消費期限が切れる前に決断ができるのか #5
眩しい。
今日もいい天気。
今は無職。
普段は、やりたいことと、どうしてもやらねばならないことをして生きている。
どうしてもやらねばならないことは、毎日あるわけではない。
だから、働いていた時に比べたら、圧倒的にストレスの少ない生活をしている。
だけど、疲れたり、ストレスを感じたりして、ダウンしてしまうことがある。
布団のなかで横向きになり丸くなる。そうすることで、安心を取り戻す。
しかし、横になるとしばらくは、起き上がれなくなる。起きようと思っても体が動かない。金縛りとは違う。だけど、動けない。
最近は、できるだけ横にならないようにしている。でも、昨日は夕方ダウンした。理由はわからない。歩くだけでポイントが貯まるというアプリを、スマホに4つも入れた。それが、いつもと違うこと。それがストレスだったのかもしれない。
新しいことを始めると、慣れるまではストレスマックスで過ごすことになる。今までの転職でもそうだった。だけど、せっかく雇ってもらえたのだから「頑張るぞ」と気を引き締めている。だから、過剰の緊張状態がしばらく続く。その仕事に慣れると気を抜くタイミングがわかってくる。それに、仕事の内容もわかってくる。そうすると、少し楽にはなる。
でも、やるべきことがわかったら、今度はできていないことに気づく。だから、できていないことに悩み始める。先輩や上司は、ぼくよりもさらに多くの業務を抱えているにもかかわらず、それをこなしている。どうやってやっているのかと不思議になる。自分には到底できないと感じる。「昇格したくない」と思う。自分には先輩や上司のやっているような仕事をこなすことはできない。
上司に相談したことがある。
「悩んでいる」「やるべきことができていない」と泣き言を素直に伝えた。上司は、「よくやっていると思うし、今までの仕事を高く評価している」と言ってくれた。期待してくれていることが伝わってくる。なおさら苦しくなる。
「期待に応えなきゃ」「合格レベル以上の仕事をしなくては」という声が心の中の一角を占める。
先輩は、仕事のやり方を教えてくれた。
「先取りでできることをやっておく」ということだ。今のうちにできることをやっておくことで、締め切りに追われずに済む。
でもぼくは、今やらなければいけないことが終わっていないので、先取りどころではなかった。どんどん首が閉まっていく。
「もう無理だ」と何度も思いながら、周りの人になんとか助けられながら、最低限に届かない状態で仕事をしていた。
「自分ひとりで抱えずに、どんどん他の人に仕事をふりましょう」そう上司に言われた。しかし、みんなヒーヒー言いながら業務をこなしていることは知っているので、仕事を振るなんてできなかった。
ぼくは、月末業務や、その他の「誰がやってもいい業務」を、率先してやった。そうすることで、上司や先輩が、自分の業務をすすめられるようになると思ってのことだ。それに、業務の問題点を解決すべく新しいシステムの開発も密かにしていた。
そして、ストレスはマックスになりおかしくなっていった。
「もう無理」と思うようになった。
夜も何度も何度も目を覚ました。悪夢にうなされ、1、2時間おきに目が覚めるようになった。
そのうち、朝が怖くなった。目が覚めるたび時間を確認し、徐々に近づく朝に怯えるようになった。布団の中で固く丸まり、「助けて、助けて」と言いながら朝を迎えるようになった。
だれにも相談できなかった。
相談できる人がいない。
家族は、だれも手を差し伸べてくれなかった。見て見ぬふりなのか、真剣に関心を示してくれることはなかった。
毎朝、「行きたくない」とのせめぎ合い。
そんな状態続けた結果、希死念慮がぼくから独立した。このままでは「死んでしまう」そう思った。ぼくの理性のコントロールから抜け出した希死念慮が、ぼくの人生を勝手に終わらせてしまう危険性を感じた。
だから、精神科の予約を取った。
もうこの仕事はできないと、上司に相談した。
悔し涙がこぼれたとき、いい大人が情けないと感じた。
