「堕天追放、魔具バトル!!」第1話

登場人物
ジョバンニ(20) 主人公
タリン(1万34) 女神
マーゴット(16) シスター
チンピラ三人組(20) 敵役(2話)
マッドヘイター(15) 敵役(3話)
ブラックノーズ(18) 敵役(3話)

◯タリンの書斎(OP)
  ピョコピョコと左右に動く、タリンのアホ毛。
タリン「フフーン。どうじゃ、ジョバンニよ」
ジョバンニN『天界に連れて来られ……』
  呆れ顔のジョバンニ、片手に紙きれを持っている。かれの目の前でゆれるアホ毛。
タリン「え? 驚きすぎて声も出ない? なるほどね~。なるほど、なるほど」
ジョバンニN『天使になること早四年』
  タリン、ドヤ顔で得意そうに、
タリン「これはもう、ビックラこいて当然なのじゃ!」
ジョバンニN『オレの天使人生の半分が、この女神クズに奪われている!』

◯タリンの書斎
  丸いドーム状の書斎。湾曲した壁一面に本棚が並ぶ。天井の中央部分は丸窓で、そこに星空が見える。部屋の中は散らかり放題(マンガ、雑誌、フィギュア、ゲーム機、ゲームソフトなど)
  女神タリン、散らかった床の上に立ち、両手を腰に当てて、ジョバンニの前でふんぞり返っている。見た目はチビ、髪は緑色のロング、モサモサ。一週間洗ってないパジャマを着用。だらしない、でもウザ可愛い奴。
  天使ジョバンニ、タリンの前でうんざりした顔で立っている。見た目は平均的な16歳の日本人、髪は黒のショート。天使専用のスーツを着用。首には銀色のチェーンネックレス。比較的真面目で綺麗好き、でも口が悪い。
  ジョバンニ、手に持っていた紙きれを眺める。紙には、下手くそな文字と絵が描いてある。内容は以下の文面。
紙きれ『昔々、宇宙にひとつの星があった。百年前の大戦争で、魔法使いが滅びた星。悪戯の女神の寵愛を受けた惑星、バズリテーナ。その星に残された無数の遺産。魔法の込められた道具【魔具】(ここで切る)』
  ジョバンニ、紙からタリンへと目を移し、
ジョバンニ「で、タリン様。何なんスか、これ?」
  タリン、左右にゆらゆら揺れながら、
タリン「あのなー、これなー、実はなー。書いたの“わし”なのじゃよ」
ジョバンニ「はぁ」
  タリン、ウキウキで紙を指さし、
タリン「どうよこれ! すごくね? 文才ありありじゃね? あり寄りのありじゃね?」
  ジョバンニ、興味なさげに、
ジョバンニ「へー、そうなんスか。そりゃすごいっスねー」
  と紙を丸めて、ポイッと投げ捨てる。
  タリン、半泣き半笑いで、それを追って走り出す。
タリン「ちょ、扱いwww 何すんじゃテメーwww」
ジョバンニ「笑いながら半ベソかかないでくださいよ。気持ち悪いな」
タリン「一生懸命書いたというのに……このクソボケがー!」
