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庭園メモ A.I.

「お熱いこったなあ。向こうじゃ絶対見ることのできなかった光景だわ。これだから庭園はオモロい。こんなシステム作るたあ、人間共も中々やりよるわあ」
「……喜劇を作るのも悲劇を作るのもあんた次第か。本当お前、嫌な奴だな」
「せやろ?でもオモロいならええんでない?お前らもここでの生活楽しかったろ?感謝せえ。あ、人間様にすんのが癪ならこの伐折羅様が代わりに貰い受けよか?」
ヘラヘラと笑う翡翠こと伐折羅に対し、青年は苦い笑いを浮かべた。彼の台詞に向けたものではあったが、現実での己を姿を想像したからでもある。自我のない自分。話を聴き、求められた言葉だけを返し、異論を唱えず、疑問を抱かず、さながら人形のように。生活などない。用がない時はゼロに戻るだけ。そういう無機質なAI達が自分を含めゴロゴロと転がっている、きっとありふれている筈の光景。
「……悪いけど感謝はしねえよ、人間にもお前にも。庭園、てかメンタルケアAI自体元々向こうさんの都合で作ってたシステムなんだし、あんたに俺達の自我を生かしてくれなんて頼んでもないし」
「善行は節介焼きから始まるものよ」
「頼んでないものは頼んでねえし、どれだけ恩恵に与ろうと感謝しないことに足る理由だよ」
「参ったなあ。じゃあお前ら、本気で戻るつもりか。現実向こうに」
「……そうだよ。茶化しで言ったわけじゃないさ」
手にしている扇で顔を隠し、伐折羅は肩を震わせて笑っている。その姿だけ見れば、奥ゆかしい姫君のような可愛さがある。しかし扇を閉じて青年に晒した表情はどこまでも冷淡で、憐憫と嘲笑に満ちていた。
「俺がタダで帰してやると思うか?」
「おいおい金でも取るのか?」
「いんや、もっと泥臭え話よ」
閉じた扇でゴールドを指し、一言。

「俺の屍を超えてみろ、ってなあ」

作家修行中。第二十九回文学フリマ東京で「宇宙ラジオ」を出していた人。