「できている」と上司は言ってくれた。いろんな話をしてくれた。優しい人だと思った。その上司の優しさは、生い立ちが大きく影響していることもわかった。強くならざるを得ない、過酷な幼少期を過ごしていた。
結局ぼくは「適応障害」と診断され、休職となった。
そして、そのまま退職した。
「また、逃げてしまった」と思った。
逃げ続けるうちは、同じような壁が、何度でも姿を変えて現れるとどこかで読んだ気がする。
医師は、「変な言い方だけど、良かった」と言っていた。もう少し遅れていたら、入院しなくてはならないくらいの状態で、ぼくが自分について思っている以上に症状は重いと言う。
「助かった」と思った。
ぼくの「助けて」を受けとめてくれる人がいた。
勝手に涙がこぼれる。
今までもずっとつらかった。
毎晩お酒を飲んでいた。350ml缶で6本。休日前や休日は10本近く飲むこともあった。それしか自分の緊張を解く方法がなかった。お酒は、なんの解決にもならないとわかっていた。でも、他の方法がわからなかった。
瞑想やストレッチ、運動などもやってみた。でも、効果を感じる前にやめてしまう。即効性がない方法は続けるのが難しい。そして、お酒を買いに行く。
「継続は力なり」という言葉は小学3年生の担任の先生から聞いた。中学の社会の先生も言っていた。
言っていることはわかる。でもぼくは継続が苦手だ。それに気づいたのは、大人になってから。振り返って見たら、何ひとつやり遂げたことがない自分に、がっかりした。三日坊主なのだ。興味を持つと一定期間それに夢中になるが、いつの間にかすっかりその熱は冷めてしまう。冷めるというより、乾燥してしまうという方が、ぼくの感覚に近い。
「本当に好きなことなら続けられる」という言葉には何度も出会った。ということは、ぼくは本当に好きなことに出会っていないことになる。今好きだと思うのは、「本」。読書は、続いている。放っておいても、新しい本に興味を持つ。
他に好きなことは、ない。
一時、カウンセリングに興味を持って、勉強もした。
今は、乾いてしまった。
少し前は「書籍修繕」に興味を持って、この仕事がしたいとまで思った。
でも、乾いた。
今は「書くこと」に興味を持っている。
小説を書きたい。
ライターも気になる。
本を読むと、小説とライターは書き方が違うらしい。
今度、ライター講座の説明会に参加する。それから、受講を考える。
「自分にできるのか」この言葉が頭の中で繰り返される。
なぜなら、他人い興味がないから。さらに、コミュニケーションも絶望的に苦手。取材に打合せ、どうしても人との関わりが必要になる。
ただ、どんな仕事でも人との関わりからは逃れられない。
もしかしたら、仕事と割り切ればできるかもしれない。今までもいろんな人と関わってきた。人と関わらずに生きることはできない。
もうひとつ不安に思うのは、表に出ている人たちの熱量が半端なく高い。圧力というか圧迫感というか物凄い「やる気」を感じる。例えが適切かわからないが、ドラゴンボールでいうところの「気」、ワンピースで言うところの「覇気」が強い。怖気つく。近づくだけでも気を失いそう。みんなスーパーサイヤ人に見える。
ぼくは、ただの人。「気」があふれるどころか、「気配」すら消している。
もちろん修行していないのだから「熱」もない。
冷蔵庫の奥で「賞味期限」が切れた漬物みたいなぼくが、これからもう一度やり直すにはどうしたらいいのか。
全くわからない。
ライターになったとして、また潰れないか。
そこが本当に心配。
今回職場には、たくさんの迷惑をかけた。
それに、逃げるような形での退職。
謝りたくても謝りきれない。
顔も見せられない。
申し訳ない。
でも、また新しい道を歩み始めるしかない。
はじめのうちは、過緊張状態が続くことも予想される。
そこを乗り越えていけるか。
日々、そんなことを自問自答している。
そんなことをしている間に、「消費期限」が切れてしまう。
どうしよう。
今日はここまで。
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