  とタリン、床の上で四つん這いになり、しわくちゃになった紙を必死に伸ばす。
ジョバンニ「はいはい、そんな落書きどうでもいいですから」
タリン「どうでもよくない!(プンスカ)」
ジョバンニ「それより、いいかげん溜まった仕事を片付けてください。上からめっちゃクレーム来てますけど?」
タリン「うるへーボケ! こちとら神様じゃぞ! 下級天使の分際でごちゃごちゃ抜かすんじゃねーやい!」
  と両手の中指を立てながら、床から立ち上がる。ジョバンニの顔の前で紙をヒラヒラさせて、
タリン「さあ、もう一度この紙をよく読むのじゃ。わしの美文をとくと味わえ」
ジョバンニ「はあ……(ため息)」
  とジョバンニ、紙に目を通す。
タリン「どうじゃ?」
ジョンバン「いや、何度読んでも同じっスわ。これゴミカスです」
タリン「ゴ、ゴミカス……(涙目)」
ジョンバン「まあ作者がゴミカスだから当然の結果ですね。で、仕事の話なんスけど――」
タリン「ひ、ひどい! ひどすぎる!」
  とタリン、ジョバンニの話を遮り、床の上にガックリと両手両膝をつく。
  タリン、涙を流しながら顔を上げて(片手に隠し持った目薬が見えている)
タリン「どうしてジョバンニはいつもいつも、わしのことを悪く言うのじゃ! 下僕の分際で! 下級天使のくせに!」
ジョバンニ「はいはい、その言葉そっくりお返ししますよ」
  タリン、床に座ったまま、両腕を振り回し、
タリン「ほら、またわしをバカにした! わしゃ悲しいぞ。お主はわしの専属奴隷……じゃなかった。専属天使じゃろ? もっとこう……わしのことを褒めて育てるとか、気の利いたことはできんのかァ~?」
ジョバンニ「いや、褒めて育てるって……。タリン様、いま年はおいくつでしたっけ?」
タリン「わしか? えーと、たしか……一万と飛んで三十四歳じゃな!(ドヤ顔)」
ジョバンニ「結構イってんな、オイ! それ十分育ちきってるでしょ。もう手遅れですよ」
タリン「そ、そんなことはないのじゃ! わしにはまだまだ伸びしろがある!」
ジョバンニ「ほーん……。なら溜まった仕事を片付けて、伸びしろを成長させましょう(ニッコリ)」
タリン「いや、それはちょっと……」
  と両手を前に出して拒否のポーズ。
  ジョバンニ、腰に手を当てて、説教モード。
ジョバンニ「そういうところですよ。仕事はしねえ、部屋は汚え、風呂には入らねえ。【神人】という上流階級に生まれながら、その実体は! 天界人の税金を食いつぶす社会的ニート、ダニ、ノミ、シラミ!」
タリン「ちょ、言いすぎじゃ! もうヤメレ!」
  とタリン、涙目でジョバンニのズボンにしがみつく。
ジョバンニ「この際だから言わせてもらいますけどね。正直オレ、あんたの面倒なんか見たくないんスよ」
  タリン、ズボンからパッと手を離し、
タリン「ガーン!(ショック)」

