【2020何を考えていたフェア】私のおすすめの本 『流浪の月』(東京創元社) エッセイ 一橋大学 鈴木実乃里さん

32_エッセイ 一橋鈴木さん

凪良ゆう 著
ISBN 9784488028022 本体価格 1,500円+税 2019年8月 発行

私がおすすめする本は、2020年の本屋大賞を受賞した『流浪の月』です。久々に読むのが止まらなくなり、1日で読破した1冊です。
 主な登場人物は大学生の文と小学生の沙羅の二人。物語は、文が意図せず沙羅を誘拐する形になってしまうところから始まります。文が誘拐事件の犯人として逮捕されることで二人は引き離され、世間からは大学生男子が小学生女子を誘拐し監禁したロリコン事件として認識されました。時は流れ文と沙羅は再会しますが、周囲の人間はニュースやサイトで見た情報から二人の関係を心配し、不安視し、引き離そうとします。しかしそれでも互いが自分と向き合い二人で新たな関係性を築いていくというのが大まかなあらすじになります。
 「真実と事実は違う。」読み終わると、本書で何度か出てくるこの言葉を非常に重いものに感じます。文と沙羅の関係を理解しているつもりになっている周囲の人たちは、日々SNSやサイトでニュースを斜め読みしている私たち、私のことなのだとハッとさせられました。当事者でなければ本当のことは分からない。当たり前のことだけど、現代の情報化社会の中で置いてきぼりにされている感覚かもしれません。役人の失言、芸能人の不倫、企業の不正など様々な情報を日々私たちは見て、聞いて、摂取しています。そこで摂取するものは本当に断片的なものです。しかし私たちはそこで書かれている内容がすべてだと思い込んでしまう傾向にあります。そこから見えることだけをもって、怒りや悲しみや心配といった感情を抱き、時には誹謗中傷という形でネットに書き込みます。自分が目にしている情報の裏にあるものを、その断片的なものからは理解しえないのだということを忘れてしまいます。この本を読んでそんな当たり前のことを改めて感じ、考えさせられました。物語の最後に文と沙羅は二人で前に踏み出すことができます。しかし、世の中にはそうできず苦しみ続ける人もいるのだということを理解して、私たちは現代の情報化社会の中に生きる必要があると深く感じました。
(一橋大学 商学部 鈴木実乃里さん)

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