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歌会始2021 令和3年は疫病というゲストをお迎えしまして。- Without the Crown, With Corona,

3か月遅れですが、あけましておめでとうございます。

毎年正月にやっている宮中行事「歌会始」。
この古式ゆかしく、それゆえに妙ちくりんな行事を僕は毎年見ているわけですが、今年はコロナの影響で3月は23日に延期して開催と相成りました。

今年は歌会始の無い、コロナ禍中でのお正月でした。
なし崩し的に「2021年」という響きにも慣れてしまいましたが、心のどこかで「実はまだ年が明けてないんじゃないのかな」ってもやもやしています。

ステイホームで季節の移り変わりも、いま何曜日なのかも感覚が鈍り、
繰り返すzoom飲み会とweb会議で、いま自分はどこにいてどこの誰と話しているのだろうかと距離感覚が麻痺してきます。

昨年は疫病のおかげで人類史上もっとも次元がゆがんだ年だったといえましょう。

さて、毎年1月に次元がゆがんでいる場所があります。
それが歌会始。1000年前からやってる宮中の和歌の行事に、なぜか戦後民主化で平民も参加するようになったのが次元の裂け目の開いた瞬間。

静謐かつ奥ゆかしい宮中に響く、いいミカンができたよ、とか、田んぼアートを見たよといかいう和歌。

この年明け早々の一時間、中世も現代も、皇族も平民もすべてが溶け合う、奇跡のような次元のはざまが誕生するのです。今年は趣向を変えて古代より祭の中心となってきた「疫病」なる特別ゲストをお迎えし、オンラインでの参加も可能となったようですよ。

では、例年よりちょっと遅れましたが今年も参りましょう!
歌会始2021!

令和3年のお題は「実」

招待者数は、講書始は前回の54人から18人に、歌会始は101人から5人に縮小。
今年は、恐ろしく退屈そうに儀式をご覧になってる外国要人の方々は見れなさそうです。
そこで残ってる5人のゲストってどんな人なんだろうか。

今回の選考対象は1万3657首(うち海外71首、点字16首)

マスクで顔を隠し、御簾をアクリル板に変えた宮中。
歌を詠みあげる披講はフェイスシールドをつけて行うそうです。ダフトパンクの世界だ!
とにかくやり続ける、これが宮中行事の在り方。ナウシカの世界に皇室があったら、あのブルドッグみたいなマスクつけて平然と歌会始やってるでしょう。

今年の入選者は次の方々。

新潟市江南区の高校2年生、藤井の大豊(17)
書道の授業に取り組んでいる心情を読んだという今年最年少の高校生。
彼の在学する新潟の高校は過去5人の歌会始入選者を出している名門。国語の時間に短歌教育に力を入れているそうな。歌会始入選も内申点に繋がったりするんでしょうか。
藤井君、歌の参考にするのは「J-POPの歌詞」と明言しており、和歌と歌謡曲の近接性と現代和歌のJ-POP化が裏付けられたことになります。好きな曲と書道の情景が一致したことに感動した歌だそうで、そこにも注目。

長野県飯田市、木下の玲奈(24)
飯田もちらほら入選者を出す市ですね。と、思ったら木下さんは2015年入選者のお孫さんだそうで、幼少のころから師弟関係らしいですよ。歌会始の名門は長野県南部にありました。
スマホにメモしながらたくさんの歌を詠んできたという木下さん。胸先に構えるiPhoneは短冊みたいで、現代の歌人はここにありといった情景です。

東京都練馬区、吉田の直子(24)
聖心女子大学4年生でいらっしゃいます。お嬢様っぽいキラキラした歌をぶちかましてほしいですね。
この年代が続くのは非常に稀。コロナのこともあり、若くて明るくてやさし気な歌を多くとったのではと推測されます。

毎年のように、ここで年代が飛びます。
30、40歳台は入選狙う方にはお勧めですよ。
逆にこの世代で入選しとかないと、後半どんどん歌歴の長いベテランとの競争になっていきます。

お次はそのものずばりコロナの歌だそうで、
広島県三次市、山本の美和(53)
会社にお勤めの山本さん。新型コロナウイルスの感染防止対策がとられる中、窓口業務にあたっているときに感じたことを歌にしたということです。八雲たつ窓口の天井にビニール垂らすそのビニールを。