◯(イメージ)ジョバンニの天界転生
  現代日本の路上。子犬をかばい、車に轢かれて死ぬ16歳のジョバンニ。だが死後、天界に来て「異世界転生するか? 天使になるか?」で天使を選ぶことを決意した絵。
ジョバンニN『四年前、オレは一度死にました。死んで、天界に来て、第二の人生が始まった。ここで天使になると決めたんです』

◯元の書斎
  ジョバンニ、胸に手を当てて、
ジョバンニ「自分で選んだ道だ。たとえダメな神様の担当になっても一生懸命頑張ろう。そう思って天界で四年間、そのうちニ年間はタリン様の元で努力してきました。その点、あなたはどうです?」
タリン「……(アホ毛がシナシナ~)」
ジョバンニ「毎日オレのことを下級天使だとバカにしながら、その下級天使に尻拭いばかりさせて。自分はぐーたら遊んでるだけ。そんなに偉そうな態度を取るのなら、もう少しまともに“神様らしいふるまい”でもしたらどうなんスか? ねえ?」
タリン「……(うつむく)」
  タリン、床で正座したままションボリ。
  ジョバンニ、タリンの頭をゲシゲシ蹴る。
ジョバンニ「オイ、カスこら! 黙ってないでなんとか言ってみろや! それともアレか? もうぐうの音も出ねえのか? あぁん?」
タリン「ぐっ……ぐっ……」
ジョバンニ「ぐ? なんだ?」
タリン「ぐう゛ぉあー」
  とタリン、口を開いてダバーと血を吐く。
ジョバンニ「と、吐血したー!(驚愕)」
  タリン、手の甲で口を拭い、スッキリした顔で立ち上がる。片手にはトマトジュースの缶をこっそり所持。
タリン「ふぅ……いまのは効いたぜ、ジョバンニの旦那ァ……」
  とジョジョ立ちみたいなポーズで、ジョバンニの顔に指を突きつけ、
タリン「お主の言葉……コロナ禍におけるナイ◯イ矢部の公開生説教ぐらい、わしの胸に突き刺さったわい」
ジョバンニ「いや、あれが刺さるなら、あんた中身おっさんだよ」
タリン「だまらっしゃい! わしの気も知らんくせに、好き勝手に罵倒しおって! 神人の家に生まれるというのがどれほど大変なことなのか、お主にはわからんじゃろ!」
  と急に寂しそうな顔で、
タリン「……いや、これはお主に説いたところでムダな話じゃったな」
  とクルッと後ろを向き、後ろ手を組んで、天井の丸窓の外を見上げている。
  ジョバンニ、少し反省し、
ジョバンニ(そっちだって天使の苦労は知らねえくせに……。まあだけど……少し言い過ぎたか。これでも一応は神様だしなぁ……)
ジョバンニ「なあ、その……」
  タリン、後ろを向いたまま、
タリン「そういえば、お主言うとったな? このわしにもう少し“神様らしいふるまい”をしたらどうなのかと」
ジョバンニ「言いましたけど、それがなにか?」
タリン「それは今後わしにそうして欲しいと……そういうことか?」
ジョバンニ「ええ。できれば、その方が助かりますけど……」
タリン「うむ、そうか。わかった。ではその望み、叶えてやろうぞ。たっぷりと、ゲップが出るほど見せてやる。その神様らしいふるまい、とやらをのぉー!」
  とタリン、バッとふり返る。不敵な笑みを浮かべ、右手をジョバンニの方へと向ける。
ジョバンニ(な、なんだ? 急に身体が?)
  とジョバンニ、突然動けなくなる。タリンの念動力の仕業。
ジョバンニ「くっ……オレに何をした?」
  タリン、ニヤリとし、
タリン「フッフッフ……。天界人の中でも、神人の血を引く一族は特別な存在でのう。わしらには生来より不思議な力が備わっておるのじゃ」

◯(イメージ)神人の能力
  神通力の紹介。物を触れずに動かす「念動力」、遠くの物を見る「千里眼」、相手の心に話しかける「テレパシー」。
タリンN『人はそれを【神通力】と呼ぶ。内容は多岐に渡るが、例えば、念動力、千里眼、テレパシーなど。わしのように非力な神人でも、こういった力をいくつか身につけておるものじゃ』

◯天界・大神殿
  宇宙空間に浮かぶ、古ぼけた巨大な宇宙船。神人一族の専用住居【大神殿】。
タリンN『そして神々の住まう【大神殿】の領域内において、この力は増幅し強化される』

