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「最後の魔法!恋の千秋楽!」(完結編)

(これまでのあらすじ)
魔女から”魔法のまわし”を受け取った小結乳白色舞海は連戦連勝。ついに千秋楽で憧れの横綱の胸を借りることになった。”魔法のまわし”とは一体? ついにその謎が明かされる。

クリームシチュー化したちゃんこ鍋がいきなり爆発して白濁親方は気絶!!ゆっくりと湯気の中から姿を現した魔女は乳白色関に言った。

「ヒッヒッヒッ!お前さんの願いを言え、なんだって叶えてやるよ」

「私、横綱に勝ちたい!」

「そうかえ。えいっ!」

(イヨォーーッ! ポンッ……ポンッ……ポンッ……ポンッ……ポポポポポポポポポ……ポンッ!!)

(ひゅんひゅんひゅんひゅん)

荘厳な幻聴と共に魔女は弓を振り回す。

(ひゅんひゅんひゅんひゅん)

やがて乳白色関の足元からマゲに向けて光が駆け上がり、淡く発光するオーラに包まれながら浮遊回転する生まれたままの姿の乳白色関にゆっくりとピンクの縁取りをした黒いまわしが装着されていく!!

(ひゅんひゅんひゅんひゅん……ヒュン!)

白熱閃光!! 色白の美巨漢力士が魔法のまわしを纏って決めポーズ!!

(イヨォーーッ! ポンッ!!)

光の渦に溶けて浮き上がっていた乳白色関が静かに着地する。
魔法の弓取式によって乳白色舞海は魔法の力士となった。

「これが私……?」

「ヒッヒッヒッ! いいかい、魔法の力を使うときは願いながらさがりを引き抜くんだヨ」

「そうすればあの力士(ヒト)にも勝てる……?」

「ヒッヒッヒッ! どうだろうねエ、相手は"神"だ。あんたの稽古次第じゃないかえ? でも、横綱との取り組みまでは保証するヨ。ヒヒッ!」

「ありがとう魔法使いのおばあさん。なぜ私にこんなに親切に……?」

「ヒッヒッヒッ!あんたを見ると昔の私を思い出しちまってね……いいかい?魔法の力を持続させるには、これまで通り毎食クリームシチューちゃんこを食べること。わかったかえ?」

「はい、わかりました。私……がんばります!」

(ヒッヒッヒッ!(ヒッヒッヒッ!(ヒッヒッヒッ……横審で待っとるよ……)))

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乳白色が目を覚ますと、そこは千秋楽の支度部屋であった。

「乳白色関!出番です!」

付き人が駆け寄ってくる。

「……うん!がんばる!」

残されたまわしの長さから考えて、これが最後の魔法になるだろう。優勝するには、巴戦の初戦で恋煩井を破り、同じく全勝の横恋慕も倒す必要がある。しかし、乳白色は目の前の"約束の取組”だけを意識していた。

『幕内最高優勝をかけた巴戦、ここまで三力士が全勝です』

テッポウ禁止の廊下を歩む、目の前には神聖な穢れなき土俵だ。

『まずは小結 乳白色と横綱 恋煩井の初顔合わせの一戦』

横綱 恋煩井
失恋部屋
14勝0敗
メキシコ出身

0-0

小結 乳白色
白濁部屋
14勝0敗
東京都出身

『おっと、仕切り線で見つめあっています。初顔合わせですが、何やら因縁めいたものがあるようですね、どうですか解説の炸裂親方』

『二人とも幸せそうですね』

横綱恋煩井はメキシコの海水を精製した伯方の塩を手のひらいっぱいに集めて土俵へ投げ込む。乳白色は乳清(ホエー)を口に含み霧状にして吹き出し、CMでも御馴染の「嘘ッッというほどの粉チーズ」を土俵へまき散らす。

『制限時間いっぱい!待ったなし!!』

両者同時に土俵イン。

((この時を……待っていた!))

視線で言葉以上のコミュニケーションを交わす。
二人以外の風景は白く吹き飛び土俵は二人だけの世界となった。

(……!!)(……!!)(……!!)

もう誰の声も耳に入らない。二人が共に立ち胸を重ねる瞬間が訪れようとしている。そして、乳白色舞海は己に残された最後のさがりに指をかけた。

(ハッキヨイ!!!)


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『横綱、全勝優勝おめでとうございます!』

「ッス!アリガトゴザマッス!!」

控室で仰向けになりタオルで顔を被った乳白色が優勝インタビューを聞いている。もう一人の 横恋慕と恋煩井の巴戦決勝戦は、横恋慕の前袋が落ち「不浄負け」という前代未聞の決着がついた。自らさがりを引き抜く姿が中継されたこともあり横恋慕は二度と土俵に上がることはできないだろう。

乳白色は最後の魔法を使わなかった。
(最後は自らの稽古を信じるのじゃ)魔女のおばあさんのアドバイス通り、全身全霊で悔いのない相撲を取ることができたから悔いはない。でも……。

「舞海、よくやった」
「お父さん……私……」

白濁親方が声をかける。
ふと親方の横を見るとスーツ姿の婦人の姿が見える。

「まわしをすり替えられていたのによく頑張ったわね」
「あなたは……!!」

(シーッ!)婦人は口の前に指を立ててウィンクをすると乳白色を黙らせた。

「あなたの真の実力は私が見込んだ通りだったわね。来場所も期待しているわ」

「はいっ!」

「横審で会いましょう……またね♪」

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抜けるようなメキシコの青空。
CORONAを飲み干してハーレーにまたがる恋煩井ガブリエル。
病弱で入院がちだった己に毎日シチューを差し入れてくれた無名の力士との約束を守るために彼は強くなった。

((シチューを食べて強くならなきゃ!私だって本当は強いんだよ!))

「ヤッパ舞海チャンハ強カッタナ!!」

((私が幕内に上がったら必ず手術を受けて! そしたら必ず土俵上で会おうね!!))

クリームシチューまみれの”俺のヒーロー”との約束のため横綱はさらに相撲道を邁進する。魔法のまわしを卒業した乳白色も自信をつけるだろう。しかし、千秋楽直前に横恋慕に盗まれた「魔法のまわし」の新たな使い手が角界で産声を上げようとしていた。

波乱のメキシコ場所は目前に迫っている。

「最後の魔法!恋の千秋楽!」

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