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不器用な生き方

会社である程度仲良くなった同僚から

「※※さんって、一匹オオカミだね」

と言われたことが何度もある。
周りの人とは異なる考え方を持ち、会議などで上司に遠慮なく意見する自分の仕事のスタイルを見て、そう思うらしい。自分としては、こっちのほうがうまくいくんじゃないかと本気で思っているし、周りの多くの人と意見が同じだったら、自分が会議に参加する意味がない。
現状、それでうまく行ってるならそもそもこんな会議が開かれてないはずだ。同じやり方を続けるより方法を変えてみたほうが効率もいいと思うので、自分にとっては必然的なのだけど。

ただ、周りの人から見るとそれが浮いているとしか見えないらしい。仕事にはすり合わせが重要というけれど、左と右のようにそもそもベクトルや視点が全然違うものはなかなか妥協点が見つけにくい。
自分がこんな考え方になったのは中学校の校長先生の言葉が今も頭の中に残っているからかもしれない。その校長先生は今では名前も思い出せないほどで決して特徴のある先生ではなかった。でも、卒業式のときのスピーチには心に来るものがあったのを今でも鮮明に覚えている。
『周りの人が百人「右」と言っても、あなたが本当は「左」が正しいと思ったら、必ず「左」を選んでください。流されるのは簡単です。でも敢えて流れに背く勇気を持ってください。これからの社会ではそんな行動力が必要になるときが来ます。』
こんな趣旨のスピーチだった。それ以外のことは全く覚えていない。

会社で過去にこんなことがあった。
不良が発生し、生産ライン停止が頻発する工場があった。ラインが停止すると、予定していた数の製品を生産できなくなるため、できるだけ不良の発生は減らしたい。調べたところ、新人作業者による作業ミスの割合が比較的多いことが分かった。離職率も高く、現状の生産ラインを維持するためにはどうしても不慣れな新人作業者をラインに投入する必要があるという状況だった。どうしたらいいか。
会議の結果、新人作業者はミスをしやすいから、巡回スタッフを用意して、重点的に新人さんの作業をチェックさせることにした。これはダメそうだなと思っていたが、やっぱり新人による作業不良は減らなかった。「新人による作業ミス=悪いこと」になっているが、そもそも新人は作業ミスをするものだ。最初からミスをしない新人のほうが珍しい。そんな新人をより厳しくチェックしたら、ミスが今以上に一杯見つかるのは決まっている。
「ラインを止める」のは悪いことという風土が出来上がっているから、新人以外でも作業ミスが見つかったら酷く注意される。これでは作業者のモチベーションは下がって、離職率も下がらない。イタチごっこだ。

本来手を付けるべきは風土と離職率の改善だと思った。
具体的にやることはたった一つだ。
不具合のでた工程の後工程の作業者さんに前工程の作業箇所のチェックを追加するのだ。
当然不具合が見つかるけど、作業者がミスするのは当たり前のことなので叱責する(罰を与える)のではなく、逆に後工程の人のフォローを評価にして、不良を見つけてくれた分だけ賞賛される仕組みにする。これならフォローする側の後工程の人にもメリットがあり、前の工程の作業者にも優しく接することができる。不良がたくさん見つかる前工程は作業がしにくいなどの課題がある可能性がある。組み立て方法の改善や、場合によっては設計的な見直しで生産性を上げることもできる。不良を見つけてラインを止めることは「悪」ではなく、むしろ不良を流出させないために「良いこと」と工場全体にも周知徹底することができる。離職率が下がり、長期的には工場側にも大きなメリットがあると思った。
でも、この提案は工場には受け入れてもらえなかった。
不良を歓迎するとどうしても一時的に生産量が落ちてしまうからだ。罰がないとわざと不良を作って、評価を稼ぐ人も出るだろうという性悪性を唱える人もいた。当時の工場長には

「お前が工場運営のことに意見するのは10年早い」

とも言われた。
あれから10年以上経ち、別の業務を担当しているけど、今もこの工場は離職率の高さに困っているらしい。

こんな調子だから、上司と衝突することがままあった。どうしても反りが合わず、会社を辞めようと思ったことも何度もある。その度に不思議なことに懐の大きな上司に拾われて、何とかこれまで会社を辞めずにやってこれた。全然出世しなかったけど。

我ながら不器用な生き方た。


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