きを進め、誰でもどこからでも無料でアクセスできる戦争史料として、電子版で公開する仕組みができるといいのにと思う。


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