「レッドスカーフ・ジンジャーガール」第3話

◯村からジェイコブ家へ続く道
  村から続く道。ヒューイ、荷物を背負って歩く。辺りを警戒し、
ヒューイ「撒いたか?」
  と近くの藪から子供四人が登場。ビクッとするヒューイ。
子供A「いたぞ、捕まえろ!」
子供B「モフモフさせろー!」
  とヒューイを追いかける。

◯ジェイコブ家・前
  ヒューイと子供たち、家の回りをグルグル。
ヒューイ「クソ! 何なんだ、この村は!」

◯同・二階ミンディの部屋
  窓の外、庭でヒューイが逃げ回る。カーテンがそよぎ、一匹の丸い虫が部屋の中に飛んでくる。
  虫、ベッドに近づき、寝ているバージニアの口に飛び込む。
  バージニア、口を閉じるも苦い顔をして舌を出す。虫、慌てて飛んでいく。バージニア、目を覚まし、
バージニア「うげぇ……変な夢……」

◯同・一階リビング
  ジェイコブ、テーブルで紙に何かを書いている。バージニアが階段を降りてきて、
バージニア「腹減ったー」
ジェイコブ「(イスから立ち)おお、目が覚めたか!」
バージニア「うわっ、ジジイの亡霊が見える」
ジェイコブ「失礼な! わしゃまだ生きとる!」
  バージニア、テーブル席に着く。
ジェイコブ「弾、撃たないでくれたってな」
バージニア「うん。別の使い方をした」
  ジェイコブ、バージニアにスープの入った皿とパンを提供。
ジェイコブ「ヒューイ殿から全て聞いた。本当にありがとう。おかげでしばらく孫の面倒が見れそうだ」
バージニア「(飯にがっつき)ウメェ!」
ジェイコブ「ハハハ。丸二日も寝とったからな。そらウメェだろうよ」
  と玄関からミンディが入ってきて、
ミンディ「お姉ちゃん!」
  とダッシュ。バージニアに抱きつく。バージニア、飯をブッと吹く。
ジェイコブ「こらミンディ。病み上がりだ。優しくしなさい」
ミンディ「ごめん。でも、ありがとう! 村の人たちも感謝してた。私の家族もきっと天国で喜んでるよ」
バージニア「うん、そうだな。きっとそうだ」
  とミンディの頭をなでる。ミンディ、バージニアの額に入った稲妻のような傷跡を指差し、
ミンディ「その傷大丈夫?」
バージニア「傷?」
  ジェイコブ、手鏡を渡して、
ジェイコブ「だいぶ派手にやったな」
バージニア「(鏡を見て)おお、ヒビ入っとる!」
  バージニア、部屋を走りながら、
バージニア「あいつどこ? 自慢せねば」
ミンディ「ヒューイちゃんなら屋根の上にいるよ」

◯同・屋根の上
  ヒューイ、屋根の上で遠くを見ている。バージニア、屋根裏の窓から顔を出し、
バージニア「見ろ、ヒューイ! 顔バッキバキ! お揃いだな!」
ヒューイ「おう。しばらく取れねえだろうな」
  バージニア、ヒューイの隣に座り、
バージニア「こうなるとカッコイイ異名がほしいな。顔バキの犬使い、ヒビ割れし女侍、顔がケツの女……。うーん、いまいち」
  ヒューイ、大あくび。バージニア、持ってきたパンを食べながら、
バージニア「そういや、なんで屋根の上にいるんだ?」
ヒューイ「買い物に行ったら村のガキどもに追い回されてよ。逃げてきたのさ。これだからガキは苦手だ」
バージニア「やはり時代はモフモフ商売か。一モフにつき銅貨一枚。抱きつき一回、銅貨が二枚(指折り数える)」
ヒューイ「オメーなぁ……。顔にヒビ増やすぞ?」
  と屋根の下から「オーイ」という声。下を覗くとジェイコブが手を振っている。

◯同・一階リビング
  ジェイコブ、テーブルの上に紙を広げ、
ジェイコブ「頼まれとったもんだ」
  バージニア、ミンディ、ヒューイ、紙を覗き込む。それは魔女の家までの地図。
バージニア「地図?」
ヒューイ「近くの山に魔女が住んでるらしい。面白そうだから会いに行こうぜ」
ジェイコブ「正直やめておいた方がいい。あれは人を食うって話だ」
ヒューイ「ならオレは平気だな」
バージニア「(嫌そうに)えー。私はどうなる?」

◯同・家の前
  ヒューイに跨るバージニア。ミンディ、それを見て、
ミンディ「もう行っちゃうの?」
ヒューイ「帰りにまた寄るさ」
ミンディ、ジェイコブ「いってらっしゃーい!」
  と二人を見送る。

◯魔女の山・山道
  ヒューイとバージニア、山道を進む。
バージニア「そういや今朝すごく変な夢を見てさ」
ヒューイ「どんな?」
バージニア「犬の目ん玉を食う夢」
ヒューイ「……夢でよかったな」
バージニア「だなー」
  木の上で怪しいカラスが二人を監視。

◯同・魔女の家
  森の中の小さな家(カボチャが魔女の帽子を被ったような外観)。カラス、窓際で窓ガラスを叩く。窓を開けた魔女リズ、カラスと会話(リズの姿は手元、口元しか見せない)
リズ「そう。犬と人間が」
カラス「カーカー!」
リズ「さて、どうしてくれよう」

