高校生の時にバイトした、超絶ブラック企業のこと。その1

 もう20年以上前のことです。私は高校生の時、ガソリンスタンドでアルバイトしていましたが、その会社は超絶ブラック企業でした。
 パワハラ、ノルマ未達の罰金なんて朝飯前。壁に向かって狂ったように〝いらっしゃいませぇええー‼︎‼︎〟を連呼させるような会社でした。そんな会社に、私はなんだかんだ三年弱、勤めることになります。(その間、バイト、社員を含め、200人近く入社しては退社していきました)

 なぜか?

 洗脳はされないで済みましたが、要は慣れ(それこそが洗脳なのかもしれませんがw)と、時給が当時としては破格の1,200円だったからです。

 昨今、話題になることの多いブラック企業。せっかくだから自分の体験談を記したいと思い、筆を取りました。よろしければお付き合いください。

入社

 高校一年のゴールデンウイークの頃だったと思います。さすがに記憶が遠すぎてはっきりとは覚えていませんが、求人情報誌an(アン)を見てアルバイトの応募をしました。
 面接したのは副店長でした。ガススタの二階のスタッフルームに通されました。階段や床が異様にツルツルしていた事、スタッフルームが無機質なまでに清潔だった事が強く印象に残っていますが、それこそがそのブラックぶりを象徴するものだったとは後になって知ることです。
 当たり障りのない面接ですんなり採用されました。

初出勤

 まずはお客様対応マニュアルを渡されましたが、最初にさせられたことは、いらっしゃいませええええ!!!!の連呼でした。
 壁に向かって、いらっしゃいませええ!と、ありがとうございますうううううう! を20メートル先の車内でも届くような大声で叫ぶことを、延々とさせられました。これは今でも鮮明に記憶しています。
 当時の私は、当然恥ずかしいと感じましたが、人通りがあまりないガソリンスタンドであったことと、一応、人の目に当たらない所でさせられたこと。そして、なんだかんだ慣れてくるし、延々繰り返していくうちに人の目もそんなに気にならなくなってくるのですから、社畜素質があったのだなと、思わないでもありません。

ひたすら清掃

 狂気のいらっしゃいませの後は、ひたすら狂気の清掃でした。とにもかくにも清潔を徹底していた会社でした。
 与えられた仕事は洗車機の清掃。洗車機は門扉形の一般的なものでしたが、その内側をタイヤブラシでひたすら清掃するのです。洗車機の内側はお客様の目に触れる事はなく、掃除しなくても正直構わないようなところでしたが、その清掃を毎日行っていました。毎日のようにではなく、本当に毎日清掃していました。はっきりって毎日行う必要はありません。そこまで汚れません。でもまるで、懲罰のように毎日清掃させられていました。
 内側だけでは飽き足らず、外側も週に1度の頻度でワックス掛けしていました。ワックスは有名なシュワラスターでした。
 分かる人には分かるとお思いますが、週に一度です。過剰極まれりです。
 洗車機の外側はお客様の目に触れますから綺麗にしておくわけですが、さすがに週一は狂気の沙汰です。故にピカピカ。さらに何を血迷ったか、犬走り(犬走りの詳細はこちら)にまでワックスをかけるのです。犬走りの上を歩く事はありませんが、通路にワックスがけをするようなものです。要は転倒の危険がある。にも関わらず、ひたすら清潔にすることに心血を注ぐあまりの所業でした。
 その割にスタッフのユニフォームは使い古していて、この差異は何なのだろうと不思議に思ったものです。

 狂気の連呼と清掃で一週間が終わりました。それだけで二万弱稼ぎました。高校生にしては高給です。こんなんでお金をもらっていいのだろうかと思った私は、やはり社畜素質があったのでしょう。

