【2020何を考えていたフェア】「本の箱推し」 エッセイ:取次 営業担当 吉田さん

会いたい人たちが遠くなってしまって、画面越しに顔を合わせることばかりの一年だった。
それでも会えないより百倍ましだが、画面に映る姿だけではそれがあなたであると言うには心もとない。
オンラインの可能性を感じたと同時に、同じ空間に共にいられることの価値を再認識する一年となった。

取次、と呼ばれる本の卸の会社に入ってもうすぐ3年が経とうとしている。出版社やメーカーから本や文具雑貨を書店に卸すBtoBの仕事がメインで、就活生の誰もが知っているような会社では決してない。どうして取次に?と聞かれることが度々あった。

理由はたくさんあるが、しかしなかなか難しい質問である。
少々くだけた書き方でいうと、私は本を推しているから、というのがその理由になるだろうか。

人間にこれだけの言葉を尽くして伝えたい事柄がある、ということが尊い。
それが形になった本も尊い。
一冊の本を大事に何年も一人の人間が所有するということが尊い。
本を誰かに手渡したくなるその気持ちも尊い。
絶えず入れ替わりながら、でもお店全体は保ったまま、お店や本をまるで育てるみたいに保つ書店は街のオアシスのようで尊い。(森の植物の入れ替わりとよく似ていると常々私は思っている。)

本をめぐる推しポイントは無数にある。だから本が出来てから書店に並ぶまで、その間をつないでいる会社があるらしいと知った時、これだと思ったのである。ここに行けば私は推しのために働ける。推しみんなのために働ける。こんなに面白そうな仕事はないと思ったのだ。

本はそこにあることが分かるから好き。
気持ちや頭で考えたことは目に見えないが、本があることで確かに存在すると信じられる。
この一年、本の需要が高まったのは余暇の時間が増えたからとか、スキルアップの学習に取り組む人が増えたからとか、子どもの自宅学習のため、とか、そういう現実的な理由がもちろん背景にあるけれど、実体のあるものだけが与えられる安心感を求める気持ちも少しはあったんじゃないか、なんて勝手に思ってしまった。

会えない日々が続いている。新しい生活様式の孤独に慣れていくしかない日々である。
それでも、街に本屋さんがあれば大丈夫だと思えるのだ。部屋に本があれば大丈夫だと思えるのだ。本は私を一人にしないから。

この不安な時代のなか、本を作り、届け続ける、出版社様、書店様をはじめとしたすべての人に敬意をこめて。


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