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少女の序奏

                     

ユーリ 湯浅春枝 /  母   是常祐美 
大佐  安達綾子 /    軍曹    岡村圭輔
シスカ 柏木明日香 

1場
訓練場に立っているユーリ 

ユーリ直立しているが、表情は暗い。
そこに上司の軍曹が立っている。

軍曹 おい

ユーリ、急いで敬礼をし、指示にしたがって訓練していく。(匍匐前進や駆け足など)

軍曹:いつまでここにいるつもりだ。お前みたいなのが入ったのは何かの間違いだよ。

ユーリの動作が鈍くなっていく。

軍曹:よそ者のくせに無駄な努力してさぁ。バカだな。お前。

どんどん動けなくなっていくユーリ。威圧感を増していく軍曹。
最後にはうずくまってしまう。

軍曹:おとなしく筋トレでもしとけよ。

軍曹は去っていく。

2場

営内の一室。
一人の女性が立っている。上司の大佐である。

ユーリ:大佐

ユーリ敬礼しようとするが、大佐に止められる。

大佐:かしこまらないで。
ユーリ:ですが、
大佐:鐘、なったでしょ。
ユーリ:  …
大佐:いいから。
ユーリ:はい。
大佐 :あなた、休み取ったら?
ユーリ:は、
大佐 :休暇、結構残ってたわよね。
ユーリ :そんな(必要はない)
大佐 :ミス増えたらしいじゃない。
ユーリ :…
大佐 :疲れてるんじゃない?
ユーリ :休暇申請は1週間前に提出しなければ。
大佐 :いいから、
ユーリ :ですが、
大佐 :任せといて。
ユーリ :…はい。
大佐 :気分転換してらっしゃい。そしたら、また頑張れるでしょ。
ユーリ :え、
大佐 :辞めたいんでしょ?
ユーリ :…
大佐 :わかりやすわねぇ、あなた。私もね、入って一年目は辞めたいって思ってたわよ。
ユーリ:  はぁ。
大佐 :異例の出世だったからさ、年下が自分たちの命握るなんて、
ベテランは納得しないわ。言うことも聞いてくれないし。
ユーリ : ええ
大佐 :明日には辞めてやる、除隊届け出してやるって、もう五年。
ユーリ :そうですか。
大佐 :そんなもんでしょ。悩みなんて。
ユーリ :そうでしょうか。
大佐 :考えすぎなのよ。いい顔つきになってきたのに、もったいない。
ユーリ :そんなことは。
大佐 :そこは自信持たなきゃ。
ユーリ :…はい。
大佐 :入った時とは大違い。
ユーリ :昔とはそりゃ。
大佐 :昇級試験ダメだったからでしょ?年齢制限あるっていってもまだ余裕あるんだし。
ユーリ :あの、
大佐 :勉強みようか?
ユーリ :は、
大佐 :私ね、あなたのこと気に入ってるのよ。
ユーリ :(答えない)
大佐 :これ、内緒ね。
ユーリ :無理なんです。
大佐 :そんなに書けなかった?
ユーリ 同盟のない国の血が入っていたら、どうあがいても昇級なんてできやしない。居場所なんてあるわけない。
大佐 :ん?
ユーリ :どれだけ頑張っても無駄なんです。私が入ったのは何かの間違いだったんです。
大佐 :誰に言われたの?
ユーリ :…
大佐 :軍曹?
ユーリ :はい。
大佐 :それは、
ユーリ :私より点数の低い子が受かってました。誤差なら納得もします。でも、そんなんじゃなかった。
大佐 :…
ユーリ :結果を伝えたら、大人しく筋トレでもしてろよって。よそ者のくせに無駄な努力してさぁって。
大佐 :嫌味を言っただけかもしれないでしょ?
ユーリ :変だとは思ってたんです。同僚も、先輩も余所余所しくなって。
大佐 :気のせいじゃない?
ユーリ :ですが、
大佐 :もし、軍曹の言ってることが本当だったとしても、いつか変わるわ。
生まれの調査だって、昔は入る前にしてたらしいじゃない。
ユーリ :それは、
大佐 :現場でも、十分に活躍できるじゃない。努力することはいいことでしょ。
ユーリ :報われなくても、ですか。
大佐 :…
ユーリ :はじめから知ってたら。
大佐 :そんなこと考えてたの。
ユーリ :…
大佐 :普段にでてるわけだ。
ユーリ :すみません。
大佐 :あなたわかりやすいから。
軍曹のせいってわけね。入った時から当たりが強いって聞いてたけど。
まぁ、軍曹には言っとくからさ。
ユーリ:  あの人は私を追い出すまでやりますよ。
大佐 :それはないでしょ。
ユーリ :毎日毎日、なんでまだ居るんだ、お情けで置いてもらってるくせにって。
大佐 :言い返さないの。
ユーリ :はじめから気に入らなかったんですよ。
大佐 :そういわれた?
ユーリ :いえ。
大佐 :なら気にしないで。疲れるだけよ。
ユーリ :でも、
大佐 :軍曹は、あなたが私と仲良くしてるのが気に食わなかったのかも。
ユーリ :大佐のせいでは。
大佐 :こういうのはね、上のせいにしておくの。
ユーリ :…
大佐 :そんな顔しない。
ユーリ :どんな顔ですか。
大佐 :できたら困ってないわって顔。
ユーリ :そんなことは、
大佐 :直しなさいよ。
ユーリ :…
大佐 :はい、しっかり休んでらっしゃい。