お客様対応マニュアル

 ここで、お客様を迎えてから送り出すまでのマニュアルをご紹介したいと思います。
 まずお客様が入店されましたら、喉が千切れんばかりの大声で「いらっしゃいませえええ!」と叫びます。「こちらへどうぞおおおお!」と腕を高く挙げ、油種に合ったノズルの下に来るよう促し、クルマが近くまで来ると、右手を水平にまっすぐ伸ばしここまで来るように促し、左手はお客様の方へ伸ばし、肘を支点に腕招きで誘導します。
 ちなみにクルマの前に立つことは禁止されていました。なぜならクルマに轢かれる危険性があるからです。クルマの側面に位置するところに立って誘導すると定められていまました。今思うと、それはスタッフの安全のためというより、事故が起きると面倒だしコストがかかるからというものだったと思います。要は人命よりコストです。

 定位置にお客様を誘導できたら、その場で腰を90度折り、またもや狂気のいらっしゃいませえええええええ!!!!!!
 ついで運転席のそばまで歩み寄り当然のように膝を地面に付け、もう一度いらっしゃいませ。ただし「お客様」を付け加えます。
 初見のお客様なら大抵驚いた顔をします。おかまいなしに満面の笑みを浮かべて(マニュアルに笑顔で、と書かれているので)「ご注文はいかがいたしますか?」とお尋ねします。レギュラーかハイオクか、はたまた軽油か、車種を見ればだいたい分かるのですが、あくまでお客様のご注文を伺うのです。あと支払い方法も。
 ご注文を伺ったら「かしこまりました」などの受け答えをし(そのあたりの文言も明確にマニュアルで定められていました)POS操作に移りますが、その操作にもいちいち「○番、レギュラーセットオッケー!」と狂ったように声を上げます。給油口のキャップを開けて、お客様のクルマを汚さないように、給油口に近いタイヤの上にキャップを置き「キャップオーケー! 油種確認オーケー!」と、とにかく狂ったように大声出しまくり。油種確認オーケーと言っても、当時は給油口に油種が明記されていないクルマがほとんど。便宜的に「これがレギュラーだろ」的に確認していました。マニュアルが厳格なくせに実際に即していないのは、今思うと我が国っぽいなと思います。

 マニュアルを全部書き出すととんでもなく長くなるので割愛しますが、狂ったように叫ぶ項目をいくつも経てようやく給油が始まります。その間、当然駆け足、迅速な作業が求められます。のたのたできるよな雰囲気はその会社にある訳ありません。空気を読めない私ですが、もう読まざるを得なかった(笑)
 給油が終われば、キャップをキチンと締め「キャップオッケー!」と現場猫のように指差し確認。(ただ、キャップに締め忘れは結構あるので、これは必要な確認かと思います)精算後(金銭の受け渡しも、当然狂ったようなマニュアルがありました)お客様を誘導及びお見送りします。
 お見送りは、お客様が事故を起こされないように車道まで出て誘導します。結構危険です。誘導棒、反射ベストなどありません。下手したら轢かれます。でもお客様第一です。従業員の安全など、どこ吹く風です。

 そんなこんなで一週間が過ぎました。いわゆる同期アルバイトは二人か三人いましたが(うろ覚えです)私以外全員ばっくれました。まぁ当然です。当時でも狂っていると誰でもわかります。私は残りました。時給がいいからというのもありましたが、それ以上に、新たにバイトを探すのが面倒だったからです。慣れてしまったというのも大きいです。さらに私が不感症的なバカだったのも、今思うとあると思います。

 狂った会社でした。そんな会社に残った私も狂っていたのかもしれません。しかしながら、その後に登場する、命を削り接客に心血を注ぐ店長や、昼ドラかよ!と突っ込みたくなるような社長、毎日ノルマ未達罰金500円を払わされていた鼻毛が筆のように飛び出た山野さん(仮名)、会社の悪口しか言わない正雄さん(やっぱり仮名)、僕に「付き合ってほしい」と告白してくれた伊藤さん(どうしても仮名)の登場で、この狂ったガソリンスタンドで、むせるかえるほど香ばしい体験をすることになるとは、当時の私は知る由もありませんでした。

 ブラック企業で話題の我が国ですが、自分の特異な体験を記すことで、少しでも労働環境が良くなれば……とは思うですが、よろしければお付き合いください。

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小説家です。著作は『天竜川高校 竜競部! 友情リレーションズ』『天竜川高校 竜競部!』『レーシングデイズ』『レーシング少女』
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