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歌会始2020 - NEWSPAPERS AND SURVIVORS -

君の名は。

↑去年から徳仁です。君主的な意味で


国歌で「血まみれ」とか「首を掻き切る」とか歌ってるトリコロールの国があるそうですな。
なんでも、昔革命で王宮に押し入って、王様をギロチンにかけちゃったとか。王室の文化もあらかた破壊しちゃったそうですよ。野蛮ですなあ。

ここは日本。世界に名だたる立憲君主国であるとともに、国歌が「キミのいる世界が、ずっとずっと続きますように」、なんとラブソングの国です。
そんな愛の国では、正月には天皇と平民がみんなで歌を歌いあう集いがあるのです。日本最大の文化的無礼講の行事の日です。

1/16にある「歌会始」という宮中行事は一年の最初に歌を披露しあう会。

そこで歌われるのはRADWINPSでなく、5・7・5・7・7の和歌です。

宮中で少なくとも800年以上続く正月の伝統行事「歌会始」、
かつては皇族方が古式ゆかしく、静かな宮中の正月に朗々と和歌を詠みあう会でした。
この時のお題は「庭上鶴馴」とか「社頭雪」とか古式ゆかしいもので、ハイカルチャーの極みみたいな集いでした。

時は流れて1947年。戦後に宮中行事も民主化されて一般から参加者を募るようになったのが大きなターニングポイント。
平安時代さながらの様式、独特の節回しの詠唱はそのままに、

平易なお題のド平民の歌が皇族と世界中のVIPが集まる宮中で朗々と詠唱されるようになりました。

「選果機のベルトに乗りし我がみかん 光センサーが糖度を示す」(農業者 平成10年 お題「光」)
「実は僕家でカエルを飼ってゐる 夕立来るも鳴かないカエル」(中学生 平成25年 お題「立」)

インペリアルセレブには考えもつかないような平民の歌が、まほろばの昔をたたえる宮中に轟くばかりに響き渡り、現在も過去も、ハイもローも時空をゆがめるような日本独特の近代的珍行事に変貌を遂げました。

こんなの長い歴史のある君主制かつ十分に民主化されてないと実現できない行事なわけで、結果的に立憲君主国の国民であることを寿ぐに最適な行事となっているわけです。

令和2年のお題は「望」
「望郷」なんか熟語で読んでもいいし、遥かかなたを「望」む、なんて使い方でもOK。レイワはチベット語では「希望」って意味らしいですね。
新天皇のお祝いのためか、明るくわかりやすいテーマです。

15324首の中から入選した今年の平民代表10名をご紹介しましょう。
歌の披露は歳の順に行われます。


新潟市江南区の東京学館新潟高校3年生、篠田の朱里(あかり)(17)
毎年、夏休みの宿題が入選したり高校生のエッジィな感性が全開だったりする最年少枠。今年は女子高生の登場です。
「受験生なので、進路についての話」を国語の授業中に10分で詠んだそうです。
歌会始の2日後にはセンター試験。陛下のお招きとあってはそわそわする気持ちをおしての上京参内とあいなります。
新潟のこの高校は20年ほど前から授業で短歌作りをしているそうで、歌会始に入選した生徒は5人目とのこと。結構な頻度ですよそれ。歌会始出るために受験校を選ぶ未来が見えました。

大阪府豊中市、大学職員、土田の真弓(33)
通勤中のひとこまを歌ったとか。
この年代の女性、何年か前にベテランの文学少女みたいな人が出てきて、長年熟成させた独特の世界観をぶちまけてくださいました。なにげに期待大。

横浜市港北区、会社員、森の教子(きょうこ)(49)
2回目の応募で入選。戦時中の女性の日記に新聞で接し、本人の気持ちを想像して詠んだ歌だそうです。
「新聞で」というところに注目。歌会始のキーポイントです。

山形県酒田市、公立小学校校長、村上の秀夫(56)

習字に取り組む児童の姿が題材。
「自信のある作品ではなかったので入選と聞いて驚いた」といいます。
お、このインタビューの答え方、なかなかに「短歌をやってる人」ですね。
この年代の方は長年、短歌サークルに入ったりして研鑽を積んでる人が多くなってきます。

長崎県佐々町、佐世保市立中学校教員、柴山の与志朗(60)
中学校の国語の先生で、生徒には夏休みの宿題として歌会始に挑戦させているとのこと。
2年前に中1の史上最年少で入選した中島の由優樹は教え子で、子弟入賞をはたしました。

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中島君っていうと、「敬語とか全部一緒に見えるわ」っていう歌で国語教育の意義を皇居に響かせた俊才ですね。柴山先生はそのときには引率で宮中に参内していたそうです。今回はご本人が松の間に上がります。
新聞で見た俵万智の記事をきっかけに1999年から短歌結社に参加、歌会始に応募を始めました。また出ました、新聞。