東京都、歯科医師、石井の豊彦(56)
毎年一人はいらっしゃいます、医療関係の方。このご時世、内科の先生とかだと参列できなかったかもですね。ちなみに、毎年入選者は宮中に招待されて自分の歌が詠みあげられて披露されるのを聞くわけですが、なぜかこれまで欠席者を見たことがありません。当日来れない人は入選できないのかな。今年はオンライン参加も可能だそうですが、その場合は松の間にゼーレよろしくディスプレイが並ぶのでしょうか。

横浜市、主婦、松山の紀子(58)
不妊治療のために仕事を辞めたあと歌を作り始め、今回は現代のデジタル社会の一風景を切り取った歌とのこと。新聞の取材によると「お題の「実」を違った角度から詠んだ」^_^とのことで、自らハードルを上げてくるパワーファイターです。

埼玉県鴻巣市、元高校教諭、渡辺の照夫(67)
学校の先生も毎年一人くらいいらっしゃいます。やっぱり国語の先生なことが多いですね。
だいたい生徒にものを教えてる時の情景をストレートかつ卒なく詠っています。

三重県伊勢市、主婦、加藤の京子(71)
旅行と短歌が趣味だそうで、奥入瀬渓流や白神山地など、東北旅行で目にした風景を取り上げたとのこと。
旅行しながら詠む、というと吟行という言葉があるように俳句の専売特許みたいになってますが、俳句が生まれるずっと前から旅と歌はセットだったわけですねえ。歌で旅を記録するっての、いいですね。

福井県小浜市、小浜町並み保存資料館ガイド、杉崎の康代(76)
40歳代から和歌を詠んできた杉崎さん。2011年には歌集もご出版になってます。
歌会始には10年間の投稿を続け、晴れて今年が初入選。
お嫁に来た際の義母さんとの思い出を詠まれたそうです。お題を聞いてぱっとひらめいた情景を推敲して投稿なさったとのこと。今はお亡くなりになった義母さんの思い出を和歌の形で残したいという動機、31文字の持つ可能性を語る作品となるでしょう。

今年の最年長、
秋田市の元県職員、柴田の勇(80)
青春時代を東京農大で過ごされた柴田さん。入選歌は、木造の旧兵舎を利用した薄暗い実験室で、実験器具の目盛りを読み取ろうと明るい窓辺へと体を寄せた学生の姿を詠みました。
実験の「実」を取ってきましたね。歌にのって甦るおじいちゃんの青春もの、文化そのものです。最年長は歌歴もさることながら、人生歴の厚さを思い知らされる堂堂たる名歌に注目です。

NHKのど自慢でも、素人の後にはプロの歌のコーナーがあるように、歌会始でも一般入選作品の後はプロのゲスト(選者と召人)の歌が披露されます。さすが、という技巧と着眼点にご注目。

後半には皇族方の教科書通りの歌が数人代表して披露されます。
最近注目なのは秋篠宮皇嗣殿下。
彼はわりと頻繁に、歌の中に父や祖父を詠み込んできます。
「じいちゃんの思い出」を詠んできたりしますが「それって昭和天皇なんだよなあ」とか想像するといろんな実家があるもんだなという気分になります。

ラブソングだけで1000年続くカルタを作っちゃうこの国。週刊誌的な視点だと、眞子内親王が恋の歌を詠んできたりしたら平安と令和が圧縮されたみたいで激アツですね。

ラス前は鮮やかなドレス姿が予想される皇后陛下。
世界平和!愛!わが子!といったミスチルみたいな歌詞を格調高くお詠みになります。ロイヤルマスク(不織布)から覗く眼光にもご注目。
皇后のお歌は2回繰り返して読まれます。

歌会始フェスのトリは天皇陛下。
僕、令和には慣れてきたんですけど、まだ陛下を見ても「皇太子やん!」と思ってしまうのですが皆さんいかがでしょうか。そろそろ慣れたい。
今上天皇御製は3回、専用の節回しで長々と朗詠されますので、その間に慣れましょう。

今上陛下は意外とストレートな歌風が特徴です。J-POPでいうなら湘南の風かよ!ってくらいどストレートかつ強い。堂々のエンペラーソングをご堪能ください。


今年の歌会始は3/26日(金)、午前10時からNHKで生中継です。

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