◯魔女の家・前
  地図を見るバージニアとヒューイ。藪をかき分け、家を発見。
バージニア「あった! ちっこい!」
ヒューイ「魔女らしいな」
  と家の玄関の扉が静かに開く。そこから巨大な目が見える。
魔女「ヒヒヒ」
バージニア「うわ」
  扉からヌルッとした動きで、巨大な手や足が出てくる。そして全身が顕わになる。それは年老いた巨大な魔女(正体は風船)
魔女「ヒッヒッヒ。美味そうな犬じゃのう。どれ、頭から食ってやろうか!」
  と両手を広げ、脅かす。
バージニア「うーん、そっちかー。犬を食うのかー」
ヒューイ「噂と違ったな」
魔女「……あれ? 驚かないの?」
ヒューイ「それ、風船おばけだろ?」
魔女「ギクッ」
ヒューイ「育ての親が魔法使いでな。小さい頃、よくやられたのさ」
  とバージニア、刀を抜き、魔女に化けた風船おばけを突っつく。風船に穴が空き、しぼんだ残骸が玄関までの道を描く。
  玄関には魔女のリズが立っている。二百歳を超えるロリババア魔女。
リズ「ふーん。変わった連中ね。何者なの?」
ヒューイ「オレは狼のヒューイ。犬じゃねえぞ。んで、こっちが」
バージニア「顔面ヒビ割れケツ侍、バージニア!」
  とバージニア、格好よく刀を構える。
ヒューイ「だそうです」
リズ「……まあいいや。あがんなさい」

◯同・玄関
  リズを先頭にバージニアとヒューイが続く。家の内部は外観よりも遙かに広い空間。
バージニア「広々!」
ヒューイ「実に魔女らしい」

◯同・応接間
  荷物を脇に置き、ソファに座るバージニアとヒューイ。リズの召使いたち(ザトウムシのような長い足を持つ毛玉)がテーブルに紅茶とケーキを運ぶ。ヒューイには骨付き肉。
バージニア「わあ。ごちそうだ」
リズ「で、アナタたち。いったいうちに何の用? 説明してくれる?」
  テーブルの上で空になった皿(時間経過)。
リズ「ふーん。つまり、アナタたちは善良な語り部で、悪い語り部から身を守るために、魂命弾を作れる人を探していると」
ヒューイ「そうだ。やってくれるか?」
バージニア「バクバク(ヒューイに出された肉を横取り)」
リズ「もちろんお断りよ」
ヒューイ「どうして?」
リズ「死者の魂を弄るのは結構な冒涜よ。精霊たちを敵に回すわ。そしたら私、森を追い出されちゃう」
ヒューイ「そうか。なら一緒に旅に出ないか?」
リズ「旅って……何のために?」
ヒューイ「ある人物を探している。幼い頃、バージニアに呪いをかけ、彼女を神話の一頁に閉じ込めた男を」
リズ「ちょっと待って。それじゃまるで彼女が……」
ヒューイ「そう。魔獣はオレじゃない。バージニアの方だ」
リズ「嘘よ。ありえないわ。だってグルム神話の第六章には……」
ヒューイ「人の姿をした魔獣は出てこない、だろ? だがオレたちの持つ神話の断片は、近年新しく作られた第七章の物だ。ほら、これを見てくれ」
  と荷物から巻物を取り出し、リズに渡す。
リズ「……(じっと読む)」
ヒューイ「どうだ?」
リズ「とても精巧に出来てる。でも、たぶんこれ贋作よ。第七章は存在しないわ。それを作れる唯一の人物は二百年前に亡くなってる」
ヒューイ「グルム伯爵のことか? 奴はまだ生きてる。オレたちの旅の目的は、奴を捕まえて呪いを解くことなんだ。だから協力してくれ」
リズ「妄想もいいとこね。話にならない」
ヒューイ「しかし他にも証拠が!」
リズ「悪いけど協力できないわ。他を当たって頂戴」
ヒューイ「……そうか。邪魔したな」
  リズ、窓から去っていく二人を見送ると、部屋を歩き回る。
リズ(古代人の信仰を記したグルム神話。その偽典『第六章』の著者、グルム伯爵は、語り部と魔獣の呪いを作り出した張本人。世界中に厄災をばら撒いた邪悪な魔法使い。それが蘇ったですって? あり得ない!)
  リズ、壁に飾ってある絵画を眺める。絵にはリズと六人の仲間たち。
リズ(二百年前、私は奴が死ぬところをはっきりと目撃した。そのために多くの犠牲を払った。仲間たちを大勢失った)
  絵画の下に書き文字『泣き虫リズへ。どうせまた泣いてるんでしょ? でも忘れないで。皆あなたのことが大好きだった』。リズ、絵にそっと触れる。
リズ(……真相はどうあれ、私には確かめる義務がある)

◯魔女の山・山道
  山道を下るバージニアとヒューイ。
ヒューイ「仕方ない。他を探してみるか」
リズ「ちょっと待ちなさい!」
  とリズ、山道を駆け下りる。絵に描かれていたのと同じ服装。
ヒューイ「なんだ?」
  リズ、息を切らせながら、
リズ「やっぱり心配だから、しばらくついて行ってあげるわ。その代わり」
バージニア、ヒューイ「?」
リズ「(バージニアを指し)その席を譲りなさい!」
バージニア「えー!(心底嫌そうに)」

◯どこかの洞窟
  暗い洞窟で水晶玉を眺める怪しい影。水晶には、山道を下る三人。ヒューイの背に乗るリズ、歩くバージニア。
リズ「思ったより乗り心地いいわね」
バージニア「(ヒューイに)なあ、二人乗せて歩くのはどう?」
ヒューイ「ざけんな! 殺す気か!」
  水晶玉に手をかざす蜘蛛女、舌なめずりして、
蜘蛛女「よいぞ。そのまま、わらわの元に来い。今宵は狼の丸焼きじゃ」

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