軍曹 :おい、俺をすっ飛ばして、大佐と話したらしいな。俺のメンツ潰しやがって。調子乗ってんじゃねぇよ。よそ者のくせに、お情けで置いて持ってるくせに。

3場

扉の前で止まる。実家の玄関前、扉をあけようか迷い。決意したように扉を開ける。

ユーリ:ただいま。
母 :びっくりした。帰ってるなら連絡しなさいよ。
ユーリ :急に休暇もらえたから。その絵、新しいやつ?
母 :いいでしょ?
ユーリ :うん、いいね。
母  :お昼食べてきた?
ユーリ :うん、
母 :そっけないわね、あんたらしいけど。夕飯は?食べていくでしょ?
泊っていくの?最近どう?
ユーリ:一気に聞かれても無理。
母  :休暇いつまでいられるの?
ユーリ :決めてない
母  :えっ?
ユーリ :大丈夫だから。
母  :とりあえず座りなさいよ。疲れたでしょ

椅子に腰かけるユーリ

ユーリ:また、個展するの?
母 :どこで聞いたの?
ユーリ :新聞に載ってた。
母 :あぁ、載せたくなかったんだけど。どうしてもって。
ユーリ :すごいなぁ。
母 :そりゃ、お母さん天才だもの(笑)
ユーリ:  …似たらよかったのに。
母 :十分似てるわよ。
ユーリ :そんなこと。
母 :なんかあった?
ユーリ : ううん。
母  :そ。それとも辞めてきたの?
ユーリ : またその話
母  :辞めればいいのに。お母さん本気よ。
ユーリ  : ・・・・
母  :そんな顔して。なに意地張ってんの。
ユーリ :どんな顔。
母  :泣きそうな顔。
ユーリ : 元からでしょ。
母  :ちゃんとかわいく産んだわよ。
ユーリ : …どうも。
母  :可愛げないわねぇ。そんなことまで軍隊で教わったの?
ユーリ : ねぇ、
母  :ん?
ユーリ : なんで、お父さんと結婚したの。
母  :そりゃ、好きだったからよ。
ユーリ : よその国の人でも。
母  :好きなら関係ないの。それに反対される方が燃えるのよ。
ユーリ : 今は?
母  :他人ね。
ユーリ  :お父さんも、この国の人なら良かったのに。
母     :そうね。
ユーリ:   私だって、ずっとここで育ってきたのに。
母     :どれだけ頑張ったって、父親がよその国ならあなたもよそ者扱いよ。
兵士なんてコマでしかないのよ。あなたである必要がないって何回言えばわかるの?
ユーリ:それは。
母   :すぐ揉めて帰ってくると思ってたのに。もう三年?しぶといわね。
ユーリ:・・・
母  :国に娘を取られた気分よ。
ユーリ :大げさ。
母  :本当のことじゃない。あんたも意地張っちゃって。わかってるでしょ。
ユーリ :そんなことない。
母  :無理してなんになるの?
ユーリ :・・・
母  :無理しなくてもよかったのに
家の手伝いだって女の子じゃよくある話だし、ゆっくりやりたいことと探せばよかったのに、焦ったんでしょ。
ユーリ:…
母 :それに、なんで兵隊なのよ。もっといろいろあったでしょう。
家から行けるところだっていいじゃない。
ユーリ:駄目なの。
母 :なんで?
ユーリ :それじゃ、変わんない。
母 :なにが?
ユーリ :…
