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『杉田君にはサスティナビリティが足りない』

「サスティナブルという思想は、人類に対して負担をかけすぎていると思う!」

杉田が旧校舎の杉板を踏み鳴らして立ち上がり、いつものように大上段からぶちかました。未来同好会の連中は、一瞬だけ杉田アホを眺めて各々の作業に戻る。

「さっきの授業で学んだ『持続可能性』とかいうやつか。自然資源を長期間維持して環境に負担をかけないようにするとか。良いことづくめなんじゃないか?」

僕が合いの手を入れると、杉田はグズグズと鼻を鳴らしながら答える。

「お前らは全く何もわかっていない。計画的な植林やカーボンオフセットによって、たしかに数字上はカーボンニュートラルに近づいた。その結果が、人類の多くが抱えるスギ花粉という負債だ」

「花粉症のことか」

「その通り!計画植林も最初がアホだとダメなんだ」

杉田は、未来同好会唯一の女子である織部ちゃんにポケットティッシュを借りて鼻をかみ、ゴミ箱にシュートした。(織部ちゃんは小さく拍手した)

「なので、俺はこいつを逆用して、過去の世界からスギを根絶しようと思う」

杉田は、懐から部費で購入した『片手間(ポケット・タイム・ポータル)』と竹の枝を取り出した。

本来『片手間』は、未来の世界から等価交換で品物を取り寄せるための装置だ。開通サイズはこぶしひとつぶん。せいぜい、トークンや手紙をやり取りする程度の使い道しかないものだ。

「俺は江戸時代のスギ林に竹の枝を突っ込む。竹の爆発的な繁殖力はスギ林を覆い、すべてを竹林に変えるはずだ」

「無理だろ」

「無理なもんか、止めてくれるな、犬養ちゃん」

「止めないけど」

杉田は時空座標を念じながら『片手間』に竹を突っ込み、スギの苗木を掴んで引き抜いた。

その瞬間、杉田が消滅した。そういえば、彼の実家は、江戸時代に勃興した材木問屋が源流だという。「アホだ」と思う間もなく、杉田という概念は僕の中から消えた。

『片手間』が竹張りの床に落ち、カコーンと良い音を立てた。

(つづく)

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