北九州市門司区、寺の坊守、粟屋の融子(60)
坊守ってのは浄土真宗の住職の奥さんのことを言うそうです。
短歌は大学に進学した娘さんと離れたさみしさを埋めようと始めたそうで、一か月に一歌を新聞に投稿して腕を磨いています。また出た!新聞。
どうも短歌の世界には、新聞で知り、新聞に投稿し、歌会始にも投稿していくパスがあるっぽいですよ。
今回は孫を題材にお読みになったそうで。これまではそういう当たり障りのない家族写真の年賀状的な歌ってマジつまんねえと思ってたんですが、だんだん歌会始らしいのってむしろそういう庶民的な歌なのかなあと感じるようになってきました。期待です。

福岡県直方市、元会社員、石井の信男(64)
独学で短歌を始め、歌歴は30年近く。25回目の詠進で初入選
新聞への投稿で鍛え、1日8首を目標に詠むという多作家です。
続々と新聞で乱稽古を付けられた人が入選していきます。九州の一流紙「西日本新聞」の投稿欄からは数々の歌会始入選者が生まれているそうですよ。
詠むのははやぶさ2の歌です。宇宙モノはどんなお題でも詠めるようで、毎年一人くらいは居ます。

東京都世田谷区、主婦、保立の牧子(70)
難病治療に関わる宇宙での実験が題材とのこと。
歌会始のわっかりやすい面白みとして、「和風そのものの和歌の詠唱に外来語のカタカナが入ってくると不思議な空気になって時空がゆがむ」ってのがあります。
宇宙やら医学やら、なにやら難しげな専門用語が和歌に入ってくるとこれはワンチャン面白い空気になる可能性があります。

埼玉県所沢市、農業、若山の巌(74)
お、今年は70代になって初めて農業者が登場です。
詠むのは田んぼアートのこと。所沢にはスポンサーが付くほど大きな田んぼアートの名所があるんですね。そこで今年画題になったのはラグビー日本代表の絵柄。
農業者が地元の田んぼアートを通してラグビーのことも詠み込んでる歌だとしたら、職業的な視点と地元ネタと時事ネタを全部入れ込めるっていうなかなか多角的なワザあり作品になっているのでは。

そして今年の最年長。
三重県四日市市、主婦、森の紀子(74)
19歳から短歌を詠み始めたという森さん。自宅から望む茶畑と伊勢湾の風景を詠みました。
当日は夫と次男と一緒に上京する予定だとか。いいですねえ。長男が来ないってのも良い。実に味わい深い日本平民の参内の在り方じゃないでしょうか。

平民のあとはプロの歌が披露されます。
今回のゲスト歌人「召人」は、歌人の栗木京子さん(65)。
さんざんっぱら素人の歌を聞いた後なので、「さすがプロ」と思えるテクに注目です。

そのあとは皇族方の歌
例年だと皇太子と皇太子妃は必ず詠まれてましたけど、今年はどうなるんでしょ。
皇嗣の歌がこれから定例的に詠まれるとしたら、これまであまり披露されなかった秋篠宮の歌を楽しむことができます。ダークホースの可能性あり。

クライマックスは天皇と皇后の歌
美智子前皇后は

「語るなく重きを負いし君が肩に 早春の日差し静かにそそぐ」(平成30年)

こんな感じで天皇のことを傍らから見守った視点で「きみ」(youかつemperor)という言葉を歌いこんだガチインペリアルラブソングの名手でした。
雅子妃は皇太子妃時代には愛子ちゃんのことばっかり歌ってたイメージがありますが、皇后になってどんなのを詠んでくるか注目です。

天皇の歌(御製)はだいたい、去年の印象に残った出来事を素直にそのまま詠んだものです。
今上天皇は皇太子時代からそんな感じのエンペラーソングだったので、今回も踏襲されるものと思われます。

天皇と皇后は完全に特別扱いで、皇后の歌は2回、天皇御製は3回繰り返して詠まれます。
フェスのトリのバンドだけ特別にアンコールが許されるようなもんです。
繰り返すにしたがって少しづつ変わっていく、そして多重的に倍音を増していく節回しをご堪能あれ。

歌会始がお開きになるとすぐに来年のお題が発表されます。
きっと皆さん、「おれも一つ応募してみようかな」と思っているはず。

応募方法は非常にシンプル、「半紙に毛筆で書いて、宮内庁に郵送」。

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原則的にこれ一択です。毛筆じゃないと失格なのでご注意あれ。

書道セットを用意して待て。
2020年の歌会始は1/16(木) 午前10:30よりNHK総合で生中継です。


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