入院患者の血糖管理

入院患者の血糖管理

・高血糖は、既知の糖尿病が無くても、感染、外科手術、塞栓症・虚血(心筋梗塞、脳卒中など)で惹起される。
・高血糖は、易感染性、感染の増悪、細胞障害、炎症、創傷治癒遅延、浸透圧利尿による体液量や電解質異常をきたす。
・低血糖は、不整脈やそのほか心イベントを誘発する。入院中の死亡率上昇に関与するといわれる。
・糖尿病の疑いや、診断されている場合、病歴を詳しく聴取する。
・身体所見:入院時ルーチンとして、身長、体重、BMI、血圧(起立性低血圧の有無)、眼底検査、甲状腺触診、皮膚診察(黒色表皮腫、インスリン注射痕)、足診察(視診、足背動脈・後脛骨動脈の触診、膝蓋腱反射やアキレス腱反射の有無、振動覚の評価)
・入院時検査は、HbA1c、毎食前・眠前の血糖測定など。
・マネジメントとしては、重症患者の場合は、140~180mg/dLを目標値とする。非重症患者の場合は、同様に140~180mg/dLとするが、入院前より厳密に管理されていればより厳しい値とする。
(参考:血糖正常化を目指すHbA1c6.0%未満が目標の場合は、空腹時血糖80~110、食後2時間値80~140。合併症予防のためHbA1c7.0%未満が目標の場合は、空腹時血糖110~130、食後2時間値140-180。)
・内服中の経口血糖降下薬は、基本的には入院時に中止し、インスリンを開始。ただし、血糖コントロールが良好で、入院理由の疾患が重篤でなく、予定入院期間が短い、検査のための絶食の予定がない等であれば、継続できる。その際も、血糖測定を行いコントロール不良の場合は、内服中止しインスリンへ移行する。
・重症患者では、インスリン持続静注を使用すべきである。頻回な血糖測定が可能であれば通常安全とされる。
・非重症患者でも、インスリン皮下注射で数日間コントロールがつかない場合は持続静注に変更すべきである。
・施設によってプロトコルが異なる。
・インスリン皮下注射は、非重症患者で多くの患者に有効。
・基礎インスリン(持効型または中間型を用いる)、追加インスリン(絶食患者には用いない。超速効型または速効型を用いる)、補正インスリンを使用する。
・具体的な方法・・・
1日投与量を決める。
→入院前からインスリンでコントロールされている:入院前の1日の総インスリン量
 インスリン未使用者またはコントロール不良な場合:0.4~0.6U/kg/日。腎不全(eGFR<45)の場合は0.25。低血糖傾向、高齢者、痩せ、1型糖尿病の場合は0.3。肥満、ステロイド使用、高血糖傾向の場合は0.6)
 インスリン持続静注から移行する場合:最近6時間の投与量を24時間換算したものの80%
・分布を決める(基礎インスリン量:追加インスリン総量=通常1 : 1)
→経口摂取可能な場合:基礎インスリン(長時間作用型を眠前)、追加インスリン(超速効型を毎食直前)
→持続経腸栄養や中心静脈栄養の場合:基礎インスリン(速効型インスリン6時間毎または長時間作用型を眠前)。1日投与量のすべてを基礎インスリンとして投与。
→末梢静脈栄養の場合:基礎インスリン(速効型インスリンを6時間毎または長時間作用型を眠前)。1日投与量の半量を基礎インスリンとして投与。
→経口摂取が予想できない場合:基礎インスリン(長時間作用型を眠前)、追加インスリン(毎食直後、充分量摂取できたら超速効型インスリン。半分程度摂取できたら予定の半分量。1/3以下の摂取の場合は投与しない)
・1日投与量と、食前血糖より、補正インスリンを上乗せする。

・従来のインスリンスライディングスケール(基礎インスリンや追加インスリンを用いずに補正インスリンのみで行う方法)は、高血糖になる傾向が強く推奨されない。

・低血糖のリスク(高齢者、腎障害など)に注意する。
・ストレスによりインスリン需要が入院前より高くなること、急性期の疾患が改善すると需要が急激に少なることに注意する。

・周術期管理としては、血糖目標は80~180。
・手術前日の眠前または手術当日の朝の基礎インスリンは半量にする。
・手術当日朝の経口血糖降下薬、追加インスリンは中止する。
・絶飲食の間は、4~6時間毎に血糖を測定し、インスリンスライディングスケールを用いる。

・多くの場合は、退院後は入院前の投薬を継続する。
・入院前の管理が不良の場合は、HbA1c目標などを参考に、追加や継続を検討する。

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