◯元の書斎
  書斎の中央に立つタリンとジョバンニ。
タリン「わしの暮らすこの部屋も、大神殿の中にある一室じゃ」
  と右手をゆっくりと上げていく。
タリン「当然、このようなことが可能となる」
  右手の動きに合わせて、ジョバンニの身体が浮き上がる。
ジョバンニ「ちょっ、待て……やめろ!」
  タリン、笑いながら右手をめちゃくちゃに動かす。ジョバンニ、空中でもみくちゃの大移動。
タリン「ファーッファッファッ! 見ろ、下僕がゴミのようじゃー! ざまぁみろなのじゃ~い!」
ジョバンニ「ぐおおお……」
タリン「ほ~れ、どうした? さっきみたく、わしを罵ってみろや! ほ~れ、ほれ」
ジョバンニ「ちょ、吐く! マジで吐くって! うっぷ!」
タリン「吐くな、バカ者! 吐くには早い! お楽しみはこれからじゃぞ!」
  ジョバンニ、空中で逆さまになってグッタリ。
  と床下からゴミをかき分けて、追放ポッドが現れる。楕円形の小型の宇宙船。ポッドは床の上で斜めに立っている。
  追放ポッドのドアが開く。ジョバンニ、念動力でポッド内部へ押し込められる。中のイスに手足を拘束され、身動きが取れない状態。
ジョバンニ「クソ、なんだよこれ……。タリン、テメー。いったいオレをどうするつもりだ?」
  タリン、狭いポッドの中を覗き込み、
タリン「お主にはちょっとした罰を受けてもらうぞ」
ジョバンニ「罰?」
タリン「うむ。これからこのポッドで、ある惑星に降り立ってもらう。そこで行われるのは、熾烈なバトル・ロワイヤル。魔法の込められた道具【魔具】を巡る、魔具バトルの始まりじゃ~!」
ジョバンニ「魔具って、あの紙に書いてあったな。……あっ! テメーもしかして最初からそのつもりで!」
タリン「んー、なんのことかのー?(ニヤニヤ)」
ジョバンニ「とぼけやがって! 汚えぞ!」
タリン「ファー!w わしの煽りに乗ったお主の負けじゃ! ちなみにお主の乱暴狼藉は全て録画してあるからのう。天使局に泣きついてもムダじゃぞ?」
ジョバンニ「チクショウ! ハメられた!」
タリン「というわけで、発射スタンバーイ!」
  タリンの合図で、部屋の壁一面に並ぶ本棚が一斉に移動。湾曲した壁面にそって弧を描きスライド。壁の一部が露出。その壁自体もスライドを始める。部屋の壁の3分の1が取り払われ、壁の裏から巨大な窓ガラスが姿を現す。
  窓の外には、天界を構成する九つの惑星が円形に並ぶ。その中央にデンとそびえ立つ巨大な世界樹、強烈な光を放っている。
  タリン、窓の外を指す(このときジョバンニは、斜め45度に傾くポッドの中で、足が下、頭が上。ポッドのドア側が窓ガラスの方を向いているため、彼にも天界の様子が見える)
タリン「見よ、わしらの住む天界は今日も美しい。世界樹もいつも以上に輝いておるぞ。まるでお主の旅立ちを祝福しているようじゃ」
ジョバンニ「ざけんな! 誰が旅立つか!」
タリン「文句の多い奴じゃのぅ。ほれ、お口チャーック!w」
  とジョバンニのイスの背後から布がスルリと伸びてきて、猿ぐつわをかます。
ジョバンニ「む、むぐー!」
  タリン、ポッドの前に立ち、
タリン「親愛なる我がしもべ、天使ジョバンニよ。そなたは二年間、このわしに誠心誠意尽くしてきた。その貢献にわしは心より感謝しとる」
ジョバンニ「ンー! ンー!」
タリン「じゃが、此度のわしに対する暴言の数々は、いかんせん目に余る。とうてい見過ごすわけにはいかんのじゃ。よって――」
  とジョバンニを指差し、
タリン「女神タリンの名において、そなたを堕天追放処分とする!」
  ジョバンニがもがく中、ポッドのドアが閉まり、ポッドが前後に180度回転(傾いたポッドの頭側が、天界の見える窓の方を向く。ジョバンニはこれから仰向けの状態で宇宙空間に発射される)
  タリン、ポッドの窓を覗き込み、
タリン「良いか。天界に戻りたくば、地上の魔具使いを全て打ち破り、その頂に立て!」
ジョバンニ「ンッ、ンンンー!(クソ、やめろー!)」
タリン「ドン勝するまで、帰ってくるなよー!」
  とタリンがノリノリで見送る中、窓ガラスをガシャーンとブチ破り、ジョバンニの乗ったポッドが宇宙空間に発射。

