ともしび

「これから行くんだけど」目の前に立つ2人がくいっと手首を傾ける。
「すぐ片づける!」即答して机上の書類をそそくさとまとめ始める。数分後に3人で「お先に」と退勤すると、「あらあら今日も中性3人組が」と声をかけられた。

 高田さんは朴訥な人。一語一句考えながら話す彼は、話術が必要な職場で異彩を放っている。そしてド天然。人生2度目のパーマをかけ、久々にオシャレしてみた私に向かって「急に髪が増えましたね」なんて真顔で言ってしまう。10コも年上なのに、ついタメ口をきいてしまうのだ。私は職場で高田ファンクラブを発足し、数名の会員と共に、高田さんの日々の観察や情報交換に勤しんだ。面白言動には事欠かない。
 高田さんの大の仲良しは長本さん。あだ名は「マロ」。見た目同様、人が良く穏やか。理系同士で波長も合うらしい。2人とも既婚者なので、帰り道にちょっと飲み屋に立ち寄るくらいだが、短時間ながら愚痴をこぼし、厳しい日々を乗り越えてきたそうだ。高田さんいわく、「1年のうち270日は長本さんと飲みに行った気がする」とな。行きつけは立ち飲み屋。椅子のない店とは、立ち食い蕎麦屋しか知らなかった。
 そして私。周りからは「男の中の男」とほめられる事が多いが、女である。まあ、職場の女性陣は皆、強い。「女々しいは、男々しいと書くべきよ」と豪語する先輩もいらした。
人とのしがらみやら研修やら雑務やらでいつも何かに追われるような職場で、派閥やもめ事もあったが、私達3人はよく飲みに行った。

 時には自然を満喫しようと、花見で有名な公園に、各自樽ビールを抱えて飲むという企画も立てた。飲めば暖かくなるからと、無謀にも2月に決行したが、やせ型の2人は頻繁にトイレ往復を繰り返し、その結果、最後にはトイレ前で樽を抱えて飲むハメに。
また、たまには椅子のある店でゆっくり飲もうと、休日には遠出もした。並んで座る電車内で、「高校生の時から、中身が全く成長していない気がする」と高田さんが言うと、同感だと長本さんが大きく頷く。ウルトラマンをご長男(幼児)と見ていると、思わず涙ぐんでしまうとも。この回はぜひ見るようにと念を押されて電車を降りる。「撃つなアラシ」題名からして何となく想像できるなあと思いつつ。

 店を決めていない時は、とにかく早く飲みたい長本さんが、灯りに心惹かれていく。「あそこ光っているよ」と、線路から見かけた川の土手に降り立てば、屋台あり。乾杯後に、ふと、「俺たちどういう風に見えるのかな」と高田さんが問い、しばし考えた長本さんが「教授を囲む学生2人」と珍回答。1年毎に若干の異動がある職場だったので、3人でいられる幸せを、日々、噛みしめながら過ごした。このはかなくも輝ける思い出は、会えなくなった今でも私を温めてくれている。(1152)
■お約束■
①「明かり」「灯り」「燈り」のいずれかの文字を文中に必ずいれること。類語不可、タイトルだけ、も不可です。
例/タイトル「街の灯り」などでも
内容がテーマに沿っていないものはNGとなります。
②「明」「灯」「燈」「あかり」「アカリ」もテーマに沿った意味であればOKです。
③※固有名詞や人名のみは不可とします。(あかりちゃん、明子さんなど)
④ハッシュタグ #冬ピリカ応募
を必ずつけること!
⑤過去作でも応募可能ですが、必ず新規記事としてテキストを新しくしてご応募ください。(ハッシュタグ見逃しを防ぐため)
⑥この記事を文末に張り付けてください。


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