母 :まだ若いんだから、なんとでもなるわよ。お母さんが手伝ってあげるから。帰ってきなさい。兵隊なんて、あなた一番性格に合ってないわよ、だってあなた、白を黒って言えないタイプでしょ。
ユーリ :・・・
母  :一回体験できたんだからよかったと思えばいいでしょ。なかなか体験できるものじゃないわよ。 結婚は?好きな人は?でも、兵隊さんは嫌よねぇ。
ユーリ :興味ない、好きな人もいない。それに
母  :なに?
ユーリ: …
母  :じゃあお母さんの仕事手伝う?
ユーリ:え。
母  :いいじゃない。それ、面白そうだわ。
ユーリ :ちょっと。
母  :親子二人でっていうのがいいわよね。もう少しアトリエを大きくして…。いや、大通りに近い場所に引っ越すのもありかしら?
ユーリ :ねぇ、
母  :でも、まずはイメチェンからね。 化粧は・・・どうせしてないでしょ。
ユーリ :そんな時間ないし。みんなしてない。
母    :冴えないまま人生終わるわよ。
ユーリ :別にいいよ。
母    :努力しなさい、努力を
ユーリ:  …うん。
母    :言いにくいなら、お母さんが言ってあげようか。
ユーリ: いい、自分で何とかする。
母  :そういって辞めてこないじゃない。
ユーリ: いい年して、職場に母親が出てくるとか変でしょ。
母  :あなたを傷つける職場なんて、どう思われてもいいでしょ。
ユーリ: そういう事じゃなくて。
母   :辞めたいくせに、
ユーリ: 辞めたいけど、辞めない。
母   :じゃあ、辞めれば。何、そこでなにしたいの?。
ユーリ: 言ってもわからないでしょ。
母   :お母さんが納得できる説明ができないだけでしょ。わからせたいなら、それなりの根拠がなきゃ。お母さんのいうこと間違ってる?
ユーリ:・・・
母   :あなたのことを一番わかってるのはお母さんでしょ。
ユーリ:だけど
母   :なに?
ユーリ:・・・・
母   :言いたいことあるならちゃんと大きい声でいいなさい。
ユーリ:・・・ない
母   :ないことないでしょ。
ユーリ:もういい。
母   :よくない。お母さん変なこと言ってる?間違ったこと言ってる?
ユーリ:…
母   :今までお母さんが間違えたこと言ったことある?
ユーリ:・・・ないけど
母   :なにが嫌なの。
ユーリ:・・・
母   : そうやってすぐ黙り込むのやめなさい。
ユーリ:・・・てる。
母  :なに?声が小さいわよ
ユーリ :お母さんは間違ってないのが間違ってる。
母    :どういうこと。
ユーリ :辞めないから。

4場

家を出て行く。
街を歩いてるユーリ。
街行く人が大佐や軍曹、母に見えてくる。
大佐 「辞めたいんでしょ。私ね、あなたのこと気に入ってるのよ。努力することはいいことでしょ?」
軍曹 「代わりはいくらでもいる。お前でなくても、優秀な人はいくらでもいる。よそ者が。」
母 「お母さん変なこと言ってる?間違えてる?お母さん、今まで間違えたこと言ったことある?」
どの人も、3人にみえてくる。追い詰められて行く。憔悴していくユーリ。

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