◯宇宙空間
  宇宙を超光速で突き進む追放ポッド。
N『昔々、宇宙にひとつの星があった』
  地球に似た惑星バズリテーナを目指し、追放ポッドが近づく。
N『百年前の大戦争で、魔法使いが滅びた星』
  追放ポッドが惑星の大気圏に突入。その衝撃で、ポッドが激しく揺れる。目を白黒させるジョバンニ。
N『悪戯の女神の寵愛を受けた惑星、バズリテーナ』
  ポッドの真下に、ひし形の島【クリスタル島】。その島を咥えるように大きく口を開いた、竜の横顔のような形をした大陸。広がる大海原。いい感じで空を覆う白い雲。
N『その星に残された無数の遺産。魔法の込められた道具【魔具】』
  島の地表に近づくポッド。猿ぐつわが解け、叫ぶジョバンニ「ぐおおおー!」。ポッド、地上に墜落。
N『これはその魔具を巡り、数奇な運命をたどる堕天使の壮大な冒険譚である』

◯森の中・着地点
  鬱蒼とした森で煙が上っている。木々の間、地面に転がる追放ポッド。ドアが開き、ドア枠の縁をつかむジョバンニの手。ジョバンニ、せき込みながらポッドから出て、地上に降り立つ。
ジョバンニ「クソ……ひでえ目にあった……」
  と背後で、追放ポッドの分解処理が始まる。ポッドがバラバラに崩れ、その場に変な植物がニョキニョキ生えてくる。
ジョバンニ「後処理は完璧ってわけか。ムカつくぜ」
  ジョバンニ、辺りを見回し、頭をかき、
ジョバンニ「しかしどこだよ、ここ。これからどうすりゃいいんだ?」
  と、どこからか着信音。
着信音「タンタカ、タンタカ、ターリーン♪」
  ジョバンニ、ポケットに手を入れ、スマホを発見。
ジョバンニ「いつの間にこんな物が。(画面を押し)もしもし?」
  スマホの画面に、ジュース片手のタリンが映る。後ろの方では清掃員の天使たちが書斎を走り回る。
タリン「(ジュースを飲み)ズゾゾー。いよう! 元気にしとったか?」
ジョバンニ「いや、元気も何も……別れてから10分も経ってねえだろ」
タリン「おお、そうじゃったな」
  とタリンの後ろに真面目そうな天使が映り込み、
天使「タリン様! いくら大神殿に防護バリアがあっても、窓ガラスを破るのはやめてください!」
タリン「(天使を見て)じゃから悪かったと言うとろうが!」
ジョバンニ「忙しそうだな。用がないなら切るぞ」
タリン「ちょ、待てやコラ! 人が親切に電話してやったというのに。そもそもお主、行く当てはあるのか?」
ジョバンニ「ねーよバカ。ブッ殺すぞ」
タリン「なんだかご機嫌が悪いのう。ってか、な~んでさっきからタメ口なんじゃ? わしゃお主のご主人様じゃぞ? 下僕なら下僕らしく敬語でワンワン鳴いてみせろや。ほーれ、ワンワン!w」
  ジョバンニ、カチンと来て、
ジョバンニ「だまれクソ虫。一丁前にジュースなんぞ飲みやがって。クソ虫はクソ虫らしく便所の水でもすすってろ」
  タリン、ウキウキで、
タリン「ヒェ~www 今日のお主はキレッキレじゃのぅ~。どうした? 何か嫌なことでもあったのか? わしでよければ、いつでも相談に乗ってやるぞ? どうだ~? ん~?」
ジョバンニ「ああああーッ! こいつ、マジでッ! ふんッ!」
  とジョバンニ、地面にスマホをたたきつける。スマホをめちゃくちゃに踏みつけ、完全に破壊。
  ジョバンニ、額の汗を拭い、爽やかな笑顔で、
ジョバンニ「ふぅ、スッキリした。さぁて、邪魔者もいなくなったことだし。この新しい世界で、癒やし系のスーパースローライフでも満喫しますかね~。森で畑を耕して~可愛い犬でも飼おうかな~っと。(上を見て)ん?」
  と空の彼方で光る何かに気づく。空から落ちてきた小型ロケット(ラグビーボールサイズ)がジョバンニの目の前に墜落。
  吹っ飛ぶジョバンニとタリンの叫び声。
タリン「たわけー! このバカチンがー!」
  小型ロケットの上部が開き、中から台に乗ったスマホがウィーンと出てくる。スマホの画面にはタリンの激怒した顔。
  砂まみれのジョバンニ、半身を起こし、
ジョバンニ「イテテ……」
タリン「政府の支給品を破壊するとは何事じゃ! 天界人の血税をなんじゃと思っとる!」
  とタリンの背後で窓ガラスの修繕作業する天使たち、タリンをにらむ。
  ジョバンニ、立ち上がり、服から砂を払いつつ、
ジョバンニ「国民の税金でゲーム買ってる奴に言われたかねーよ」
タリン「とにかく、そいつを破壊するのはやめるのじゃ。企画が成立しなくなるからのう」
  ジョバンニ、台からスマホを拾い上げ、
ジョバンニ「企画? 何の話だ?」
タリン「わしの動画企画じゃ。説明したじゃろ?」
ジョバンニ「何も聞いてねえぞ」
タリン「ほら、前にわしがカミチューブで動画投稿を始めたって話。今回はアレの延長じゃ」
ジョバンニ「カミチューブって……。あの地球で流行ってるサイトを天界人がパクったやつか?」
  タリン、大声で激怒(その背後で、ヤレヤレといった顔で撤収していく天使たち)
タリン「バッカモーン! パクリではない! インスパイアーじゃ! だいたい天界の方が文明が進んどるのじゃから、今の地球の方こそ、よっぽどわしらのパクリじゃろ!」
  ジョバンニ、耳がキーン。顔をしかめ、
ジョバンニ「あーはいはい、悪かったですよ。で、そのカミチューブがなんだって?」
タリン「登録者数がな……全然伸びんのじゃ……(ガックシ)」
ジョバンニ「はぁ」
タリン「そこで思い出したのが、惑星バズリテーナのことじゃった」

◯(イメージ)バズリテーナ秘話
  惑星バズリテーナとそれを支配するタリンの絵。タリンが地球儀に手をかざしているような感じ。
絵のタリン「ファーッファッファッ!」
タリンN『バズリテーナは、わしが管理するファンタジックな星のひとつでのぅ』
  部屋でゲームに熱中するタリン。その背後で大戦争が起こる星。
絵のタリン「ベセ◯ダのゲームはMOD積めば百年は余裕じゃな!」
タリンN『わしがちょこ~っと目を離した隙に、大戦争が勃発して』
  後ろをふり向くタリン。その背後で魔法使いの魂が昇天する星。
絵のタリン「!?」
タリンN『そこに暮らす魔法使いが全滅してしまった、そういう星じゃ』
  惑星を覗き込むタリン。地上は阿鼻叫喚の大騒ぎ。
絵のタリン「……わしゃ知~らないっと」
タリンN『今やその世界は【魔具】と呼ばれる危険なアイテムと、それを使って暴れまわる【魔具使い】で溢れかえっておる』

◯元の着地点
  ジョバンニ、顎に手を当て、
ジョバンニ「あの落書きに書いてあった内容とだいたい同じだな」
タリン「いかにも。で、わしは考えた。この星に平和をもたらすとともに、わしの動画チャンネルをバズらせる一石二鳥のアイデアはないものかと。そうして考えに考えた末、思いついたのが――」
ジョバンニ「魔具バトル」
タリン「そういうことじゃ。お主と魔具使いが戦うところを撮影して、カミチューブにアップする。人気が出れば広告収入をガッポガッポの一攫千金! さらにはその星も救われると。どうじゃ、すごいアイデアじゃろ?」
  ジョバンニ、膝を打って感心し、
ジョバンニ「なるほどねぇ! 脳足りんのタリンにしちゃ、なかなか良いこと思いついたじゃねえか!」
  と画面に顔を近づけ、
ジョバンニ「って、なんでオレを巻き込むの!?」
  タリン、ヘラヘラと、
タリン「まあ、そこはアレじゃ。わしなりの愛情というか、獅子が我が子を崖に落とすというか」
  ジョバンニ、地面を指さし、
ジョバンニ「テメーが今すぐここに来いや! 地上降臨しろ! 手続き踏めば来れるだろ? 中央管理局に行って書類出してこい!」
タリン「え~、でも神聖評議会の連中が反対するかもしれんしの~(モジモジ)」
ジョバンニ「しねーよ、反対なんか! テメーみてえなクソカス・弱小・ヘッポコ駄女神なんぞ誰も気にしねえっての!」
タリン「……ひどい言われようじゃのう。せ~っかくお主のために、今回はひとつ、チート能力を用意しておったのになぁ~」
ジョバンニ「……なんだそれ」
タリン「異世界転生でおなじみのアレじゃ。でもお主には必要ないようじゃし、わしも忙しいからそろそろ……」
ジョバンニ「いや、ちょっと待て」
  ジョバンニ、額に手を当て、
ジョバンニ(落ち着けオレ。仮にこいつがここに来ても邪魔になるだけだ。ここは感情を抑えて、能力だけもらっておくのが正解か)
  ジョバンニ、キレながら笑顔で、
ジョバンニ「いや~タリン様。オレが悪かったわ。言い過ぎた、マジで。許してくれ」
タリン「……な~んか無理して謝ってないか?」
ジョバンニ「ハッハッハ、そんなわけないだろー(棒読み)」
タリン「まあよいわ。何もなしじゃ流石に哀れじゃしの~。特別にくれてやるぞえ」
ジョバンニ(ヨシ!)
タリン「わしがお主に与えるチート能力、それは……」
ジョバンニ「それは?(ゴクリ)」
タリン「ジョバンニと魔具使いは惹かれ合う、じゃ」
ジョバンニ「……ハァ? なんだその、某バトルマンガみたいな設定は」
タリン「つまりアレじゃ。まんまパクリじゃな、パクリ」
ジョバンニ「ちょ、おまっ……それじゃオレの周りにどんどん敵が集まってくるってこと? ふざけんな!」
タリン「じゃが、その方が手っ取り早く済んでええじゃろ? 早く倒せば、早く帰れるんやで?」
ジョバンニ「んな簡単に言うなよ! だいたいオレには武器が……」
タリン「それなら心配無用じゃ。もうすぐお主の元に魔具使いが現れるじゃろ。そいつをブン殴って奪えばよろしい」
ジョバンニ「なっ! そんなにすぐに寄ってくるのか?」
タリン「お主の能力は、惑星に着地した時点で発動済みじゃ。わしの配慮に感謝するんじゃのう」
ジョバンニ「キィー! 丸腰の人間になんて真似を! 鬼! 悪魔! 神でなし!」
タリン「というわけで、わしゃそろそろゲームしたい……じゃなかった。仕事が残ってるから切るぞ。それじゃ、頑張ってのぅ~」
ジョバンニ「ちょっ、待て……」
  スマホ通話終了。ジョバンニ、頭をかきむしり、
ジョバンニ(殴って武器を奪え? 相手は魔具使いとかいう、わけわかんねえ連中だろ。どう考えても無理だろうが)
  と背後で、ガサッという音。
ジョバンニ(人の気配?)
  と慌てて地面に転がっていた木の棒を拾う。
ジョバンニ「誰だ!」
マーゴット「ついに見つけましたよ! 犯人さん!」
  とマーゴット登場。シスターの格好をした銀髪の美少女。脇に抱えた木箱(肩紐付き、実は魔具)の口をジョバンニの方に向けて、
マーゴット「あなたにはこの森で犯した罪を償ってもらいます!」
  ジョバンニ、呆然とし、
ジョバンニ(え? この娘が魔具使い? つーか、オレ……今からこの美少女をブン殴るの?)

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